サヴォワ城の台所
ミリエルは、女官のお仕着せ姿で台所を掃除していた。
ミリエルが普段の格好でそんなことをしていたら士気にかかわると言われたため、変装して台所に立っている。
マルガリータは上級の貴族出身女官のお仕着せ、今ミリエルが着ているのは、平民出身の、雑用係の女官の衣装だ。
マルガリータより下位の女官の衣装なので、少し裾が短く、足元が捌きやすい。
台所仕事は、貴族出身者がやることは基本的にありえないらしい。
白いエプロン姿もりりしく、ミリエルは台所の中を色々と調べていた。台所の真ん中に井戸が掘ってあり、壁際に各種鍋が置かれた棚と、竃がすえつけて合った。
食材は反対側の壁際に篭や樽に入って並べてある。
「粉類は、種類ごとに分類済み。野菜は、葉物がほとんどないな。芋に人参、日持ちの関係かな」
そんなことを言いながら、ミリエルは、食材を物色していく。
「ミリエル、手伝えることは?」
「誰か来ないか見張っていて、とにかく私が台所にいるところを見られたら、色々とややこしいみたいだから」
そう言いながらミリエルは作業する手を休めない。
「基本的に、食材は、レオナルド殿下用と他用に分けられていないみたいね」
ミリエルはそう言って、塩漬け肉の入った樽を開けてみる。
「卵もない、この状況で、何を作るべきか」
そのまま献立のことを考え込んでいたミリエルに、マルガリータが言った。
「ミリエル、王宮なんて場所は、台所は複数あるものなんだ」
ミリエルがはじかれたように、振り返る。
「ここは明らかに、そうたくさんの食材を調理する場所じゃない。つまり、王族専用の台所と考えていいんじゃないか」
ミリエルは目を瞬かせた。
「使用人用の台所なら、風呂桶より大きい鍋がごろごろしているはずだ」
ミリエルはさっきまで磨いていた鍋を見る。
一抱えほどの大鍋は、ミリエルにとって非常識に大きなものだが、更に大きい鍋があるといわれてもいまいち実感が湧かない。
「大体、城で働く使用人なんて何百人の単位だぞ、それの食事の用意だ。冗談抜きで、風呂桶ほどの鍋が必要だ。そしてそれいっぱいにするための食材を刻むために、丸太一本そのまんまという巨大なまな板も必要なんだ」
マルガリータの家事能力にはいささかの疑問がある、そのマルガリータがここまで具体的に説明する以上実際に見たことがあるのだろうかとミリエルは思った。
「子供の頃一度、城に上がったんだ。もっとも私は味噌っかすもいいところで、だからあまり人にかまってもらえなくて、適当にあっちこっちもぐりこんで遊んでいた。その時見たんだ」
マルガリータの暗い過去はさておき、そういう場所があるのなら、念のため確かめておく必要がある。
ミリエルは、芋と人参を刻み始めた。
そして、ミリエルが知っている普通サイズの鍋で、塩漬け肉と一緒に炒め合わせた。
あらかじめ汲み置いた水を、鍋に注ぐ。
鍋に蓋をすると、粉をこね始めた。
ミリエルは水団に逃げたようです。