尋問
ディートリヒはわけがわからなかった。どうして自分は罪人のように縄で拘束されているのだろうと。
「私にこのような無礼を働くとは、レオナルドが聞いたらなんというだろうな」
「その前に、君がしようとしたことを聞いたらどう思うか、それを心配したほうがいいんじゃない?」
自分のおかれた状況を相変わらず理解していないディートリヒに、パーシヴァルが忠告した。
「私はこの国のために」
「くだらない言い訳もここまで来ると見事だよ」
ディートリヒの寝言をパーシヴァルはばっさりと切る。
「でも、どうして私が貴方のものになると、この国のためなの、まさか、花嫁を横取りしたら玉座も横取りできるというあの噂を信じているの?」
ミリエルの言葉に、マーズ将軍配下の騎士が一気に殺気立つ。
「まさか、簒奪を狙っていたとは」
そう言って縛り上げられたディートリヒの喉元に件を突きつける。
「違う。私はただリンツァーの横行を止めるために」
ミリエルとマルガリータが顔を見合わせる。
「もしかして、コンスタンシアが間違えて殺されかけたあの時の」
ミリエルが王妃になればリンツァーに侵略されると、早手回しにミリエルを暗殺しようとして、当時偽ミリエルをやっていたコンスタンシアが刺されかけたのは記憶に新しい。その時の一派と通じているのかとミリエルは考えた。
「そういえば、あの貴族どうしたっけ」
マルガリータが記憶を探る。
「殿下と合流したときにそのまま引き渡されて今に至るはずだが、まだ生きてるかな」
すでに処分されていてもおかしくない。たとえ偽者だったとしても、王太子妃殺人未遂は、死罪が相当。そのような意思を持っていると立証されただけで裁判なしで処刑されたとしても文句は言えない
「まだ、生かしてはあるはずです」
これもマーズ将軍の配下の言葉だ。
「でも、この人一人でそんなこと思いつくかしら」
ミリエルの言葉にそれぞれで顔を見合わせる。
「こうなったら方法は一つ、拷問にかけるわ」
ミリエルがこともなげに言う。それをパーシヴァルが慌てて止める。
「ミリエル、拷問に欠けたら傷で色々ばれるだろう、言い訳を考えたのか?」
ミリエルがにっこりと笑う。
「大丈夫、黒獅子傭兵団には各種拷問スキルが確立されているわ、その中には相手に傷一つつけずに地獄の苦しみを与えるものもあるの」
「傷一つね、ならいいよ」
もとよりディートリヒのみを案じてのことではないので、パーシヴァルはっさりと拷問賛成に回った。
「具体的にどうするんだ」
誰も止める様子がないので、ディートリヒは忙しく周囲を見回す。しかしミリエルはマルガリータにこそこそと何事か囁いている。
「任せて、かつて猛将と恐れられていた捕虜が、この拷問であっさり味方を裏切った。この拷問に耐え切った人間はいないといわれる特別をあげる」
闇夜にもかかわらずその笑顔は輝くようだった。