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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
114/210

愚か者の失言

 ミリエルは妙な気配で目が覚めた。

 馬車の扉が開けられ、風が吹き込んできた。

 ミリエルは、そっと手を伸ばし、黒鞄から細身のナイフを抜いた。

 そして、扉を開けた者の気配を探る。

 それは無造作にミリエルに手を伸ばしてきた。その手を狙い済ましてナイフを振るう。

「うわあ」

 妙に間抜けな声を上げて相手がのけぞる。ミリエルはナイフを身体の前にかざして、武装していることを示した。

 手ごたえは浅かった。縫うほどもない傷だ。しかし、いっこうにミリエルに向かって気はしない。

 たかが短剣一本でとミリエルは舌打ちをする。

「何をしている」

 馬車の外のほうから低い声が聞こえた。女性のものとしてはやや掠れたその声の主は、考えるまでもなくマルガリータだった。

 相手の肩をひき掴み馬車の扉から引き剥がす。

 ミリエルはナイフを構えたまま降りてきた。

 マルガリータに押さえつけられている相手の顔を見たとたん、ミリエルは嘆息した。

 ああやっぱりと。

 マルガリータを女と侮り、何とか振りはがそうともがいているのは間違いなくディートリヒだった。

「何の御用だったのかしら、女性の、眠っている場所の扉を開ける前に、まず、一声かけるのが礼儀ではなくて」

 ナイフを手許で弄びながら囁く。

 不寝番をしていた騎士も、物音を聞きつけ駆けつけてくる。

 そしてマルガリータに押さえ込まれているディートリヒを見て一様に絶句していた。

「何をしていらっしゃるので」

 異様なほど丁寧に、地面に顔をこすられているディートリヒに話しかける。

 そして、一人がミリエルの持つナイフに気付いた。

 その刃先がちで濡れているのを見て、何をしようとしたのかは察しをつけることができた。

「ミリエル姫、この無礼な女をどけさせたらどうです」

 自分の立場をわかっていない発言に居合わせた全員が呆れ果てた。

「一つだけ申しておく事がございます。私が休んでいる場所の扉を開けていいのはこの場ではマルガリータただ一人です。それを守らなかったので今そういう目にあっておられるということわかっておられますか」

 ミリエルは異様に丁寧に、状況を説明してやる。

 それが理解できたかは不明だが、再びマルガリータの手から逃れようともがき始める。

「どうしてこうなるんだ、とっくに私の自由になっているはずだろう」

 自暴自棄の叫びに、ミリエルの眉根が思いっきり寄る。

「どうして私が貴方の自由にならなければならないのかしら」

 その時、その場にいたディートリヒ以外の人間は全員ミリエルの性格をわかっていた。

「どうして、ミリエルが君の自由にならなければならないのかな」

 遅ればせながらやってきたパーシヴァルの声に凍りついた空気が砕ける。

「遅かったわねお兄様」

「寝袋からなかなか這い出せなくてね」

 ふかふかに手足をとられ、なかなか出られなくなったらしい。

「こんなところで使うのは危ないんじゃない?」

 ミリエルは当然の心配をした。寝袋の中で手も足も出ないで逃げ遅れるなど洒落にならない。

「ま、とにかく、最初の僕の質問に答えてくれる?それと、疲れない、適当な紐で縛り上げるべきじゃ」

 ディートリヒを押さえ込んだマルガリータに提案しつつ、パーシヴァルはディートリヒの顔を覗き込んだ。



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