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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
117/210

末路

 たった一人、彼は歩いていた。いつだって彼がそうしろといったらそれはそうなった。

 しかし、今ここには誰もいない、彼一人しか。

 久しく覚えたことのない空腹に彼は苦しめられていた。

 彼はわずかでも空腹を覚えれば食事を持ってこさせる。そんな生活を何年も続けていた。そのため、絶食に極めて弱い体質になっていた。

 あの抜け道に入る前迎えに来たあれから渡された袋。

 彼は手を伸ばして腰につけた袋を取った。

 乾した肉とパンが入っていた。無造作に彼はそれを口に入れる。


 レオナルドは部下に囲まれた格好で足を進めていた。

「随分と長い通路だな」

「できてから大分経っている感じですね。もしかしたら城が建築された当初からあったものかもしれませんね」

 マーズ将軍がカンテラで周辺の壁を照らす。

 コケと植物の根に一部侵食されつつあるその壁は、随分と時代を感じさせた。

「崩れてこないだろうな」

 恐る恐る壁を撫でる騎士もいる。

 カンテラが床を照らすと、やや厚めに積もった砂埃に、大人一人の足跡が照らし出される。

「随員は誰もいないのか?」

「見捨てて逃げたのか、それとも見捨てられたのか」

 そんなことを話しながら、足早に進む。

 足跡を辿るもの、周囲を見回して、奇襲を警戒するもの様々な方向を探っている

「やっぱりおかしい」

「何がです?」 

 レオナルドの様子をマーズ将軍は怪訝そうに見る。

「何がおかしいのか自分でも良くわからない。だが、確かに違和感を感じるんだ」

 口元を覆って考え込む姿勢を示す主に、黙って考え込ませることにした。

 おそらく丘ぐらいは貫通しているはず、と考えるほどの距離を歩ききったとき、ようやく出口が見えた。

 部下の一人が城の見取り図と周辺地図を取り出した。

「さて、いったいどの辺に出たのやら」

 そんなことを言いながら、カンテラを置いて、地図を確認する。

 いち早く通路から出た部下が周囲を窺っている。

「おい、ここに誰か倒れているぞ」

 その言葉に、マーズ将軍が駆け寄る。

 暗い色の衣装だが、カンテラの明かりでねっとりとした光沢を放つ。

 絹服を着た男など王族や貴族以上。

 うつぶせに倒れているその身体を身長に仰向かせた。

 長い黒髪が地面に広がる。そしてその顔があらわになる。

 長年の荒淫でむくんだその顔は、逆賊ナダスティのものだった。

「こんなところで自害か?」

 マーズ将軍が呟く。

「いや、違うだろう。これを見ろ」

 レオナルドが拾ったそれは、歯型のついたパンのかけら。

「調べてみればわかると思うが、おそらくこれに毒が仕込んであったのだろう」

「殿下、触っていないでください、こちらの袋に」

 そう言ってマーズ将軍は自分の懐から袋を取り出す。

「誰か、水を持っていないか、殿下の手を洗い流せ」

 部下に指示しながら、マーズ将軍は、服を剥いでいく。

「外傷らしいものはないですね」

 副官のデニスが死体にかがみこんで確認する。

「一度戻って担架をもってこい」

 部下に命じると、レオナルドに近づいた。

「殿下、これ以上ここにいらしてはいけません、もうお戻りください」

 レオナルドは頷く。そして肢体を振り返った。

「いったい誰が奴を殺す必要があったんだろう」




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