首都グランデの作戦 2
家に戻ると。祖父と母が難しい顔をして、考え込んでいる。
「おじいちゃん、いっそのことデマを飛ばすのはどう」
ミリエルは思いついたことを言ってみた。
「あのね、必ず大きな商売をした後に、襲われているでしょう。だから、でっち上げの大きな商売を作って、おびき出すの」
ミリエルの提案に、祖父のダニーロと母のアマンダは顔を見合わせた。
「確かに、この商工会内に何らかの情報網を持っていることは間違いないだろう。しかし、偽情報だと、そっちに流れたらどうするんだ」
「だから、その教われる人と、その関係者、偽情報だと知っている人は絞り込むの、その上で、適度なデマを流す。その辺は軍人達にはできない、あたし達サフラン商工会の構成員にしかね」
実際軍が動いてはいるがその働きははかばかしかない。
なまじ大概の犯罪はサフラン商工会の中で解決され、軍人達はすでに取り押さえられた犯人を引き取りに来るしかないという現場不足もそれを助長しているらしい。
最近では街で軍人を見かけると、税金泥棒と冷たい視線を向ける人間も少なくないという。
「そうだな、しかしだ、そう考えればだ、誰かが情報を流していると言うことになる」
「おじいちゃん、そんなの今更でしょう。大体サフラン商工会に不届き者が一人もいないなんて能天気なこと考えてる人なんていないわ。だから定期的に販売物の品質チェックや、仕入先の原価チェックなんかがあるんでしょう。誰かが不法なぼろ儲けをしないために」
ミリエルの言葉に、ダニーロも頷く。
「お前の言うとおりだ。誰も彼も聖人なんて組織はこの世に存在しない」
「そりゃそうだけど、それなら誰が怪しいか、最低限の絞込みが必要なんじゃないの」
アマンダもそう言ってミリエルを見る。
「その辺には、母さんのおばさん情報網を利用すべきね、不自然な金の使い方をしている人間を探すにはそれが一番だもん。大体買い物客の相手をするのはおばちゃんだし。明らかに人間と物の釣り合っていない連中を探り出すのにうってつけってもんじゃない」
アマンダは口元に手を当てて考え込む。
「だけど、そのおばちゃん情報網に、その裏切り者がいないとも限らない」
「それならすぐわかるでしょう。おばちゃんがちょっと浮いた連中を見逃すわけがない」
アマンダとダニーロはしばらく考え込んでいたがダニーロが壁にかけてあった上着を取りに行った。
「ちょっとアルマンのところに言ってくる。留守番を頼むぞ二人とも」
アルマンは商工会長黒獅子の本名だった。
幼少期から親しい親友同士。ダニーロがミリエルの提案を検討してみる気になったらしい。
「行ってらっしゃいおじいちゃん」
ミリエルは微笑んで見送った。
「そういえば練習はどうなっているの」
秋のお祭りの話になってミリエルはきまづい思いをする。
慣れない竪琴の練習は少々行き詰まりぎみだ。
「練習あっちで居残りになるかも」
どんよりとミリエルが答えた。
「竪琴じゃねえ」
竪琴のような大型の楽器はミリエルの家に置くスペースがない。
リュートならば家でいくらでも練習できるのだが、あいにくミリエルより年かさの少女達がパートを確保してしまった。
「合唱はまだいいんだけどね」
オリジナル曲が、子供の頃に出合った幽霊の話でなければ。
ミリエルは幽霊が大嫌いだ。何故なら殴れないから。殴って追い払えないものはみんな嫌いだった。