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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
103/210

不愉快な出来事

 様々な書類や帳簿を各人が調べているその時、妙に場違いな人間が入ってきた。

 かなり高位の貴族らしい物腰で、尊大さが、表面に浮き出している。

長い栗色の髪を背中にたらし、金糸の入った衣装を着て、巨大な羽飾りの付いた。帽子を胸に抱いている。

 その派手ないでたちに顔立ちがかすみそうだが、それなりに整った様子だと思った。

 サヴォワ人は比較的、髪や瞳の色が濃い傾向があるが、それを考えるとおそらく標準的なサヴォワ人だろう。

「すまないが、お茶を持ってきてもらえるか」

 その発言は空気を読まないことおびただしい。

 何だって、今仕事中のところに来てお茶を要求するんだ。

 その時、その場にいた全員の気持ちが一致した。

 お茶汲みならと、いつの間にか雑用係をおおせつかっていたマルガリータが腰を上げる。

「おい、そんな不細工な女の淹れたお茶を私に飲ませる気か」

 ピシッと空気に罅が入る音がした。

 そして一番粗末な机を使っているミリエルに目を留めた。

「そこの可愛い子、その子がいいな、お茶を淹れて」

 彼は気付かなかったが、その時、空気は完全に凍り付いていた。

 その時、ミリエルは比較的地味な色合いのドレスを着ていた。だから、気付かないのも無理はなく、また普通王太子妃がこんなところにいるとも思わないだろう。

 しかし、この失態はそれで言い訳がつくものではなかった、。

 一同仕事も忘れて凍りつく中、ミリエルは無言で立ち上がり、茶器のある場所へ向かった。そのまま無言でお茶を淹れている。

 周囲の文官たちは固唾を呑んでその様子を見ていた。

 ミリエルは無言で、適当な机に茶碗を叩きつけた。

「お茶です」

 それだけ言って再びもとの机に戻り、作業を再開する。

 何か言いたそうにミリエルを見ていたが、ミリエルは完全無視。

「ああ、そうだ、妃殿下を知らないか、お部屋を訪ねたがいらっしゃらないんだ」

 その言葉に再び全員硬直する。

「誰に聞いてもわからないといわれて、ここが最後なんだが、本当にどこにいるやら」

 その言葉に、勇気を振り絞った一人が言った。

「妃殿下でしたら、こちらに」

 そう言ってミリエルの机を示す。

 さあ、どうしよう。そのまま凍りついたように二人を見ていた。そしてその場のミリエルを除く全員の仕事の手が止まっていた。

 さすがに困った顔で、彼はミリエルを見た。

「妃殿下にはご無礼を」

「お茶を頼まれたことぐらいで無礼とは思いません」

「それはお心が広い……」

「先ほど、彼女を不器量呼ばわりしたことこそ無礼でしょう」

 ミリエルは一刀両断に相手の言葉を叩き切った。

「彼女は私が信を置いている相手です、そのの人相手に暴言を吐くような人とお話したくはありません、用事があるなら文書にして提出なさってください」

 目を半眼にして相手を睨む。

「もはや用はないでしょう、さっさと出て行きなさい」

 自分の胸の高さまでしかない相手に、容赦なくそういわれてすごすごと彼は出て行く。

「あの、妃殿下、あの方は王太子殿下の従兄弟に当たる、ディードリヒ・シュタイン殿下ですが」

 カインが恐る恐るそういう。

「そう、ろくでもない親戚がいるのね」

 ミリエルは興味なしという態度を崩さなかった。

 ミリエルはかつてディードリヒ・シュタインと出会った二年前のことを思い出していた。



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