レオナルドの逡巡
彼は常に不満を抱いていた。彼は高い身分と豊富な資産に恵まれていた。
誰からも羨まれる立場だった。
しかし、彼は不満の塊だった。
彼よりも身分の高いものがいたからだ。
彼は王に頭を下げねばならなかった。彼が王でなかったから。それが我慢ならなかった。ただ子供のようにそれをほしがった。
物心付いたときから、何を望んでも与えられる立場にいた。だからそれも与えられるべきだった。
そして彼は最後の一線を踏み越えた。
レオナルドは、首都に入った。
事前に首都入りさせていた工作員達のおかげで、意外なくらいすんなりと、軍勢を進めることができた。
正統な王子、それが彼の肩書き、そして軍勢を進める大義名分。
あの日、両親を殺され、乳母や護衛騎士に囲まれて命からがら、王城を脱出し、母方の親族のいるリンツァーにつれて来られた。
そして、来る日も来る日も繰り返された言葉、お前は正統な王子。
その言葉は、常に彼にまとわり付いた。
幼い頃は、ただその言葉ゆえに、王位を奪還せねばならないとただ信じていた。
しかし、徐々に荒廃していく母国の現状を見るにつけ、それを何とかせねばと考え始めた。
そして、王位を奪還せねば、最初の一歩を踏み出すこともできないのだとそう思ったとき、正当な王子という言葉は彼にとってただの大義名分になった。
母国を復興する、それが第一の目的、そのためなら、何を利用してもいい。
その利用する一つが、リンツァーの王族、ミリエルだった。
リンツァーで数少ない友人の妹。
少女のことで知っている情報はそれだけだった。
すべてが終わればミリエルと結婚する。そして、リンツァーの援助の下に、サヴォワを復興する。
ミリエルはそのためのお飾りの王妃。
しかし、ミリエルがお飾りの位置にそのまま坐っているか。それは大いに怪しいと彼は思いだした。
ミリエルは彼が想定していたよりもはるかに活動的で、なおかつ頭も切れ、無駄に知識も豊富だった。
それが問題だった。
王妃として実権を握ったときに、ミリエルがどういう行動に出るか、それが読めない。
今までだって、ミリエルは彼の予想を超えて動き続けている。
だからつれてきたくなかった。
彼女は、もしかしたら自分の思惑を超えてしまうかもしれないと思ったから。
ミリエルを足止めしておくと、パーシヴァルが請け負ったとき、本気で安堵した。
ミリエルを危険な目にあわせたくないというのは、たぶん言い訳だ。
ずっと人形のように将来の花嫁を考えていた。
しかし、そう思えていたのは、初めて出会ったときだけだった。
ミリエルは常に、自分がミリエルだと主張してきた。
それが彼の思惑を壊す。