荒れ果てた王城
本気であり合わせの昼食を用意した後、ミリエルは城内の探索に出かけた。
城内は、一部を除いて大分荒れていた。
一部とは、謀反人ナダスティが生活していたエリアで、それ以外は、まったくといっていいほど、まともに手入れがなされた形跡がなかった。
おそらくかなり長期にわたって掃除されていない区域との落差はすさまじいほどだった。
ある部屋など、扉を開けた瞬間、扉の開閉の風圧だけで舞い上がった埃で危うく窒息するところだった。
それ以外に、戦闘で焼け落ちた場所もある。
ミリエルは、先ほどの教訓で、長らく開け放たれた形跡のない扉を開ける際には、布巾で顔を覆うことにした。
廊下一つ曲がるだけで、あたりの様子は一変する。
廊下に敷き詰められた絨毯の色の違いが物悲しい光景だった。
「馬鹿みたい」
ミリエルはあきれ返ってそう呟いた。
サヴォワに来てしばらく経っている。その間に、ミリエルにも、内乱の起こった状況や、首謀者の動機などそれなりに耳に入ってきている。
王になればよりよい暮らしができる。それだけを盲信して行動を起こした愚かな男。
物事を維持するということは雑用の連続で、発展させようとすれば更なる雑用に終われる羽目になる。そんな簡単なことも知らずに成人してしまった哀れな男。
ミリエルはそんなことを思いながら、廊下を歩いていた。
そして、マルガリータが言っていた、使用人用の調理場を探してみることにした。
調理場は、巡回らしい兵士に聞けばすぐに教えてもらえた。
ミリエルが、下級女官のお仕着せ姿だったので、新たに雇われ、迷子になった新参者だろうと納得されたらしい。
そこは、ミリエルの想像以上に閑散としていた。
炉に火の気はなく。蜘蛛の巣が張っている。
マルガリータが言っていたように、風呂桶として使えそうな鍋もあるにはあったが、ずいぶんと長い間手入れがされていないらしく。赤錆が浮いていた。
フライパンにも錆が浮いたものがある。
フライパンやその他の鍋も、毎日使っていれば早々錆びたりはしないものだ。包丁も酷いものだった。いくつかは信まで錆びに食い尽くされて、ミリエルが持ち上げただけで、ぼろぼろに崩れ落ちた。
「このていたらくなのに、どうして今までレオナルドはこの王城を奪還できなかったのかしら」
ミリエルは、胸のうちだけで呟く。
この有様を見れば、ナダスティが、王城も国もその内政にも失敗したのは明らかだ。
誰だってこんな主には仕えたくないはずだ。そうそうに首を狩られ、レオナルドに献上しようとする人間が一人もいないなんてことがあるだろうか。
そして、誰がレオナルドを追い出したのだろう。
ナダスティではない、明らかに、それよりもはるかに有能な人物が裏で糸を引いていた。
そして、それがおそらく、ナダスティの口を塞いだのだ。
レオナルドがミリエルの調理をあっさりと認めるはずだ。おそらくその者はレオナルドの傍にいるのだ。おそらく味方のような顔をして。
ミリエルは自分の身体を抱きしめた。実際の寒さだけではない。寒気に襲われて。