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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
106/210

影でうごめくもの


 建物の影で、ディードリヒは小さく溜息をついた。

 第一印象で少し失敗してしまった。

 しかし、所詮は小娘だ、いずれ自分のいいようになるだろう。

 サヴォワは、このままではリンツァーに一方的に借りを作ることになる。それを阻止するのが彼の役目。

 リンツァーが送りつけてきた王妃候補ミリエル姫。彼女を使ってリンツァーの失地を作る。

 例えば、他の王族との不義とか。

 レオナルドは少々不快に思うだろうが、最終的にはサヴォワのためだ。大目に見てくれるだろう。

 身体つきは貧相だが、顔立ちはまあまあ、ちょっとした遊び相手になら丁度いい。

 傷物の花嫁はさっさとリンツァーに送り返し、もっとましな花嫁を迎えたら、きっとレオナルドも自分に感謝するはずだ。

 いかにも生真面目そうな少女だった。しかし、考えようによっては、免疫がないということでもある。それならばちょっとてこずるかもしれないが簡単に自分の虜にできるだろう。

 彼はミリエルの不貞をリンツァーの貸しとしてサヴォワに有利に両国の関係を進めようとしている。

 実際は、そうそそのかされたのだ。

 彼に国際問題を進める頭はない。ただ都合のいい話を吹き込まれ、それをさも自分で考えたように思い込んでいるだけ。

 しかし、彼は知らない、その計画が決して成功しないことを。

 泥酔状態の彼に、軽蔑の視線を隠そうともせず肘を叩き込み追うと発作に苦しむ彼を嫌悪の眼差しで見つめていた少女。

 泥酔状態であったがゆえに、かれはその顔を忘れてしまったが、相手はしっかりと覚えていた。

 ミリエルの心に相手への軽蔑がきっちりと刻まれている。軽蔑、それは嫌悪よりもはるかに愛が芽生えにくい感情であることを彼はまだ知らない。


 レオナルドの軍勢はすでに王城を包囲していた。

 水も漏らさぬほう妹はまさにこれといった完璧な包囲網、その中心にいて、レオナルドは浮かない表情を浮かべていた。

「いかがされましたか、殿下」

「おかしいと思わないか、マーズ将軍」

「おかしいと申されますと」

 マーズ将軍は怪訝な表情で主を見やる。

「簡単にいきすぎなんだ、確かに、今回は失敗するわけには行かない、推考に推考を重ねた作戦だ。うまくいかないはずはないと思ってる、しかし、それにしてもうまくいきすぎなんだ」

 マーズ将軍はレオナルドが何を言っているかしばらく理解できなかった。

「今までは何だったんだ」

 そう、レオナルドは何度もこのような状況に挑んできた。そしてそのたびに跳ね返された。

 その時は思っていた。自分が子供で力不足だからと。しかし、今たやすく陥落の様子を見せる王城を前にして、奇妙な手ごたえのなさを感じる。

 肝心なものが抜け落ちてしまっているような。

 これで終わるはずがない、胸の内、どこかで警報がなっている。

「だが、ここでためらっている場合ではないな」

 レオナルドは迷いを吹ききるように、攻撃の合図を出した。


 仕事もせず、ミリエルの前を行きつ戻りつしながらちょっかいをかけてくるディードリヒに、ミリエルのこめかみに血管が浮かぶ。

「マルガリータ、許すわ、適当に絞めてその辺捨ててきて」

「いや、立場上、私が手を下すわけには」

「そう、なら私が脳天叩き割る」

 ミリエルのスカートの下で不穏な、鎖の鳴る音がする。

 慌ててマルガリータはミリエルを押さえ込もうとした。

 死の縁をさまよっているとも知らず、ディートリヒは無駄ににこやかに愛想を振りまいていた。


 ディードリヒはただの馬鹿です。レオナルドは、事態の黒幕に気付きつつあるというところですか。

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