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逃走!妖しの街 


この物語はフィクションです。


森を抜けると、そこは小高い丘の上だった。


「はい、これ」


にこやかな笑顔で、レンがアタシに差し出す。


「……なにこれ」


差し出されたのは、

丸くて小さな棒付きの飴だった。


青い包み紙にくるまれている。


……怪しい。


アタシが睨みつけると、レンは肩をすくめた。


「これね、

人間の匂いと気配が消える飴なんだよね」


これが?


どう見ても、普段よく見かける飴にしか見えない。


「実を言うとね」


レンが、わざとらしくため息をついた。


「ここに人間がいるのバレるとまずいんだよねー」


「そうなの?」


アタシはすぐさまコウに聞いた。


「あーまぁ」


コウの歯切れが悪い。


一瞬レンを見て、


「最悪捕まる……な」


ため息まじりに吐き出した。


「えー……」


それは、すごく嫌だ。


冬馬と合流する前に、

御用になるのは避けたい。


レンを見ると、

にこにこしながら飴をずいっと差し出してきた。


アタシは考えて、考えて――


「変なモノ仕込んでないでしょうね?」


「失礼だな」


アタシの疑いを、レンはさらりとかわす。


「冬馬のところに行きたいんでしょ?」


「……っ」


レンは楽しそうに笑った。


「だったらコレ使わなきゃ、ね」


強く念を押される。


……なんか、嫌な予感しかしないんだよなー。


でもコイツの言うこと、

多分本当なんだろうし――


「うぅぅぅ」


低く唸って、


ええい、ままよ。


アタシはレンの手から飴を引ったくった。



街の入口。


左右には黒い柱。


その中央に「妖」と書かれた、

巨大な赤い提灯がぶら下がっている。


開け放たれた古い木の門。


そこをくぐった瞬間――


アタシの目の前に、

妖しの街の光景が広がっていた。


アタシは思わず立ち止まる。


「……あ、あれ?」


そこに広がっていたのは――


普通の商店街だった。


コンビニ。信号。電柱。自販機。


見慣れた景色ばかり。


でも。


コンビニのレジに立っているのが――


角の生えたおっさんだった。


自販機のそばで、

狐耳の女の子がスマホをいじっている。


向こうの屋台では、

河童みたいなのが焼き鳥を買っていた。


「あー、もっと違うの想像してたか?」


コウが顔を覗き込んでくる。


アタシは無言で頷いた。


「まぁ、チヒロの世界とあんまり変わらないかもねー。

住んでるモノ達は違うけど」


レンに言われ、確かにと思う。


「もっとおどろおどろしい世界を想像してた?」


ニヤニヤとレンが笑う。


アタシは真顔で頷いた。


「……なんか、どこかの観光地みたいな?」


アタシの目の前に広がっていたのは、

ネットやテレビで見るものと大して変わらない光景だった。


「あれが、王城だよ」


レンが指し示す。


その先――


長い長い通路の先。


夜空を突き刺すように、

一本の細い塔がそびえ立っていた。


「城っていうか……塔じゃないの?

なんか細い棒しか見えないんだけど」


アタシは思わず目を凝らす。


「ああ。

あの下に屋根が段々に重なってるんだよ」


「へー」


白銀に輝くその塔は、

夜の闇の中でもひときわ強く光を放っている。


けれど。


塔の途中から下は、

街の建物や木々に隠れてしまっていた。


見えているのは、その上部だけ。


「あそこに――」


アタシは、とんでもない存在感を放つ塔を見つめる。


「冬馬がいるんだよね?」


ポツリと呟く。


「うん。

あれがゴール」


レンが静かに頷いた。


「ついてきて」


そう言ってレンは先を行く。


コウが振り返り、

視線でアタシを促した。


「ん」


コウが手を差し出してきた。


「鞄、ここで何かあった時邪魔になるだろ」


一瞬迷う。


果たしてコウに預けていいものか。


ぎゅっと肩紐を掴む。


でも。


――行かなきゃ。

冬馬のところに。


そう決めて、


「……大事に扱ってよ」


アタシはコウに鞄を差し出した。


「おう」


短く応えて、コウが鞄を受け取った。


少し先を歩いていたレンが振り返る。


「行くぞ」


コウが短く言って、

アタシの頭をポンと叩いた。


そのまま促すように歩き出す。


アタシは深呼吸を何度か繰り返した。


――女は度胸。


「よし」


アタシは飴の包装紙を破り、口に咥えた。


「あまっ!?」


想像以上の甘さに、思わず顔を顰める。


二人に続くように、


アタシは妖しの街へ一歩を踏み出した。



しばらく歩いたところで、


アタシは口の中の違和感に気づいた。


あれ?


飴が――。


舌の上で、

割と大きかったはずの飴が、


すっと溶けて、

消えた。


「……んん?」


口の中に残った棒を、

思わず取り出す。


その先にあったはずの

白い飴がなくなっていた。


「ねぇ、これ……」


右隣のレンを見る。


――いない。


「え?ちょっと」


今度は左を見る。


コウの姿もない。


いつの間にか、

二人とも消えていた。


「……え?」


思わず立ち止まる。


――ざわ。


空気が揺れた。


「……人間の匂い」


ぽつりと、

誰かが呟いた。


「ほんとだー」

「この街に?」


――ざわ。


ざわ。


ざわめきが、

波紋のように広がっていった。


――あ、これヤバいかも。


サーっと血の気が引く。


恐る恐る顔を上げた。


……その場にいる全員が、

こっちを見ていた。


「ひっ」


人じゃないモノたちの視線に、

思わず一歩後ずさる。


「……いや、ちょっと」


また一歩、後ろへ下がる。


何人かが、一歩近づいた。


「えぇっと……」


さらに一歩、下がる。


一歩、近づく。



――じり。


その瞬間――


「人間だぁ!」


「捕まえろぉぉ!」


「ええええええ!?」


アタシは反射的に駆け出した。


「うわぁっ!?」


向かってきた、

ながらスマホの自転車を

ギリギリで避ける。


ドガシャン。


自転車の男はバランスを崩し、

そのままカフェのドアに突っ込んだ。


「ご、ごめんねぇー!」


数歩たたらを踏む。


なんとか転倒は回避。


「待てぇぇぇ!」


後ろから迫る声は無視。


「逃げたぞ!」

「止まりなさーい!」


角を曲がり、

路地に飛び込む。


看板を蹴って、

屋根に飛び上がる。


ダッシュ。


「人間だ!」


屋根の下から誰かが叫ぶ。


「誰か、あの子を捕まえてー!?」


アタシの行く手を阻もうと、

手が伸びてくる。


――が。


屋根から屋根へ飛び移りながら、

その手をかいくぐって

必死に逃げた。


迫り来る追っ手から、


しゃがんで、

飛んで、

踏んづけて、


必死に逃げ続けていた。


その時――


遠くの屋根に、

二つの人影が見えた。


一人は、

赤い髪の大柄な男。


もう一人は、

細身で長身の男。


にこやかに、

こちらへ手を振っている。


――はぁぁぁ?


ブチィ。


「あんの――」


「ナルシスト知性派気取りクソヤローぉぉぉー!!」


妖しの街に、

アタシの罵声が響き渡った。




なんとか追手を撒き、

巨大な門をくぐって橋に出た。


その瞬間。


アタシはその場に崩れ込んだ。


はぁ……っ。

はぁ……っ。

はぁ……っ。


あぁぁ、しんどいぃぃぃ。


肩で荒い息を繰り返しながら、

必死に呼吸を整える。


パチ。


パチ。


パチ。


……拍手?


長い橋の向こう側から、

ゆっくりと近づいてくる人影。


――レンだ。


「……っアンタねぇ」


楽しそうに拍手なんかしやがって――。


アタシは力いっぱい両手を握り締めた。


「いやー、君すごいね」


満面の笑顔だった。


「……」


ゆらりと立ち上がる。


「……」


レンはコウを引き連れ、

上機嫌で歩いてくる。


「まさか、

あれだけの人数を振り切るなんてさ」


アタシもゆっくりと、

レンへ歩み寄った。


「…………」


「予想以上だったよー」


レンは橋の中央で立ち止まった。


「…………」


俯いた顔を、

レンが覗き込む。


「……チ、ヒロ?」


拳を握りしめる。


「……歯ぁ食いしばれ」


ボソリと呟いた。


そして――


ドガッ!?


アタシの渾身の一撃は、

レンの鼻先を掠め――


そのまま

橋へ叩きつけられた。


直後。


ピシィッ。


足元から、

乾いた音が響いた。


コンクリートで作られた、

頑丈なはずの橋。


そこに、

アタシの拳がめり込んでいた。


小さな蜘蛛の巣のような

ひびが広がる。


「……え!?」


我に返るには、

それで充分だった。


そして――


「……ふ」


レンも同じだったらしい。


「フフフ」


笑いだす。


「フフフフ……アハハハハ!」


身体を仰け反らせて、

高らかに笑い声を上げた。

その横で、コウが呆れたように頭を掻いた。


……なにコイツ――なんなの?


思わず後ずさる。


「すごい!」


妖しく輝く金色の瞳が、

まっすぐアタシを見据える。


「やっぱり僕の見立ては完璧だったんだぁ!?」


夜の静かな橋に、

レンの狂ったような笑い声が響き渡った。



「妖し王子と怪力姫」を読んでくださり、ありがとうございます。


ナルシスト知性派気取りクソヤローことレンの罠にはまり、

妖しの街で逃走劇を繰り広げたアタシ。


アイツ絶対許さない!!


渾身の一撃をお見舞いしようとした――その瞬間。


アタシの拳が、コンクリートの橋にめり込んだ?


それを見たレンが、狂気の笑い声を上げて――


え?

なんで?

アタシ一体どうしちゃったの?


次回

『暴論!主従共鳴』


3月17日 21時頃更新予定です。

更新をお楽しみに!

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