来訪!介入者
この物語はフィクションです。
放課後。
いつもの帰り道。
夕焼けが少し暗くなりはじめる時間。
そいつは、突然現れた。
「よう。
はじめましてだな。
従兄弟殿」
不意に、背後から呼びかけられた。
アタシたちが振り向いた先に、
一人の少年が立っていた。
黄昏時迫る夕闇の中、
両目の金色が妖しく輝いている。
燃えるような赤い短髪。
学ランのような上着。
その下から覗いていたのは――
「一撃」と太筆で力強く書かれた赤いTシャツ。
赤髪の少年は両手をポケットに突っ込み、歯を見せてニカッと笑う。
――従兄弟。
「――冬馬、もしかしてコイツ!?」
弾かれたように冬馬を見る。
しかし冬馬は眉をひそめたまま、ただじっと彼を見つめていた。
その様子に、彼が訝しむ。
「あ?なんだよ。
お前の親父から聞いてねーの?」
大きくため息をつき、地面をつま先で軽く叩く。
「ま、いいや」
呟いて、びっと親指を自分へ向けた。
「オレの名前は
閻魔 光。
年はお前の一個上。
嫌いなもんはピーマンとナス」
突然はじまった自己紹介に、アタシは一瞬ぽかんとする。
しかし――
「そんで――」
赤髪の少年――コウがニヤリと笑った。
「好きなもんは――」
その瞬間。
彼の声色と雰囲気が、一気に変わる。
「闘いだぁぁ!」
叫んだ瞬間、コウの姿がぶれた。
気づいた時には、
もう冬馬に向かって拳が振り抜かれていた。
バシィィッ!?
気がつけば、
アタシはその拳を受け止めていた。
腕に重い衝撃が走る。
目の前で、コウが目を大きく見開いた。
「ちょっとぉ……
いきなり殴りかかってくるなんて、ご挨拶じゃなぁい?」
――腕が痛い。
でも、引くわけにはいかない。
こちらから反撃すべきか――
そう思った時だった。
「おお!?」
コウはバックステップで距離を取った。
油断はできない。
そう思って睨みつけていたコウの顔が、一瞬で満面の笑顔になった。
「お前スゲーな!?」
――は?
目を輝かせてコウが叫んだ。
一方でアタシと冬馬は訝しむ。
「ヤバ。
アイツの言った通り、マジでおもしれーことになってきたわ」
小さい子みたいに無邪気にはしゃぐ彼に、思わず毒気が抜かれそうになる。
「なぁなぁ、お前名前は?」
「え?ア、アタシ?」
「ファイトの基本は名乗りから、だろ?
オレもう言ったし……」
口を尖らせてブーたれる。
「……えぇ〜。
ち、千聖……ですけど」
思わず名乗った、その瞬間。
「へぇ〜チヒロか〜」
彼の身体から赤い光がゆらりと立ち上った。
「じゃあチヒロ」
コウが楽しそうに笑う。
赤い光が強く揺れる。
「第二ラウンドといこうぜ!?」
叫びと共に、コウの身体から炎が噴き上がった。
「は?えぇ!?」
「いっくぜぇ!」
コウが腰を落として構えた。
「ちょ」
――次の瞬間。
跳躍。
「オレの超必殺技ぁぁ!」
空中で拳を振りかぶり――
全力で叫んだ。
「一撃必殺ぅぅ!!」
「爆炎拳!!」
炎をまとった拳が一直線に迫る。
驚きで身体が動かない。
アタシはぎゅっと目を閉じた。
やられる。
そう思った瞬間。
パキィィィン――
澄んだ音が、辺りに響いた。
恐る恐る目を開ける。
「っ冬馬!?」
最初に見えたのは、
キラキラと舞う氷の欠片。
そして――
アタシの前に立つ、
その背中。
冬馬が振り向き、
少しだけ無理に微笑んだ。
「……大丈夫?ちーちゃん」
少し荒くなった呼吸を整え、
冬馬は再びコウを見た。
「……なんだよ」
コウが呟く。
その口元が、
みるみる楽しそうに吊り上がる。
「やっぱお前おもしれー奴じゃん!?」
すると。
舞い散ったはずの氷の欠片が、
空中でぴたりと止まった。
「燃えてきたぁぁ!」
コウが叫んだ、その瞬間。
冬馬の左目が、
微かに金色に光る。
次の瞬間――
氷の欠片が砕け、
無数の礫となって
一斉にコウへ降り注いだ。
「イテテテテテ!」
散弾銃のように撃ち出される氷。
コウは両手で頭を抱える。
「痛ぇ!し、冷てぇ!?」
小走りで後退する。
「ちょ、待て待て待て!」
コウが慌てて両手で頭を押さえた。
その隙に――
「ちーちゃん、今のうちに!」
冬馬に腕を掴まれる。
「え!?あ、うん!」
アタシたちは一斉に走り出した。
「あ、おいコラ待てぇぇ!」
止まない氷の礫を浴び続けるコウの叫びを背に受けながら、
アタシと冬馬はなんとか逃走に成功した。
突然現れた謎の襲撃者から逃げる中。
「なんなのアイツ、なんなの!?」
非現実的な状況に、今さらながらアタシは混乱していた。
「あれが冬獅郎さんたちが言ってた。
アタシたちに来るかも――って言ってた危機ってやつ?」
冬馬に腕を引っ張られながら、ひた走る。
目指すのは、冬馬の家だ。
「……ごめん、わからない」
冬馬が息を切らしながら答える。
「アイツ、従兄弟って言ってたけど……」
懸命に走りながら会話を続ける。
「俺に三人の従兄弟がいるって聞いてはいたけど――
まさかこんな風に接触してくるなんて……」
冬馬の呼吸が、少し荒い。
胸元を押さえ、
歯を食いしばっている。
冬馬は誕生日を迎えて元気になった。
……理由はよくわからないけど。
とはいえ体力面は、普通の人間とあまり変わらないのかもしれない。
――ちょっとだけ安心した。
にしても。
「ねぇアンタの家まで、こんなに遠かったっけ?」
さっきの場所から、冬馬の家までの距離はそんなに長くない。
なんならもう、
門や透子さん自慢の庭が見えてもいいはずなのに。
前を走る冬馬の背中を追いながら、
アタシはきょろきょろと辺りを見回した。
「ねぇ、とう……ま?」
もう一度前を見る。
そこにいるはずの冬馬の姿が――消えていた。
「……とう……ま?」
驚いて一歩、後ずさる。
パキリ。
乾いた小枝を踏む音が、やけに大きく響いた。
その音に、はっとして周囲を見回す。
気がつけば、そこは暗い森の中だった。
「ここ、どこ?」
生い茂る草と木々が、ぼとんと影を落としたように黒い。
頭上では見たこともない鳥が、不気味な鳴き声をまき散らしながら飛んでいく。
風はない。
なのに、妙に肌寒い。
「っあ!?スマホ」
鞄から慌てて取り出す。
画面をつける――が。
「何これ」
トップ画面にザザザとノイズが走った。
次の瞬間。
プツン。
電源が落ちた。
「ちょ、ちょっとぉ」
電源ボタンを押す。
もう一度。
……つかない。
「ウソでしょぉー」
がっくりと項垂れる。
顔を引きつらせたまま、辺りを見回した。
「そもそも、ここどこなのよぉー」
その時だった。
ガサッ。
背後で草が揺れる音がした。
「冬馬?」
少し期待して、アタシは振り向いた。
――が。
「あ?お前こんなとこで何やってんだ?」
ひょっこり現れたのは、赤髪――コウだった。
がっくりと肩を落とす。
「なんだー……さっきの」
えーと、なんだっけ?
「熱血バトルバカクソヤロー?」
「いや言い過ぎじゃね!?」
コウが情けなく叫ぶ。
確かに。
「ごめん」
「熱血バトルバカで止めるべきだったわ」
「そぉいうことじゃねぇよぉぉぉ!」
ぷっ。
吠えるコウの頭上で、
誰かが小さく吹き出した。
続いて、
クックッ――
と、笑い声が降ってくる。
「え?誰かいるの?」
驚いてアタシは見上げる。
一方でコウは、落ち着いた様子で上を睨みつけていた。
「レン……」
その視線の先。
木の枝の上に――
少年が腰掛けていた。
くすくすと、
楽しそうに笑っている。
「……お前、どこから見てた?」
レンと呼ばれた少年が、きょとんとする。
「どこって……」
わざとらしく口元に手をあて、
考えるそぶりを見せる。
「最初から、かな?」
にっこりと微笑んで立ち上がった。
「あーくそ、またかよ……」
コウは乱暴に頭をガシガシとかく。
その間にレンは、
軽く飛び降りて綺麗に着地した。
「はじめまして、僕はレン」
優雅にお辞儀をする。
「君のことは――ちーちゃんって呼べばいいのかな?」
コウと同じ金色の瞳で、
面白そうにアタシを見つめていた。
コイツの存在そのものが気に入らない。
アタシは思いっきり顔を顰めた。
「……どうしよう。
コイツ――殴りたい」
「やめとけ、気持ちはわかる」
いつの間にか隣に来ていたコウが、アタシの肩にポンと手を置く。
「ひどいなー、そんなつもりじゃないのに」
レンがわざとらしく悲しんでみせる。
どの口が言うか。
どう見ても、
人をおちょくってる顔だった。
じとーっと見るアタシとコウに、
レンは軽く肩をすくめてみせる。
「そんな怖〜い顔で睨まないでよ」
くすくすと笑った。
「ちゃんと説明するからさ」
そう言って、
人差し指を軽く口にあてる。
「ここは――妖しの国」
声のトーンを落として告げる。
「君たちの世界のすぐ隣にある――
僕たち妖しの世界だよ」
さっきよりも、もっと強く。
レンの金色の瞳が、
妖しく揺れる。
「……あ、やかしの……世界?」
思わず片腕をぎゅっと掴む。
――落ち着け。
まだ、この二人が敵と決まったわけじゃない。
……多分。
少し怖い。
だけど今は、少しでも情報が欲しい。
アタシは両足にぐっと力を込めた。
「……そ、その妖しの世界に……なんで私が?」
レンから視線を逸らさず、言葉を絞り出す。
「ああ、それはね」
ぱっと笑った。
「僕が君たちを招待したからだよ」
あまりにさらりと告げられた。
「誘導役、ありがとうねーコウ」
アタシの隣にいるコウに、ひらひらと手を振る。
「ちっ」
コウは舌打ちして、そっぽを向いた。
ちょっと待ってよ。
「じゃあ冬馬は?
アンタが言う通り一緒に招待されたなら、
なんでここにいないの?」
アタシの言葉に、レンはにこりと笑う。
「大丈夫」
少し間を置いて。
「ちゃーんとこの世界にいるよ」
なんか、だんだん腹が立ってきたな。
少し間を置いて、レンは言った。
「王城にね」
「――は?王城?」
「うん」
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「王城って何!?
なんでいきなり城!?」
アタシの混乱をよそに、レンは軽く指を鳴らす。
「着いておいで」
くるりと背を向ける。
「詳しい話は、歩きながらしてあげるから」
ひらりと片手を上げた。
「え?ちょっと……」
慌てるアタシの横で、コウがため息をついた。
「行くぞ」
そう言って歩き出す。
え、えぇぇぇ。
どうやらアタシには、この二人について行く以外の選択肢はないようだった。
「妖し王子と怪力姫」を読んでくださりありがとうございます。
気が付けば、妖しの世界にいたアタシ。
そんなアタシの前に再び現れたのは、
熱血バトルバカことコウだった。
さらに同じく冬馬の従兄弟、レンも登場。
冬馬は王城にいると告げられる。
冬馬を助けるべく、
アタシは二人の案内で妖しの街へ踏み込むのだった。
次回
『逃走!妖しの街』
3月16日 21時頃更新予定です。
更新をお楽しみに!




