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異世界

「先生、《異世界》というものは本当に存在するんですか?」

「……《異世界》、ですか? またずいぶんと珍しい単語が出てきたものですね。どうしたんですか?」

「この小説に出てきたんです」

「なるほど、小説ですか。最近はこの世界ではないどこか別の世界を物語の舞台とするものが増えましたからね。それ、面白かったですか?」

「はい。でも、この世界とはまったく異なる世界なんて、そんなものが本当に存在するんでしょうか」

「それは……どうなんでしょう。私は実際に見たことがありませんから」

「じゃあ、やっぱり存在しないんですか?」

「そうとは限りませんよ。見たことがない、ということは、存在の否定ではありません。見たことがないのだから、否定することも肯定することもできないのですよ」

「じゃあ、誰にもわからないんですか?」

「そうですね。この世界に、実際に異世界を見たひとはいないでしょう。……かつてはいたかもしれません、けれど、今は誰もいないでしょうね」

「どういうことですか?」

「異世界へと通じる《道》を作る魔術は、一応存在が確認されているのです」

「ほんとうですか!?」

「ええ。その魔術を使ったひとはいるということは記録に残っているそうなのですが、確認が取れないのです。そのひとは忽然とこの世界から姿を消してしまったのです」

「消えてしまったんですか……?」

「消えてしまった、というと語弊があるかもしれませんね……。記録では、『異世界への道を通り、二度と戻ってこなかった』とされています。たしか、それは当の魔術師の弟子が残したものだったと思います。相当昔のことなので、それが真実かは定かではありませんけれど」

「戻って、こなかった……」

「ええ。……異世界というものは存在するかもしれません。たしかに、存在する世界がこの世界ひとつだけだということは、誰にも証明できていません。その証明が成されない限り、《異世界》の存在は否定することはできません。けれど、一度異世界へ渡ってしまうと、なんらかの理由でこちらへは戻って来れなくなるのだと考えられています。これについては諸説あります。魔術で繋いだ道はとても不安定で、通り抜ける際になんらかのダメージを受けるため、それを恐れて戻ってこないのだ、と言うひともいますし。異世界では魔術が使えないのではないか、と言うひともいます。異世界など存在しなくて、どことも知れぬ場所に出てしまい、そのままのたれ死んだのではないかという意見も、聞いたことがありますね」

「全然統一性がないんですね」

「ええ。憶測でしか意見が出ません。なにせ、誰も試さないのですから」

「戻って来れなくなるからですか?」

「それもありますが……。気づきませんか? 異世界への《道》を作るということは、《こちらの世界》と《あちらの世界》に孔を開けることになるんです」

「あ! それじゃあ《召喚魔術》と同じで、《瘴気》が発生してしまうんじゃ……」

「そう言われています。だからこれも、禁止されている魔術の一つなんですよ。だからみな、興味は抱いても、それ以上の行動を起こそうなどとは考えもしないのです。もしかすると、こっそり試した者はいるかもしれませんね。けれど、《闇》の魔術が禁止されて長いですから、そういったことは最近の記録には残っていません。……リデルは異世界に興味がありますか?」

「……そう、ですね。この小説を読んでいても、なんだかピンとこなくて。実際にあるなら、そこがどんな世界なのか、見てみたいと思います」

「そうですね。でも、だめですよ?」

「わかっています、先生」


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