王妃になる理由
パーシヴァルは、カラバールからの迎えが来たという知らせを聞いて破顔した。
どうやら親友は悲願を達成したらしい。
そして、妹は話を聞いてすぐに荷造りを始めていた。
自分から率先して、衣類や、書類をまとめていく妹に微笑ましく思いながら、一時作業中止を要求した。
ミリエルは張り切って仕事をしていたのを止められて少し不貞腐れている。
「あのね、ミリエル。ちょっとおかしいと思うんだけど、どうしてディードリヒ殿下はミリエルに付きまとうんだろうね」
不愉快な名前を聞いてミリエルの眦がつり上がる。
「そんなこと私が聞きたいわよ」
とたんに形相が変わった妹を落ち着かせようと頭を撫でながら、パーシヴァルは続ける。
「僕がおかしいと言ったのはね、君、彼の好みじゃ全然ないんだよ」
そういいながら、パーシヴァルは、以前会った時、ディートリヒがはべらせていた女達を思い出していた。
「そうなんだ、間違いない、君みたいに、顔はまあ可愛いけど、胸はかろうじて膨らんでいる幼児体型は、絶対彼の好みじゃない。というか、彼は胸は突き出し、腰はくびれて、尻が突き出した極めてわかりやすい女性の好みをしていたはずだ」
ミリエルに対しても失礼だが、女性全般にも微妙に失礼なことを言い募るパーシヴァルにミリエルのこめかみに青筋が浮かんだ。
「だめだよ、ミリエル、眉間にしわが寄ってる、数少ないとりえの、可愛い顔が台無しだよ」
「お兄ちゃん、あたしに喧嘩を売ってるの。言っておくけどあたし、喧嘩は安く叩き買うので有名だったのよ」
ポキッと指を鳴らすミリエルに、パーシヴァルは苦笑した。
「ミリエル、君に喧嘩を売るわけないだろう、このか弱い僕が、それに僕は事実をそのまま言っただけだ。君が理不尽なことを言われたなら喧嘩を売られたと思いなさい」
「お兄ちゃん、言葉には気をつけてよね、あたし、誰でもいいからぶん殴りたい気分なんだから」
「確かに、レオナルドも不親切だよね、血祭りに上げる人間があらかたいなくなってから君を呼び寄せるなんて」
どちらかというと、書類仕事よりも、荒事のほうが向いている妹を、戦場に連れて行かないなんて薄情なことをしたものだとパーシヴァルは思っていた。
それでもミリエルの足止めを引き受けた。
「で、ミリエル、君は王妃になって何をしたい?」
急に変わった話に、ミリエルは目を瞬かせた。
「何よ急に」
「いや、真剣な話、僕達話したよね。王様になるのが最終目的の奴は王様になっちゃいけない。王様になって何かしようとする、それが最低条件だって」
パーシヴァルの言葉に、ミリエルはそんなことを話したかと記憶を探る。
「それなら、王妃もまたそうじゃないかなってそう思わない? 君はどんな王妃になるつもり?」
ミリエルは即答した。
「やりたいことは経済復興」
余りにあっさりと答えられて、パーシヴァルは絶句した。
「とにかく、新規に産業を起こすか、今ある産業を支援するか、そうやって、気持ちよく税金を払ってもらうの」
力強く断言するミリエルに、パーシヴァルは苦笑するしかなかった。