背後に忍ぶ影
死体は、王城に運び込まれ、検死が行われる。
しかし、最初の判断どおり、毒殺以外の結論は出なかった。
これ以上調べても無駄だ。そう判断が下された後は、その死骸は、無縁墓地に投げ込まれるように処分されるのが決まった。
貨物袋に、塵のように詰め込まれ、再び死体は運び出されて行く。
そして最初の謎が残った。
いったい誰がナダスティを殺したのか。
怨恨ならばわざわざ殺すまでもない。捕らえられて処刑が決まっている人間だ。
追っ手を交わし逃げ切ったとしても、最終的に待っているのは野垂れ死にの運命だろう。
殺すまでもなくじきに死ぬのがわかっている相手だ。
「捕らえられて、尋問を受けたとき、話されてはまずいことがある人間がいたということだろうな」
レオナルドの言葉に、マーズ将軍は頷く。
「口封じですか、しかし、その場合、数が多すぎで特定が難しいでしょう。あの男の尻馬に乗って悪行を働いていた連中は多い。その連中がすべてあの男に押し付けて死んでもらおうと考えてもおかしくはないが」
「しかしだ、そううまく押し付けられるものか?」
「私はそうは思いませんよ、しかしそう思う連中もいる。そういう連中が、ああいうことをするんです」
レオナルドはなんとも納得しがたい表情をしていたが、これ以上話しても無駄だと、気持ちを切り替えた。
「奴が死んだ以上、裁判が色々やりにくくなりそうだな」
「首謀者は首謀者、共犯者は共犯者ですよ、裁きに妥協はありません」
息も絶え絶えに、ディートリヒは尋問に答えていく。
後ろ手に両手を縛られたままだということも今は気にならない。ミリエルがどう動くか、その一挙一動に怯えている。
ディートリヒが搾り出すように答えたその名前はミリエルには聞いたことがないものだった。
「ええと、その人誰?」
「今はわからないで結構です。ただ、王城につき次第殿下に報告します」
マーズ将軍直属の騎士がそう答えた。
ミリエルはそういわれて怪訝そうに首をかしげる。
「今んとこ、その人、王太子の味方を名乗ってるはずなんだ」
パーシヴァルの説明にミリエルの眉根は更に寄った。
「王太子の味方が私を排除しようとしたの?」
ミリエルには更に話がわからなくなった。ミリエルはレオナルドに不利な行動をとった覚えはない。
自覚がないだけでそういう行動に出ているのだろうか。
ミリエルが妙に落ち込んだ顔をしているので、パーシヴァルが慌てて、宥めた。
「つまり、リンツァーがサヴォワを侵略しようと思っているって勘違いしてるんだよ、もちろんそんな気は陛下にはないよ、でもそういう風に思い込んじゃってる人を納得させるのは色々と難しいんだ。それだけの話だ」
言われてもミリエルは納得できない顔だ。
「ああそうだ、あんた、ちゃんと口を塞いどきなさいよ、さもないと、死ぬまでやるわよ」
ミリエルの脅しにディートリヒは縛られたまま瞬時に三メートルは移動した。