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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
104/210

不愉快な過去

 十四歳だったミリエルは、その日友人達と小物を買いに商店街をそぞろ歩いていた。

 その日も何の変哲もない一日になるはずだった。

 しかし、そこであるはずもないものを見た。

 道の真ん中でへべれけになって騒いでいる騎士団の格好をした三人組。

 その甘ったるい異臭にその場にいた少女達は眉をひそめた。

 そして遠回りして避けようとしたその時、一人が、少女達の腕を掴んできたのだ。

 そのまま寄った勢いのまま引きずり回し始めた。

 腕をつかまれた少女の姫に、周囲の人間の視線が一気に集まる。

 ミリエルはその男に体当たりをして引き倒した。

 もう一人が倒れた男の頭を蹴る。

 おとなしそうな少女達だと思って、絡んできた男達は思わぬ反撃を受けて頭に血が上ったのだろう。

 ミリエルを捕まえようとしたがミリエルは無言で相手の鳩尾に肘を入れる。

 泥酔状態で、この攻撃はきつい。その場で胃の中身を吐き始めた。

 ミリエルは慌ててその場を飛びのいて被害を免れた。

 この反撃で完全に相手は逆上した。腰の剣を抜いたのだ。

 ここはサン・シモンのグランデ、サフラン商工会お膝元の商店街なのだ。

 そこで、酔っ払って管を巻く、それくらいなら許されても、買い物客の女性に絡む。それもすぐ引き下がるならよし、しかし、刃物を抜いてしまってはすべてが終わる。

 続々と周囲から人が集まり、三人を取り囲んだ。

 そしてミリエルを含む少女達は隔離され、その場で袋叩きにされた揚句適当な建物の壁に吊るされ、ご丁寧に、『サフラン商工会に逆らった愚か者、ご自由に石を投げてください。』という張り紙まで張られた。

 子供達は嬉々として石を投げる。

 ミリエルは冷たい目でぐるぐる巻きで縛られた男達を見ていたが、すぐに興味を失い、そのままその場を後にした。

 後日聞いた話ではその後半日吊るされたままで、ようやく騎士団が引き取りに来たという。

 

 それは不愉快な記憶。しかし、よりによってサフラン商工会のお膝下で、あそこまで傍若無人な行いに手を染める輩がいたとはとあきれ返ったのも事実。

 なるほど、サン・シモン生まれではなかったのか。

 ミリエルはやっと少しだけ納得できた。

 サン・シモンの騎士団に、サフラン商工会に正面から喧嘩を売れる度胸のある人間はそうそういない。

 まあ、一部、いないことはないが、それはグランデから離れた地方からやってきた御のぼりさんぐらいだ。

 そうした連中も、すぐに思い知るのだ。サン。シモンの商店街は騎士団に容赦しないと。

 いや、その前に、同僚から忠告されるし、周囲の人間が馬鹿を食い止めようと尽力する。それがまったくなされていなかったと今にして思う。

 サヴォワから逃げてどういうつてで、サン・シモンの騎士団に入団することになったのか、そのいきさつは不明だが、たぶん、母親あたりがサン・シモンの貴族出身だったのだろう。

 ディードリヒ・シュタイン、ミリエルの肘を鳩尾で味わった男。

「あの男、私の母国の王太子に、似ていた」

 マルガリータが嫌そうに言う。

「よかったね、国を離れて、あんなのが王太子だったら未来なんてないよ」

 ミリエルは心から言った。そして、去年の不愉快な話を語り始めた。


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