拷問
逆賊ナダスティ、かつてはサラザール大公と呼ばれていた。王の次の身分。それが彼の取りえる精一杯。
誰かに頭を下げるなどごめんだった。だから王にさえなればそんなことをしなくてすむ。ただそれだけの動機だった。
そして機会が来た。今いる王を殺し、そして王太子を殺せば言い。そうすればずっと王でいられる。
しかし、それは仕損じた。王と王妃は殺したが、王太子は取り逃がした。
それでも彼は王でいられた、これまでは。
何度か王太子は彼を追い落とそうとしたが、すでに王となったこの身に通じるものではなかった。
王となった彼の権力はたやすく王太子を蹴散らした。
彼が命じればそれは必ず叶う。
それが真実になるのに指して時間はかからなかった。
しかし、王太子を討ち取ることはかなわなかった。しかしそれさえ彼は気にすることはなかった。むしろ、王太子を追い払うたび自分の強大さを証明するようで、痛快だった。
時折、嘔吐して同化しろといってくる不快な人間はいた。そんな人間は彼は爪でも切るように処分させた。
そうしているうちにそんなことを言ってくる人間はどんどん減っていった。
それ以外は常に快適な生活が約束されていた。誰はばかることもなく、自由にこの国で彼を止められる者はいなかった。
ずっとこのままいられると思っていた。
今、彼は、暗い通路の中をさまよっている。
そして、通路を抜ければ、生き延びられる。それだけを信じて進んでいく。
これから冬が来る。寒い山中を、今まで、ただかしずかれていただけの男が、どれほど生き延びられるものか
それさえ知らずに彼は歩き続けていた。
ミリエルは、ディートリヒの身体をうつぶせに押さえさせた。
「それじゃ、拷問を始める」
ミリエルの合図で、押さえ込んだ騎士が、ディートリヒのわき腹を思いっきりくすぐった。
「拷問なのか?」
マルガリータが狐につままれたような顔で、それを見下ろしている。
「確かに、傷はつかないけどね」
パーシヴァルがなんともいえない表情で同じく見下ろしている。
「拷問よ、実際の戦争で使用された」
ミリエルは胸を張って言う。
「お兄様。まさかおじいちゃんが嘘をついたとでも」
パーシヴァルは慌てて答える」
「そうだね、おじいちゃんが嘘をつくはずないね」
「笑いすぎると、苦しいでしょ」
「確かにわき腹がつるね」
「長時間笑い続けると、呼吸ができなくなるし」
「笑い上戸の知り合いがむせてあれは苦しそうだったな」
パーシヴァルはしばらく考えてミリエルを見つめた。
「確かに、拷問かもね」
その傍らでディートリヒの笑い声はだんだん掠れてきた。ひくひくとわき腹が痙攣してくる。
「ああ、痛み出したな」
マルガリータが呟く。
「もうしばらく続けてから尋問を開始しましょう」
ミリエルはどこまでも無慈悲だった。
この拷問は本当にあったそうです。