知れば知るほど謎は深まる
偽物ですが、流血表現があります。苦手な方はご注意ください。
平気な方は、鼻で笑ってください。
西城君を伴っての帰り道。
学生寮は学園東に位置しているから、ゆっくり歩いても10分程で着く。
「学園について、何か分からない事があれば聞いてくれ。分かるかぎりは答えよう」
「七不思議は――」
「寮の部屋は全て個室だ。部屋には、小さいがユニットバス付き。
1階に大浴場もあるから、夕食の後で案内しよう」
「混よ」
「常識的な男女別風呂だ。利用時間は夕方4時から夜11時まで。
あぁ、消灯は12時だ」
「随分遅い消灯ですね」
……やっとまともな反応が返ってきた。
「G棟生は、事前に申請すれば校舎に残ることが出来る。
実験や論文作成、試験勉強のために10時までは実験室や図書室が利用出来る。
その分、消灯も遅めなんだ」
「なるほど。納得しました」
「他に何かあるか?」
「寮は男女別ではないんですよね? 性的な問題が起きたりはしないんですか?」
仮にも(なにげに失礼です)女性なのだから、少しは聞きにくそうにするとかないのだろうか?
「ない。
寮は、G棟とS棟では分かれているが、どちらも男女は同じ寮だ。
だが、今迄に問題が起きた事はない。
……知っているし、納得しているからだと、言われているな」
「どういう事でしょう?」
「……G棟生は『危険性』を『理解』しているから、S棟生は『立場』を『納得』しているから。
それぞれの理由で、問題は起きないんだ」
「なるほど、そういう『理解』と『納得』なのですね。
チャンチャラおかしいですね」
は?
「――西城君、今、何か」
「しっ! 何か、聞こえませんか?」
「えっ?」
急に真面目な雰囲気になった彼女に、促されるように耳を澄ます。
「あっちから聞こえてくるようですね……行ってみますか?」
私の耳にも、言い争うような声が届いた。
S棟校舎から寮への道。おそらく、この声の正体は
「……西城君、行こう」
私は、彼女の手を取って、寮へ続く道を再び進みはじめた。
声に、背を向けて。
「様子を見に行かなくて良いんですか?」
「西城君、今からする話は、君にとって気分の良くないものだろう。
だけど、私は君を『アレ』に関わらせたくない」
「あれ?」
「S棟生だ。
あの言い争う声からして、男の取り合いか何かでもめているんだ。……おそらく、ね」
「…………」
「関わって、君に火の粉が飛ぶのは我慢ならない。
だから……」
そこで、違和感に気が付いた。
彼女の手から、急に力が抜け、手を引く力が重くなる。
それはまるで、急に倒れたかのような―――!!?
「西じょっっっっ」
振り返って見た先にいた彼女は、
「ぎっ―――」
全身血塗れだった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
何故!? どうして!? 何があった!? 呪いか!?
「さっ、西城!! 西城、返事しろ!!」
「はい。何でしょう?」
――――――は?
「驚かせてすいません、小日向さん」
「なっ、なっ!?」
「これですか? 血糊です。携帯用の」
えぇぇぇぇぇぇ?
「それを、何で、今」
「小日向さんが、私を心配してくれたのが、照れ臭くて……照れ隠しです」
それ、は……
「は、派手な、照れ隠しだな。ははは……」
「丁度携帯用の照れ隠しグッズが、これしかなくて。
でもこの血糊、お湯ですぐに落ちるんです。
もしよろしければ、今度プレゼントしますね」
よろしくないし、要らない……
「はは……ありがとう。
でも、照れ隠しで血糊をかぶるのは金輪際やめてくれ。
少なくとも、私の前では」
「そうですね、2度目はインパクトに欠けるでしょうし……これは、今回だけにしておきます」
「あぁ、頼むよ」
「はい」
一気に精神力を削られて、体が重くなったようだ。
「寮に帰ったら、まず風呂だな。
今日は、自室のユニットバスを使うほうが良いだろう」
「この姿なら、七不思議になれるでしょうか」
「なるべく人目につかないように、かつ、迅速に帰ろう」
私は、この時全く気が付いて無かった。
西城君の行動の意味も、私たちを見つめる者の視線も……明日からの、私の身に降り掛かる厄介事にも。
「やっぱり、この姿のまま校舎へ」
「やめてくれ」
全く……