王城の日常
大分間が空いてしまいました。
できるだけ献立にバリエーションをと、ミリエルなりに努力した結果。すりおろした芋に卵をねりまぜて、それに、細かく切った人参やハーブを練りこんだテリーヌもどきが食卓に現れた。
それに何とか畑に生き残っていた葉野菜で作ったサラダ。そして、塩漬け肉の煮込み。
乏しい台所の食材で、品数を何とか作っていた。
「大分、努力をしているようだが、ミリエル、もうじき、サヴォワから救援物資が届く」
その言葉に、ミリエルの顔が一気に明るくなった。
毎日の献立だけではなく。城内を色々探検したさい食糧庫も覗いてみたのだ。そして、食料庫は、食材が置いてあるスペースよりも、空いているスペースのほうが多いことを知った。
このままでもつのだろうかと、本気で不安になっていたのだ。
「それで、その後サヴォワから使節がやってくる。その時までに、残しておいた女官を呼び寄せるつもりだ」
レオナルドなりに、ミリエルを粗末に扱ってはいないという意思表示をしなければならないらしい。ミリエルは小さく溜息をついた。
どうやらもうじき、この自由時間は終わるらしい。
下級女官の格好で、あっちこっち見てまわり、こっそり人の噂話に耳をそばだてる。
それなりに有意義な時間だったのだが。
「ミリエル。君の好奇心旺盛なところは嫌いではない。しかし、状況はあまりよくないこともわかっているはずだ。首を突っ込んでほしくないところは、こちらで指示する。絶対にそこには近づくな」
基本的に、ミリエルの気ままな行動を咎めないレオナルドにきっぱりといわれ、ミリエルも素直に頷く。
「定期報告も終わったし、冷めないうちに食べよう」
妹の心づくしにパーシヴァルは嬉々としてフォークを入れた。
マルガリータを引き連れて、ミリエルが自室に戻った後、レオナルドは仕事を再開していた。
レオナルドの前には仕事の山ができており、その上にミリエルが婚約者なら自分をかまえと自己主張してきたら身が持たない。ミリエルが自分で好きに動くのを許しているのは、単に、それを抑制するだけの気力がないからだった。
舞い戻ってきた自分に、謁見を申し出る貴族達。その数は日を追って増えていく。
無論味方が増えるのは喜ばしい。しかし、足元に擦り寄ってくる人間すべてが味方と言い切れるかどうか。
レオナルドは硬い自分の髪をかき上げた。そして扉の前に立つ臣下に、扉を開けるよう命じた。
そしてそのまま執務机に坐った状態で、恭しく恭順の礼をとる臣下を迎えた。
「マダン侯爵、ならびに、レザン伯爵、面を上げよ」
レオナルドの浪々とした声が響く。
皺んだ顔をした老人と、血色のよい壮年の男が並んでいる。
「王太子殿下、無事ご帰還お祝い申し上げます」
形だけは恭しいが。レオナルドは皮肉な目で、彼らを見ていた。
ミリエルが部屋に戻ると、マルガリータはマーズ将軍に呼び出され部屋を後にすることになった。
マルガリータはくどいほどに念を押して、一人で部屋から出るなと言い聞かせた。
そして間の悪いことに、コンスタンシアも古参の女官に呼び出されて、部屋を留守にしていた。
ミリエルは、書置きをざっと読むと、することがないと少々途方にくれた。
昼寝をしたくても、コルセットをしたままでは眠れないし。読む本もない。外に出て、気晴らしもできない。
ミリエルは、授業の帳面を出して勉強を再会することにした。