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9/12

謝罪!賑やかな昼食会


この物語はフィクションです。


冬馬と手を繋いだまま、


家に着いたアタシを待っていたのは――


呆れた母親の姿だった。


口をあんぐりと開けたまま、

たっぷり時間をかけて、

アタシのつま先から頭のてっぺんまで眺めている。


擦り傷。

切り傷。

ドロだらけ。


母親は、

ゆっくりと――


隣に立つ冬馬へ視線を向けた。


冬馬は、

少し困ったように小さく笑った。


沈黙。


その空気に耐えられなくて、

アタシはそっぽを向く。


「……アンタは――」


気まずい沈黙を、

母親が打ち破ろうとした――その瞬間。


「はぁ―――――」


片手で顔を覆い、

とんでもなく大きなため息を吐かれた。


言いたいことは山ほどある。


――そんな圧が、

ひしひしと伝わってくる。


やがて――


「……汚いから、


お風呂、

入っちゃって……」


「……はーい」


小さく返事をして、

スニーカーを手を使わずに脱ぐ。


「ちーちゃん」


靴の向きを揃えていたところで、

冬馬に声をかけられた。


「また――


明日ね」


見上げた先で、

冬馬が優しく笑う。


「うん。

またね」


そう返して、

アタシは風呂場へ向かった。


その後ろで。


なぜか母が、

冬馬に謝り倒していたのは――


納得がいかなかった。


風呂場へ向かうアタシに、


三番目の兄――百之助(もものすけ)が呟く。


タブレットに視線を固定したまま。


「……お前はもっと、


冬馬に感謝したほうがいい」


「……は?」


ちらりと、

視線だけをアタシに向ける。


「……昔っからそうだよなー、


お前」


百兄(ももにい)は再び視線を戻し、


ソファに深く沈み込み、


何事もなかったかのように、

タブレットをいじり始めた。


……全く。


意味がわからなかった。


ゆっくりと湯船に浸かり、


お風呂から出た時。


ちょうど、


二番目の兄――十矢(とおや)

仕事から帰ってきた。


都内の美容院に勤める、二十二歳。


今日は、

ちょっと有名な配信者から

ご指名をもらえたらしく、


かなり上機嫌な様子だ。


ウキウキで、

自慢話をしてくる。


――が。


アタシも百兄も

興味がないとわかるやいなや、


すぐに不貞腐れてしまった。


十矢兄と遅めの夕食をとり、


自室に入って、

布団へダイブ。


使い慣れた布団。

いい感じに温まった身体。

適度な満腹感。


溜まりまくった疲労が、

一気に押し寄せてきて――


アタシはそのまま、

眠りに落ちた。


目が覚めた。


「今、何時?」


目覚まし代わりのスマホがないことに気づき、


アタシは慌てて飛び起きた。


「――そういや鞄、


コウに預けたままじゃん」


すっかり忘れていた。


そして気がつく――


今日は、土曜日。


「……よかったぁ」


学校が休みで――

心の底から安堵した。



食パンにマヨネーズを塗り、


軽くトースト。


目玉焼きを作って、

トーストの上にのせる。


上からケチャップをかけて――


朝食の完成。


土曜日といえど、


休みなのは、

アタシだけみたい。


アタシ以外、

みんな出払っていて、誰もいない。


部屋着のまま、

リビングで寛ぎながら、

腹を満たしていた、その時――


ピンポーン


インターホンが鳴り響いた。


確認するまでもなく、


アタシはドアを開ける。


「おはよう、ちーちゃん」


冬馬が立っていた。


「もしかして、まだ寝てた?」


上下ピンクのスウェット姿のアタシを見て、

冬馬が苦笑する。


「ううん。


起きてパン食べてたー」


いつも通りのやり取り。


変わらないアタシと冬馬。


「そっか。


父さんたちが、

昨日のことも含めて話があるんだって――


今から来れる?」


――昨日のこと。


そう言われて、


一気に思い出す。


「――わかったー。


着替えて、

そっち行く」


「うん。


待ってるね」


軽く手を振って、


静かに扉を閉めて――


ズルズルと、

その場に座り込んでしまった。


思い出した。


全部。

一気に。


イヤだったこと。

苦しくて、

辛かったこと。


そして――


「ちーちゃんを守れる王子様になりたいって、

思ってるんだから」


あの時の――

冬馬の言葉。


「うあああああ……」


誰もいない玄関で、

アタシは思わず叫び声をあげた。


いつも通り?


そんなわけないでしょ。


心臓がドキドキしている――


なにこれ。


どうしちゃったのアタシ――


しばらくして、


「はぁぁぁぁ……」


一気に上がった熱を逃がすように、


深く息を吸って――

吐き出した。


「……とりあえず、


着替えよ」


少し落ち着いたところで、


アタシはゆっくりと、

その場から立ち上がった。


★★★


「というわけで、悪かった」


二十分後。


グレーのフード付きパーカー。

ストレートのデニムパンツに、

ダウンジャケットを羽織ったアタシが、


紫月家のドアを開けた先にいたのは――


頭を下げるコウと。


「痛い!痛いって!


やるから!

ちゃんと頭下げるからぁぁ!」


そのコウに、

頭をぐいぐい押さえつけられて、


ギャーギャー騒ぐレンだった。


なんだこれ。


少し後ろで、

冬馬が困ったように様子を見ている。


視線が合った。


「ねぇ、

これどういう――」


「チヒロ」


冬馬に、

呼びかけようとした――その時。


アタシの身体に、


女の子が、

勢いよく飛び込んできた。


「え?……だれ?」


「もー、ひどいなー」


顔を上げて、

頬をぷくっと膨らませる。


「昨日会ったばかりでしょー」


にぃっと笑った。


「アヤコだよー。


ア・ヤ・コ」


―――――

―――

――え?


「アヤコって……あの、

アヤコ姫!?」


着物姿の、

凜とした。

妖しの世界の、

可憐で清楚なお姫様。


――その姿を思い出す。


しかし目の前の少女は、

アタシの回想を打ち破るように声をあげた。


「もー、

姫なんてつけないで!」


強く抱きついて、

ぐりぐりと頭を擦り付けてくる。


「アヤコでいいよー。

アーヤでも可」


驚くアタシに、

彼女はいたずらっぽく笑った。


さらりと流れていた黒髪は、

装飾のついたリボンで、

可愛らしくツインテールに。


白いブラウス。

紺のストライプのジャンパースカート。


レースに、フリルに、リボン。


まるで人形みたいに、

可憐で可愛い

この女の子が?


たった今、

アタシにしがみついているこの子が?


「ほんとにあの時のお姫様?」


思わず叫んで、

混乱のあまり、

レンに視線を飛ばす――が。


レンは――


え?

何言ってんだコイツ。


というような顔でアタシを見ていた。


やっぱり、

腹立つなコイツ。


「え、ええとぉー……」


たじろぐアタシに、

今度はコウがずいと手を伸ばしてきた。


「これ。

預かってたやつ」


「あ!アタシの鞄」


思わず、

両手を差し出す。


コウが手を離し、

ずしりとした重さが、

そのままアタシの手にのしかかった。


しがみついたままだったアヤコには、

一旦離れてもらい、


アタシはその場にしゃがみこんで、

鞄の中を確認――


目当てのスマホを見つけ、

電源を入れる。


――ついた!


画面は、

何事もなかったかのように

トップ画面に切り替わった。


「よ、よかったぁー」


思わず、

力が抜ける。


「あの時、変な落ち方したから

壊れたかと思って焦ったぁー」


妖しの世界の森の中。


一瞬ノイズが走って、

プツンと切れたあのスマホの画面。


もしあのまま壊れていたら――


鬼のような形相の母親が脳裏に浮かんで――


思わず背筋が、

ぞくりとした。


「ああ、

あっちで使うには、

条件があるんだよねー」


レンが口を挟む。


ポケットから、

むき出しのスマホを取り出し、

画面を見せてきた。


電源ボタンを押す――


あ。


トップ画面に、

ノイズが走って――


プツンと、

電源が落ちた。


あの時みたいに。


「ほらね」


レンが肩をすくめる。


「こっちで使うには、

色々手続きが必要なんだよね」


使えなくなったスマホをしまいながら、

レンはため息をついた。


「まぁ――

お兄様の場合は、

例の件でのお仕置きの意味もあって使えないようにされてるんだけどねー」


そう言って、

アヤコはスマホを取り出す。


年齢の割に、

渋い色味の手帳型カバーだ。


ぱたん、と開いて

画面をアタシに見せてきた。


「あれ?」


「ね、

普通に使えてるでしょ?」


アヤコは慣れた手つきで、

ネットの検索バーに


「天気」


と打ち込んだ。


確定マークを押すと、

ここら辺一帯の天気予報が

映し出された。


今日の天気は晴れる――らしい。


「お仕置きって?」


冬馬が、

レンとコウに問いかけた。


二人は露骨に顔を顰める。


レンが、

渋々といった様子で白状した。


「――昨日の、君らにした事。


二人が帰った後、

僕らめちゃくちゃ怒られてさー」


レンとコウが、

顔を見合わせる。


「レンは一週間――


こっちでもオレたちの世界でも、

ネット関係全面禁止――


で、オレは……」


「一週間、


筋トレも運動も、

ぜーんぶ禁止――


って、

言われたんだよね?」


小さくなって項垂れる二人とは対照的に、


アヤコはことさら明るく、

言い放った。


「……それは」


冬馬が呟き――


「ご愁傷さま」


静かに、

アタシは後に続いた。


レンとコウが同時に、


深く、

重たい、

ため息をつく。


「みんな……」


リビングから、

冬獅郎さんが顔を出した。


「こんな所ではなくて、

こっちで話したらどうだい?」


どうやら、

いつ言おうかタイミングを

伺っていたらしい。


各自バラバラに返事をして、


アタシたちは

リビングへと移動した。


「みんな、

手伝ってくれてありがとう。

いっぱい食べてねぇ〜」


リビングのダイニングテーブルとローテーブルには、

たくさんのご馳走が並んでいた。


あの後、

パタパタと昼食会の準備をする透子さんを見て。


アタシたちは、

それぞれ出来ることを手伝うことにした。


王族――

とは言っても。


何から何まで人任せではないらしい。


アタシのような庶民の暮らしを、

普通と思うくらいには色々と

仕込まれているようだった。


――だから。


特に気にするでもなく。


アヤコは床に置かれたクッションに座っているし、

レンとコウもローテーブルを挟んで向かい側に腰を下ろしていた。


一方で――


アタシはダイニングテーブル側に座る。

いつもの、

冬馬の隣の席。


その向かい側に冬獅郎さんが座り、

透子さんは料理のため、

キッチンで忙しくしている。


ちなみにこの報告会改め、

昼食会は透子さん発案だと、

冬馬が言っていた。


重たい空気の中で話すより、

まずは互いに仲良くなりましょう。


そんな透子さんの、

らしいといえばらしい提案。


「んん。

透子さん、これ美味しいです」


アヤコが目を輝かせる。


「あら〜。

お口に合って嬉しいわ」


キッチンで透子さんが、

嬉しそうに答える。


透子さんお手製の唐揚げを摘まみながら、

ふと気になったことを口にしてみた。


「そういえば――


アンタらのこと、

コウ王子とレン王子って呼んだほうがいいの?」


ぶはぁっ!?


二人が同時に、

盛大に吹き出した。


「うわ……きったな」


目の前のアヤコが、

低い声で非難する。


「あらあらあら」


透子さんが慌てて布巾を手に、

キッチンから飛び出してきた。


「大丈夫かい?」


冬獅郎さんが、

コウにティッシュの箱を差し出す。


コウがそれを受け取り、

数枚抜き取ったあと――


レンへと箱を回した。


レンもそこから数枚取り、

口元を拭う。


「お前なぁ〜」


「そんな今さらなこと、

わざわざ普通聞くぅ?」


咳き込みながら、

二人がアタシを恨めしそうに見上げた。


「いや、一応王子様……だし?」


アヤコは自分から言ってきたけど――


「それこそ今さらだろーが!?」

「それこそ今さらでしょ!?」


同時に叫ばれた。


コトリ。


アヤコが丁寧に箸を揃えて置いた。


「……まぁ確かに」


それだけで、

彼女の纏う空気が変わった――

ような気がする。


振り向いて、

アヤコは静かに口を開いた。


「公の場では、


立場を弁えていただく必要はあるかと思いますが」


金色の瞳が揺らめき、

まっすぐアタシを捕らえる。


「そこは」


その目が、

アタシの背後へ向けられた。


「冬馬が――

上手くやってくれるでしょ」


アヤコが、

ニカッと笑った。


慌てて振り返ると、

冬馬と目が合った。


「うん。任せて」


ふっと小さく笑う。


……なんだろう。


今、冬馬が――


ちょっとだけ、

頼もしく見えた。


「そ・れ・に」


再び箸を持ち、

アヤコが食事を再開する。


「立場を弁えた行動を心がけるのは、


お兄様たちも、

なんだからね!?」


『……はい』


「よろしい」


二人の力のない返事を聞いて、

アヤコは満足したらしく、

たまご焼きを口にした。


――すごいな、この子。


この中では最年少なのに、


実は一番最強なのでは?


そう思いながら

小さな背中を見つめていると、


ふいに、

振り返ったアヤコと目が合った。


パチン。


ウィンクを一つお見舞いされた。


――はは。


どうやらアタシの考えは、

あながち間違いじゃなさそうだ。


「……呼び名に関しては、

今さらだしもういいよ」


バツが悪そうに、

レンが口を開く。


「オレも。

気軽にコウって呼んでくれー。

オレもそうするからよ」


コウが、

アタシと冬馬に向かって

ニッと歯を見せて笑った。


アタシと冬馬は、

思わず顔を見合わせる。


「わかった。

コウとレン、アヤコ」


冬馬が頷いた。


「三人とも、よろしくね」


三人はそれぞれ、

思い思いの返事をした。


「私としてはぁ〜」


ピョンと立ち上がって、

アヤコがアタシの腕に抱きついてくる。


「チヒロのこと、

ちーちゃんって――」


そこで言葉を切って、

一瞬固まる。


アヤコの視線が、

ゆっくりと、

アタシの後ろへ流れた。


少しの間の後――


「はいはい、わかってるって」


アヤコは、

わざとらしく肩をすくめて見せる。


「だからそんなに睨まないでよー」


振り向くと、

ちょうど冬馬と目が合った。


「ん?なに?」


特に変わった様子もなく、

冬馬が首を傾げる。


「――ううん、なんでもない」


「はーい。

お話はあとにしましょうねぇ〜」


透子さんが新しく料理を並べる。


何事もなかったように、

アヤコは離れて席に戻っていった。


特に気にすることもなく、

揚げたてのポテトを摘む。


――が。


その様子を、


三人の王族たちが、

じっとりと眺めていた。



「妖し王子と怪力姫」を読んでくださり、

ありがとうございます。


ずっと変わらないと思っていた

冬馬との関係に、

少しずつ変化を感じはじめたアタシ。


そして――


透子さんの計らいで開かれた昼食会には、

昨日出会った王族三人も勢揃い。


にぎやかで、

どこか不思議な時間の中で――


少しずつ、

新しい関係が動き出す。


次回

『真相!明かされる裏側』


3月20日 21時頃更新予定です。

※変更になる場合があります


更新をお楽しみに!

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