コンスタンシアの失踪。
マルガリータは食事もそこそこに部屋を飛び出した。
コンスタンシアの性格から言って、勝手に部屋を出歩くわけもなく。それに例の事件以来、コンスタンシアは、一人で出歩くことができない。
マルガリータが最初に向かったのは、直属の上司であるマーズ将軍のいる場所だ。
そこで、マルガリータはコンスタンシアが行方をくらましたことを報告した。
「部屋に荒らされた様子はなかった」
そう報告したが、コンスタンシアのようなか弱い少女が、そうそう部屋が荒れるほど戦える訳がない。
あっさりと捕まって引きずっていかれても痕跡など残らないだろう。
「しかし、妙だな、最初の事件は暗殺が目的で、今度は誘拐か?」
「いや、最初のそれも目的は誘拐だったかもしれない。刃物で脅して言うことを聞かせようとしたのだが」
そこで言葉を切る。
その無言の中に、相手が悪かったという言葉が隠されていた。
「どうする?」
「まず、妃殿下に知らせます」
使える女官がたった一人しかいない状態で、コンスタンシアの不在をごまかすことはできない。
マーズ将軍もやむなしと、それに同意した。
「それと、誘拐となれば、嫌がる女を引きずった状態。あるいは気絶した女を袋詰めにした状態で、衛兵の目をごまかすことはできませんよね」
警備に大穴が開いているか、それとも秘密の通路があるのか。
「実際、ナダスティの統治下で、どういう改造がなされているか、わかったもんじゃないからな」
マーズ将軍の口調は苦い。
食事が終わったころあいだな、と、マルガリータは時間の算段をつける。
食事が済んだら後片付け。ミリエルはそうしたことも手を抜かない。
扉を開けると、案の定、ミリエルは汚れた皿を重ねていた。
「妃殿下、ご報告があります」
ミリエルはきょとんとした顔でマルガリータを見る。下級女官のお仕着せ姿のミリエルには、マルガリータはミリエルを妃殿下とは呼ばない。
「コンスタンシアの行方が知れません」
ミリエルは集めていた皿をテーブルの上に落とす。
陶器の皿がガチャガチャと鳴った。
「私が部屋に戻りますと、鍵が開いており、室内を隅々まで探しましたが、室内は完全に無人でした」
ミリエルの血の気が引く。
「それでどうしたの」
「マーズ将軍に報告しました。今頃は捜索が始まっているはずです」
ミリエルが調理に要した時間、そのうちどれくらいに拉致されたのか不明だが、周辺の捜索は始まっているはずだ。
抜け穴の探索も含めて。
「ミリエル、君はしばらくその格好でいろ」
レオナルドの言葉にミリエルは怪訝そうに振り返る。
「連れ去った女がミリエルじゃないとばれたら即始末される」
ミリエルの顔から更に血の気が引いた。