再会の食卓
警護役の兵士は、静々と進んでくる貴婦人の姿に息を呑んだ。
黒と白を主体にしたドレス。そして、長い淡い金髪に結ばれた黒いリボン。
同じく黒っぽい衣装。これは女官の制服だったが、それを着た背の高い女性が従っている。
少女はまっすぐに背を伸ばし、すべるように進んでいく、それに従う女官も姿勢よく、きびきびと進んでいく。
一瞬ほうけていた兵士は、その少女が誰であるかを思い出し、一礼した。
もうじき王妃に就任する予定の少女は静かな表情で、無言で進んでいく。
レオナルドは、さきぶれの女官が扉を開けるをのを見ていた。
女官は一礼すると、身体を脇にどけ、その空いた場所にミリエルが滑り込む。
本日のミリエルの装いは全体的に黒っぽかった。
「ミリエル、随分とシックな装いだね」
「だってたくさんの人が亡くなったでしょう。あまり華やかな色合いのものは避けたほうがいいと思って」
ミリエルはかすかな、あるかないかの笑みを浮かべた。
黒もミリエルは似合う。とレオナルドは思った。
白い肌に色の薄い髪のミリエルを引き立てる色だと。
レオナルドの横にはすでにパーシヴァルが陣取っていた。
ミリエルはレオナルドの向かいの席に坐る。
「そういえば、聞こうと思って聞き損ねていたのですけど。コンスタンシアはどうなりました?」
ミリエルが、テーブルの上のナプキンを広げながらそう尋ねる。
「別の別荘だよ、そこにミリエルとして待機してもらっていた」
思わぬ返答にミリエルは目を見開いた。
「つまり、影武者として使ったの?」
「罪滅ぼしなら、安いくらいだ」
レオナルドの言葉に、ミリエルは少しためらいながら尋ねる。
「まだ無事なの?」
「そのようだ、まったく平穏無事に暮らしているらしい」
少々当てが外れたのか、レオナルドは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「それじゃ、随分と引きの強い男だったのね」
ミリエルは自分のいた別荘を襲撃してきた男の顔を思い出す。
確か今ではさすがに拘束を解いて、鍵のかかった部屋に閉じ込めていたはずだ。
「ラダスタン大公か」
いかにも忌々しそうにレオナルドは吐き捨てた。
「まあ、悪い方に引きが強かったというべきか」
パーシヴァルはうつむいたまま呟く。その時パーシヴァルの脳裏にはむごたらしく連行されてきたラダスタン大公の姿がありありと写っていた。
道中どういう目にあってきたのか、檻の中で蹲り、どうやら退行現象まで起こしているようなその様子に、あまり慈悲心のないと自負するパーシヴァルですら涙しそうになった。
「どういう目にあったのか、具体的には聞かなかったけどね」
パーシヴァルの言葉に、一部始終を見ていたマルガリータが明後日の方向に視線をずらす。
しばらく気まずい沈黙が落ちた。