再会の食卓3
きまずい食事も後半に入り、ミリエルの前にだけ焼き菓子が出された。
ミリエルの母親が作りそうな焼きっぱなしのお菓子だが、このような場合出してもらえるだけありがたいと、ミリエルはフォークをつきたてた。
中に果物の砂糖漬けが練りこんである。
考えてみれば甘いものなど随分食べていない。ミリエルは少しずつ味わいながら食べていた。
その傍らで、レオナルドとパーシヴァルの二人は、果実酒の杯を空けている。
パーシヴァルが見かけによらず酒豪なのを知っているレオナルドは、水のように酒を飲むパーシヴァルに、お代わりを注いでやる。
その様子にマルガリータは本当に人手不足なのだなと嘆息した。
仮にも王太子の晩餐に侍従の一人もついていないなど普通はありえない。
ましてや王太子が手酌や、相手に注いでやるという行為をするということも。
それだけ気安い仲なのだろうかと二人の様子を観察する。
マルガリータは、ミリエルの兄という以外。パーシヴァルに注目したことはない。
強烈過ぎる妹の陰に隠れた存在感の薄い貴族の青年にしか見えなかった。
しかし、ディートリヒの扱いについて、少々考えを改めた。
陰か陽かは別として、容姿も性格も似たもの兄弟なんじゃないかと思い直したのだ。
「そういえば、ミリエル、君のやりたかった経済活動のアイデアの様子はどう?」
「嫌味、そんなの今の段階じゃ思いつかないわよ。だって首都周辺のあの有様を見るとね、仮にも首都は、国の顔よ」
あの荒廃っぷりに住む人間の荒みっぷりを考えれば、ちょっとやそっとのことで、ミリエルの考える経済活動を軌道に乗せることができるわけがない。
「最初は、小さなことから少しずつ、にしても何をすればいいのか」
ミリエルは途方にくれた。
「いったい何の話だ?」
レオナルドが会話に入ろうとする。
「ミリエルがやりたいことは、お金儲けなんだ」
パーシヴァルがざっくりしすぎた発言をした。
「誤解を招く発言をしないように」
ミリエルが低い声でうなる。
「あたしが言ったのは、この国が復興するためにはお金が必要だってことよ、何よ人のこと守銭奴みたいに」
お菓子を食べる手を止めてミリエルがふてくされる。
「まあ、ゆっくり考えるといいよ」
「ゆっくり考える暇があるかしらね」
ミリエルは溜息をつく。
「まあ、ミリエル、それなら、適当な教師をつける。国の特産品とかその由来とか。それを勉強してからでも遅くはないだろう?」
「そうよね、急がば回れって言うものね」
ミリエルは苦笑しつつそれを受け入れた。
そしてパーシヴァルは小さく、レオナルドにだけ聞こえる声で囁く。
「言ったろう、ミリエルには適当な役目を与えておけばいいんだよ」
その言葉に、何かを見透かされた気がした。