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王子様とお姫様


この物語はフィクションです。


ゲンコツをくらったレンが、

コウを恨めしそうに見上げた。


相当痛かったらしい。


しばらく、

頭をさすっている。


――沈黙。


「でもさー」


ぽつりと、

レンが呟いた。


「これが解明出来たら、

すごいと思わない?」


勢いよく、

レンは立ち上がる。


コウに詰め寄り、

さらに息巻く。


「だって将来、

王になるアーヤのために――」


「ちーちゃん!?」


――声が、届いた。


アタシは顔を上げた。


レンの言葉を遮ったのは――


アタシが今、

一番聞きたかった声。


一番会いたかった――


その人の――


「……とうまぁ」


喉につっかえていた声が、

ようやく零れた。


次の瞬間。


堪えていた涙が、

一気に溢れ出した。


――止まらない。


――止めることが、

出来ない。


冬馬が駆け寄ってきて、


アタシを強く抱きしめた。


「うえぇぇぇ、とうまぁぁ」


「……うん。大丈夫。

大丈夫だから」


冬馬は泣きじゃくるアタシの背中を、

優しくさすってくれる。


その手は、ゆっくりと。


何度も。

何度も――


「……え、えー……」


レンが一歩、後ずさった。


「……泣いちゃったんだけど……」


助けを求めるように、

コウを見る。


――しかし。


「おい」


コウが、

くつくつと笑った。


「さっきの。

オレは違うと思うぞ」


ゆっくりと立ち上がり、


レンの方を見ないまま、

そう言った。


「――は?」


さっきまでたじろいでいたレンの頭に、

一瞬で血が上った。


「はぁぁぁぁ?」


声を荒げる。


「そこまで言うなら、

根拠を述べてよ!?


……根拠を!」


レンがコウに食ってかかろうとした、


その時だった。


「あらあら、お兄様」


凛とした声が、

静かに割り込んできた。


――その瞬間。


その場の空気が、

ぴたりと止まる。


全員の視線が向いた、その先。


小柄な少女が一人、


静かに佇んでいた。


コウたちと同じ――

金色の瞳が、


夜の中で、

煌めく。


艶のある黒髪に、

白い花の簪がよく映える。


白を基調にした、

華やかな振袖。


袖口から覗くレースが、

華奢な手をそっと隠していた。


すっと背筋を伸ばして立つその姿は――


まるで昔話に出てくる、

お姫様のようだった。


その場の誰よりも、

小さな少女。


なのに――


なぜか、

視線を逸らせない。


「アーヤ」


レンに呼ばれて、

少女の金色の瞳が、

ゆっくりと視線を移す。


――レンの……妹?


にっこりと、

少女が微笑む。


ほっとしたレンが、

少女へ歩み寄ろうと――


一歩、踏み出す。


「女の子を泣かせるだなんて」


その言葉に。


レンの足が、

ぴたりと止まった。


着物の袖で、


そっと口元を隠す。


「男の風上にも置けませんわね」


その可愛らしい顔をゆがませ、


吐き捨てた。


「……え、えーと。アーヤ?」


「……」


突然の暴言に、


レンは明らかに動揺していた。


「女心も、


ヒトの心すらも、

わからないなんて」


彼女は少しうつむき、


悲しげに、

ため息をついた。


「なんて哀れで、


可哀想なお兄様」


困惑するレンをよそに、


彼女は静かに、

言葉を重ねる。


「そんなお兄様だから――」


伏し目がちに、


レンを見つめる。


「ナルシスト知略家きどりのクソヤローと、


陰で言われているのですよ」


――ぐはっ。


容赦のないその言葉に、


レンは、

あっけなく沈んだ。


「確かにな」


コウが頷く。


「コウ」


少女が、

静かに呼んだ。


「あとでお話、

聞かせてくださいませね?」


にっこりと、

微笑む。


その笑顔は可愛らしいのに、


逃げ場のない圧を感じる。


コウは、

僅かに顔を引きつらせた。


頭を掻き、


深々と頭を下げる。


「……仰せの通りに、アヤコ姫」


レンにアーヤと呼ばれていた少女――

アヤコ姫は、


その返答に、

満足したように、

静かに微笑んだ。


何事もなかったかのように、


ゆっくりと、

こちらへ歩み寄ってくる。


「少しは、

落ち着いたかしら?」


眉尻を下げて、

アヤコ姫が問いかける。


一連のやりとりを見ているうちに、


いつの間にか、

涙は引っ込んでいた。


未だに座りこんだままのアタシと、


そう変わらない身長。


アヤコ姫は小さく笑うと、


袖を押さえながら、


そっと、

頭を撫でてきた。


小さな――けれど優しい手。


「はじめまして。

アヤコと申します」


アヤコ姫は、

優雅に礼をした。


「えっと……」


対してアタシは、


戸惑うばかりで、


ろくな挨拶すら出来ない。


どうしよう――


思わず、

傍らで膝をつく冬馬の顔を見る。


すると、


冬馬が、

小さく頷いた。


なので――


とりあえず、


頭だけ、

下げてみた。


特に気分を害した様子もなく、


アヤコ姫は、

にこりと微笑んだ。


――うわぁ、本物のお姫様だ。


ふわふわのドレスも。


ゆるく流れるような、

ウェーブの髪も。


キラキラと輝く、

ティアラもない。


だけど。


凜として立つその姿は――


まさに、

この世界のお姫様だった。


「あなたのお噂は、

かねがね聞き及んでおります」


ちらりと、


アヤコ姫は、

冬馬へ視線を向けた。


そして、


ゆっくりと頭を下げた。


「この度は、我が愚兄が

大変失礼を働きました。


申し訳ありませんでした」


深々と頭を下げられ、


アタシは慌てて、


手を振った。


――が。


ん?


今、


愚兄って言った?


思わず、


まじまじと、

アヤコ姫を見つめてしまった。


アヤコ姫は、


何事もなかったかのように、


穏やかに続ける。


「お恥ずかしながら、

我が兄はあの通り」


アヤコ姫は、


ちらりと、

レンへ視線を向けた。


「時折――」


一拍。


「非常に気持ち悪い存在になってしまうのです」


頬にそっと手を当て、


アヤコ姫は、

小さくため息をついた。


「……え、えーとぉ?」


困惑するアタシは、


思わず、

冬馬を見る。


冬馬は、

苦笑した。


アヤコ姫は、

さらに続ける。


「特に妖力の研究に、

強い思い入れがあるようでして――


時折、

あのように暴走してしまうのです」


ふぅ、と


アヤコ姫は、

ため息で締めくくった。


「ちょっと!

僕を考えなしの暴走列車みたいに言わないでよ!」


いつの間にか復活していたレンが、

食い気味に猛抗議する。


「だって、この仕組みを解明して。

さらに利用できれば――」


レンの瞳が、

きらりと光る。


「主から妖力を供給されるだけで、


絶対に裏切らない従者が――

手に入るんだよ」


まるで、

とんでもない発見をした子どもみたいに――


レンは、

無邪気にはしゃいでいた。


――従者。


その言葉に、

思わず肩がびくりと震える。


冬馬が握っていたアタシの手に、

僅かに力を込めた。


アヤコは静かに聞き、


コウは呆れたように、

片手で顔を覆った。


一方で――


全く空気の読めないレンは、

口元に手を当て、

一人考え込んでいた。


「絶対に裏切らない従者。

あるいは、腹心と呼ぶべきかな?」


レンは、

ぶつぶつと一人呟く。


「……いや」


途端――


ぱっと顔を上げた。


「とにかく。

将来、王となるアーヤには、


絶対に必要な力だと、

僕は思うんだ」


瞳を輝かせたレンの演説が、


ひとまず終わった。


静寂が、


辺り一面を支配する。


――しかし。


レンはそれを、

ものともしない。


「だからね、アーヤ。

そのためには研究を――」


「――お兄様」


その一言で、


場の空気が、

完全に凍りついた。


「お戯れも、


ほどほどになさってくださいませ」


それ以上は、

言わない。


けれど――


これ以上、

余計なことを言うな。


暗に、

そう言っているような。


そんな気がした。


「……主従なんかじゃ、


ないよ」


それまで黙っていた冬馬が、


静かに口を開いた。


「冬馬?」


冬馬は、

アタシと向き合うと――


ゆっくりと、

立ち上がる。


つられて、

アタシも立ち上がった。


冬馬は、

静かに深呼吸をする。


そして――


「だって」


冬馬は、

少し困ったように笑った。


「ちーちゃんが俺を守りたいって思うより――


もっとずっと」


目を閉じて、


ゆっくりと、

言葉を続ける。


「俺は――


ちーちゃんを守れる王子様になりたいって、

思ってるんだから」


冬馬は、

静かに目を開けて、


まっすぐに、

アタシを見つめた。


「だから――


これは、


主従の関係なんかじゃない」


冬馬は、

静かに断言した。


「……へ?」


一拍遅れて、


レンが、

間の抜けた声を出した。


気にすることもなく、


冬馬は、

アタシの手を――

そっと包み込む。


「知ってたよ」


優しく、

笑った。


「ちーちゃんが、


密かに、

お姫様に憧れてたこと」


「……え?」


「はじめて俺を助けてくれた時も、

すごくかっこよかった」


冬馬は少しだけ目を細めた。


「でも――」


視線が、

アタシの手に落ちる。


「――手も、顔も、

擦り傷だらけで。


痛いの――


ぐっと、

我慢してたよね」


――あ。


「それでも。


なんでもないフリをして――


いつも、

みんなのために戦って、


『もう大丈夫だよ』って、


笑うちーちゃんのことを」


冬馬は、

まっすぐ言った。


「今度は――


俺が守りたいって、

思っていたんだよ」


――言われた瞬間、


様々な感情が、

一気に吹き出した。


知られてた。

いつから?


見られてた。

何を?


――恥ずかしい。


オヒメサマなんて、

アタシの、


柄じゃないのに。


――でも。


だけど――


この気持ちは――


やっぱり、


嬉しい。


すると冬馬は、


手を握ったまま、

片膝をついた。


……え?


ちょっと、待って――


「強気で勝ち気。


ちょっと意地っ張りな――」


この構図は――


「お姫様」


冬馬が、

優しく笑う。


「これからも――


俺と一緒にいてくれますか?」


恥ずかしさで、

目を逸らしそうになる。


――だけど。


冬馬の手が、


少しだけ、

震えている。


目の前にいるのは、


確かに冬馬なのに――


知らない男の子に思えるのは、

なぜだろう。


でも。


アタシの居場所は、

やっぱり冬馬の隣――


一緒に、

並んで――


歩いて行きたい。


そう思った。


だから――


「っ……うん」


冬馬の言葉に、


アタシは――


最高の笑顔で、

応えた。



「……行きましょう」


静かに見守っていたアヤコ姫が、


踵を返す。


「アヤコ?」


冬馬が、


その小さな背中を、

呼び止めた。


「冬馬はそのまま、


彼女を、

家まで送って差し上げてください」


振り返らないまま、


アヤコ姫は告げた。


「コウとレンは、


お父様たちが、

お呼びです」


わずかに、

間を置く。


「此度の件――


すべて、

話すように


とのことです」


その言葉に、


コウとレンは、

あからさまに嫌そうな顔をした。


冬馬が、

静かに立ち上がる。


「……わかった。

あとは頼むね」


「はい」


アヤコ姫は、

小さく頷いた。


「お二人とも。


では――また」


その言葉を最後に。


三人の姿が、


しゅるりと、

空気に溶けるように消えた。


三人が消えたあと。


アタシと冬馬は、

並んで帰路についた。


繋いだ手は――


家に着くまで、


離れないままだった。


「妖し王子と怪力姫」を読んでくださり、

ありがとうございます。


作者の都合により、


話数が追加!?


どうやら単純に、

計算ミスったらしい。


···しょうがないなー。


そういえばアタシ、


まだ説明も何もされてなかったっけ――


このままモヤモヤしたまま、


終われないよね!


こうなったら、


ちゃんと!


今までのこと――


全部、

教えてもらうんだから!


次回

『謝罪!賑やかな昼食会』


3月19日 21時頃更新予定です。

更新をお楽しみに!

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