暴論!主従共鳴
この物語はフィクションです。
大声で笑い続けるレンの姿に、
不気味なものを感じた。
思わず顔が強張る。
「……み、見立て?」
じり、と。
僅かに後退しながら、
なんとかアタシは言葉を絞り出した。
「そうだよー」
レンが、
まっすぐアタシの姿を捕らえた。
「君のその力は、僕ら妖しが持つ妖力。
その共鳴によって引き出されているんだよ」
「――え?」
――妖力の共鳴?
「そのことが今、まさに証明されたのさ」
レンがポケットから小さな鏡を取り出した。
「君自身によってね」
見せられた鏡面。
そこに映るのは、
困惑するアタシの顔。
――そして。
「……なに、これ?」
ゆっくりと右手が動いていく。
指先が触れたのは、
目尻のあたり。
鏡の中で、
アタシの右目が青く鈍く光っていた。
その奥に――
ほんのわずかに
金色の粒が光った。
……ような気がした。
「ここに来るまでの君は本当にすごかった」
レンが鏡をしまい込む。
「ただの人間とは思えないほどにね」
「……っ」
じっと観察するレンの言葉に、
アタシは一瞬言葉に詰まる。
――が。
「さっきの街でのこと言ってる?
おあいにく様、
こちとら小さい頃から
年の離れた兄貴三人に鍛えられてんの。
アタシにとっちゃ、
あんなの普通よ普通」
堂々とアタシは言ってのけた。
レンが呆れたようにため息をつく。
「……君ねぇ」
一拍置いて、
レンが肩をすくめた。
「じゃあさ」
気を取り直したように、
レンが足元を指さす。
「これについては、どう説明するの?」
「うっ……それは」
視線の先には――
ひび割れたコンクリート。
「――た、確かに。
こうなるとは思わなかったし……
これにはアタシもビックリ!
……だけど」
わざと明るく振る舞ってみせる。
しかし最後は、
尻すぼみになってしまった。
途端に、
レンの口元が弧を描く。
レンがそっと、
顔を寄せてきた。
「ねぇチヒロ」
静かに、
レンがアタシの耳元で囁いた。
「その答えを、
教えてあげようか?」
突然の至近距離に、
アタシは咄嗟にレンから離れる。
クスクスと笑って、
レンは静かに言い放った。
「主従共鳴」
――は?
なんて?
「主……従?」
初めて聞く言葉に、
アタシの頭が真っ白になる。
「主の力が、
従者である君へと流れ込む。
そして君はその力を使って、
主を守る盾になり――
人間離れした力を得た。
と、いうわけさ」
レンが淡々と説明する。
しばらく、
開いた口が塞がらなかった。
「……アタシが
その従者ってこと?」
「そうだよ」
レンがさらりと頷く。
「……え、えー。
そんなこと言われてもーねぇ?」
思わずアタシは、
コウの方を見た。
コウは、
じっとアタシを見つめたまま
微動だにしない。
「っ……じゃ、じゃあ」
ことさら大きく、
強く。
アタシはレンに問いかける。
「仮にそれが本当だとして――
その主って誰なのよ!?」
すると、
待ってましたと言わんばかりに
レンは目を輝かせた。
「ねぇチヒロ。
心当たり、ない?」
「そ、そもそもアタシ、
別に操られてるわけじゃないし!」
「本当に?
ない?」
「っ……だから、
アタシは――」
はたと、
気づく。
思い浮かんだのは――
「ここに来るまで、
君の頭の中は――冬馬でいっぱいだった。
そうだよね?」
アタシの考えを見透かすように、
レンの声が滑り込んできた。
「森でも、街でも。
そして今も。
君は冬馬の身を案じて動いている」
――そう。
そうだけど。
確かにそうだけど。
冬馬がいないことに不安になって。
冬馬が無事か心配して。
早く――
冬馬のところに行きたくて。
強く、
唇を噛みしめる。
「でも、それは」
「それが従者としての本能じゃなかったら、
なんなのさ」
レンの言葉に、
アタシは愕然とした。
――主従共鳴――
レンのその言葉が、
ずしりと胸にのしかかる。
レンがゆっくりと、
アタシの周りを歩き始めた。
「君が冬馬を主と認めたのか。
それとも冬馬が君を従者として指名したのか――
そこはまだわからないけどね」
自分の仮説を一つずつ確認するかのように、
レンは淡々と語っていく。
「つまり――だ」
「君は冬馬の
便利な駒になっていたってわけさ」
勝ち誇ったように見据えてくるレンを、
アタシは睨みつける。
「と、冬馬がアタシを利用してるって言いたいの?」
足元から崩れそうになるのを、
必死にこらえた。
しかしレンは、
少し首を傾けただけだった。
「じゃあ聞くけど」
静かに言う。
「君のその力は――
いったいどこから来たの?」
言葉が詰まる。
「それは……」
冬馬の家で聞かされた話を思い出す。
冬馬は、
アタシと同じ人間じゃなかった。
妖しと人間のハーフで。
おそらく妖しの中でも一番強いであろう、
王族の血を引いている。
弱かった冬馬が誕生日を迎えた途端、
元気になったのも――
きっとそれが関係している。
……わかってる。
そんなことくらい、
わかってる。
――でも。
「まぁ君が元々、
妖力と共鳴しやすい特別体質なのか。
それともハーフであるあいつの能力によるものなのか――
まだわからないんだけど……」
レンがくるりと踵を返す。
「一つハッキリしていることは――」
レンが、
アタシの目の前で立ち止まった。
「君が主である冬馬の安否を気遣うたび、
守りたいと思うたびに――
君はますます強くなる!」
「そんなの当たり前でしょ!?
いきなり知らない世界に飛ばされて、
バラバラになっちゃったんだから!」
「じゃあ聞くけど」
急に、
レンの声のトーンが落ちた。
「どうして赤の他人のために、
そこまで必死になれるの?」
問われて、
アタシは考える。
だって――
冬馬は、
とても弱かったから。
だから――
アタシが守らなくちゃって、
思ったから――
「……だって、それがアタシの……役目だから」
言いながら、
アタシは目を見開いた。
あれ?
役目って、なに?
誰が決めたんだっけ?
アタシ?
周り?
それとも――
そう思った途端、
足元が、
ぐらりと揺れた。
崩れるように、
その場に、
力なくへたりこんでしまった。
「まぁショックだったのもわかるよー」
同情するような目で、
レンはアタシを見下ろした。
「だって、
自分の意思で動いていたはずが――
実はただの従者としての
本能だった――なんてね」
頭を強く、
殴られたみたいだった。
「……ア、アタシが……」
震える両手を、
じっと見つめる。
「と、冬馬を守ろうと思った
この気持ちが……
従者としての……ただの
本能?」
唇も、
声も震えていた。
レンは、
一瞬だけ目を細めた。
ゴツッ!?
鈍い音が響く。
「レン、お前言い方最悪」
コウが、
静かに言い捨てた。
「いったぁー!」
レンは頭を押さえて、
うずくまった。
「なんだよー、事実を言っただけだろー?」
恨めしそうに、
レンはコウを見上げる。
「ちっ」
コウは舌打ちをして、
その場にしゃがみこんだ。
「……オレには、
そうは見えなかったけどな」
ぽつりと、呟く。
「……え?」
僅かに、
アタシは顔を上げた。
――目が、合った。
「少なくともオレには、
こいつらが主従の関係には見えなかったぜ」
目線を合わせて――
コウは、
アタシの目をじっと見つめていた。
「妖し王子と怪力姫」を読んでくださり、ありがとうございます。
レンの口撃に、何も言えなくなってしまったアタシ。
友達なんだから、心配して当たり前でしょ!?
――って、それだけのことが、
なぜか言えない。
だって。
冬馬は、
友達とはちょっと違う気がするんだよね。
ずっと一緒にいた――
幼なじみ?
舎弟?
もはや家族?
どれも違うような……。
でも、
コウはなんかわかってくれてそうな気がする。
やっぱり、
拳を交えたからかな?
……っていうか。
アタシ、このままレンに
言い負かされちゃうの?
次回
『王子様とお姫様』
3月18日 21時頃更新予定です。
更新をお楽しみに!




