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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
129/210

困惑と疑念

 慌ててミリエルは簡素な灰色のドレスに着替え、髪を結い上げた。

 凝った形にまとめるのではなく。小さく後頭部でまとめる形だ。

 ミリエルの年齢のわりに地味な装いは、今のところ、王城では評判は悪くないようだった。

 ミリエルは普段は、自室にこもっていて、サヴォワのことを学ぶための授業のときだけ出てくる。そういう風に言われていた。

 実際は、下級女官姿で王城中を探検しているのだが、掃除道具を持った女官をしげしげと見る人間はほとんどいないので、今のところ、その二重生活はばれていない。

 後頭部にまとめた髪に、せめてこれくらいと水色のリボンをマルガリータが結んでいる。

「そういえば、もうすぐ、コンスタンシアが来るらしい」

 マルガリータが、リボンを結びがてらそんなことを言う。

 コンスタンシアは、ミリエルに成りすまして、適当な別荘に潜伏していたらしい。しかし、その囮作戦は結局失敗。このまま別荘においておくわけにもいかないので呼び戻すことにしたらしい。

 コンスタンシアの扱いをいよいよ考えねばならない。


 ミリエルが授業を終えて、とったノートを読みふけりながら歩いていくのをマルガリータが手を引いて歩いていく。

 これもいつものことになりつつある習慣だ。一度考え込んでしまったミリエルは周囲のことが完全にお留守になってしまうので、マルガリータが壁にぶつからないように手を引いてやる。

 その時も、前から歩いてくる人間の姿を見つけて、マルガリータはミリエルの前に出てぶつからないようにかばおうとした。

「妃殿下」

 感極まった様にその人影はミリエルたちの前に跪く。

 マルガリータが見たところ、それは小さな老人だった。着ている物からして身分は貴族以上。そのたっぷりとした衣装の中でおぼれるほど、枯れ木のようにやせこけた老人だった。

 その老人が、跪いた姿はまるきり頼りなく、倒れそうだとマルガリータは思った。

 慌ててミリエルの手から持っていたノートを奪う。

 ノートをとられてようやくミリエルも現状に気付き、慌てて威儀を改めた。

「どうか、お顔を上げてくださいな」

 ミリエルが取り繕った声で告げる。

 最近は、お姫様縁起も板についてきている。

 伏せた目と、唇に浮かべたあるかなしかの微笑。

 それだけ見ていれば上品なお姫様だ。

「ついに王太子殿下が悲願を達成され、妃殿下のような方が嫁がれてくる」

 そこまで言って感極まったように涙ぐむ。

「ようやくサヴォワに夜明けが訪れます」

 そのままミリエルの足元にすがりつく。その姿に、ミリエルは困惑した。

 いつまでもこのままでいるわけにもいかない。

「どうか、頭を上げてください、そのような姿勢では、お身体を冷やされます」

 枯れ木のような老人が、絨毯を敷いてあるとしても床にはいつくばっているのは身体に悪そうだ。

 とりあえず、ミリエルはそう忠告してやる。

 しかし、その言葉に更に感極まって泣き出してしまい。ミリエルとマルガリータはこっそり溜息をつき合った。


 パーシヴァルは、部下に、語るともなく呟いた。

「首謀者は死体で発見された。だから、リンツァーは軍隊ではなく。物資だけを送ることになる」

 静かに、報告書を弄びながら呟く。

「都合が良すぎる気がする」


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