ミリエル 王城に入る
馬車は瓦礫をよけながら進んでいく。
あちこちで建物が半壊から全壊しているため、歩みは遅遅として進まなかった。
街路樹は燃えて生えたまま消し炭になっているものもある。
「なかなか凄まじいね」
ミリエルは窓から外を眺めながら呟く。
ミリエルが子供の頃何度も歌った歌にかつての戦乱の世のありようを歌ったものもあった。歌の歌詞の内容がほとんど周囲の様子の描写になっていた。
実際の戦地にいた人間が作った歌だと聞いたことがあるので、ミリエルはどこの戦場もこんなものなんだろうかと思った。
ミリエルの目の前に、サヴォワ王城が少しずつ大きくなっていく。
すすけているが、元々は美しい蒼いタイルを主体とした外壁が見えてきた。
建物の周囲に鬱蒼と緑の木々が植えられている。
一部焼け落ちているし、剪定もろくにされていないのか、枝ぶりが少々不恰好になっていたが、それでも在りし日の姿が想像できた。
中心にひときわ背の高い巨大な建物が建っており、その周囲に輪を描くように複数の建物が経っているのが見えた。
ミリエルは、おそらく中心の建物が、王のいる執務棟だろうと見当をつける。
リンツァーでも一番大きな建物に、王の謁見の間だとか、円卓会議上だとかがしつらえられていた。
そうすると、レオナルドはあの辺りにいるのだろうか。
ミリエルは馬車を降りると、ひときわ高い建物を見つめる。
ミリエル一行に気付いたのか、何人かの兵士がミリエルの馬車に駆け寄ってくる。それをマーズ将軍の部下達がミリエルのことを説明していた。
すぐさま、ミリエルの馬車に敬礼すると、道の脇に立ってその場に跪く。
馬車は、そのまま進んでいく。
ミリエルは一度馬車を降りたほうが良かっただろうかと思ったが、誰もそれは言わなかったので、そのまま坐っていた。
窓の外では、ほかの兵士も、道の脇に跪きミリエルを見送っている。
入り口に辿り着いて、ミリエルは、小さく溜息をついた。
建物の青いタイル。それは微妙に濃淡を変えて、モザイク模様に配置されている。
タイルの大きさは、ミリエルの掌くらいだろうが、それを建物すべてに模様にして貼り付けるにはどれほどの労力がいっただろう。
レオナルドは、執務机で考え込んでいた。
部下の一人が、ミリエルの到着を告げた。
「すぐに呼べるか?」
「ご婦人が長旅を終えられたのですよ、最低限の身支度が終わるまで待つべきです」
部下の言葉に、レオナルドはしばらく考えてから頷いた。
最低風呂に入らせてやれという。含みだろう。
「それならば、晩餐をともにと伝えるように」
レオナルドの命令は、今度は遂行されるようだった。
ミリエルのための準備は、本当に最低限のものだった。
寝室と、応接間、二つの部屋を用意しただけ。未来の王妃としては余りに乏しい。
元々ミリエルが、贅沢を好まない。もとえ、贅沢を知らない女性だと知っているので、この程度の準備でもそう文句を言わないとわかっているが、少々後ろめたい。