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決意!表明 


この物語はフィクションです。

「ちー、お風呂つっかえるから

先に入っちゃいなさーい」


「……あ、うん」


帰宅後。


ソファに沈み込んだまま、

アタシは完全に思考停止状態になっていた。


もはや、

どうやって帰ってきて

今ここにいるのかもよく分からない。


母さんに促され、

のろのろと立ち上がる。


着替えを持って、

洗面所兼脱衣所へ向かった。


湯船に浸かって、

一息つく。


静かな浴室。


……でも。


頭の中は、

ずっと騒がしいままだ。


さっき

冬馬から告げられた

「あの言葉」


今度は俺がちーちゃんを守るよ。


――冬馬が?

――アタシを?

――守る?


「……いや、無理でしょ」


そう結論づけて、

アタシは湯船から立ち上がった。


しかし――。


ベッドに横になった今も、

頭の中ではぐるぐると思考が渦巻いている。


何度も寝返りをうつ。


なんだか、

落ち着かない。


冬馬のあの言葉が、

何度も何度も頭の中で再生されては、

消えていく。


ていうか……守るって、なに?


冬獅郎さんから聞かされた、

とんでもなく非現実的な話。


アタシや冬馬に危険が及ぶ可能性がある――

それが本当だとしたら。


この世ならざる者たちが、

アタシたちを襲ってくるかもしれない。


それは確かに怖いし、

不安だってある。


でも――。


「……多分、普通の女の子だったら」


ぽつりと、独り言がこぼれる。


「喜ぶか、

ときめくところなんだろうけど――」


そもそも。


アタシの中で 「守られる存在」って、 童話の中のお姫様なんだよね?


華奢で可憐で、 小さなお花みたいな――。


そこに自分を あてはめてみた。


んー……。


落ち着かないし、 なんだかむず痒い。


――違う気がする。


とにかく今は、心に渦巻くもやもやしたものを、

ため息と一緒に吐き出してしまいたい。


そう思いつつも――


答えは出ないまま。


アタシはいつの間にか、

眠りに落ちていた。



幼い頃、この住宅街には

たくさんの子供たちがいた。


年齢も性別もバラバラで、

毎日誰かしらが外で遊んでいる。


その中で一際、幅を利かせていたのが――

年上の兄をもつ、弟組だった。


公園を占拠。


年下の子達をいじめて泣かせて、

気に入らないことがあれば

暴言と暴力は当たり前。


とにかく、やりたい放題の

悪ガキ三人組だった。


あの日も、そうだ。


冬馬とはじめて会った日。


あの公園。

あの、ジャングルジムの前――。


まだ小さかったアタシは、

必死に走っていた。


誰かが、泣いている。


行かなきゃ。

助けなきゃ。


無我夢中で声のする方へ向かって行く。

アタシはそこで、いじめられている冬馬を見つけた。


泣きそうな顔で、必死にこらえて。

でも逃げ場がなくて、ただ立ち尽くしている冬馬。


彼を取り囲み、なおも暴力を振るおうとしている三人組。


――許せない。


犬飼家家訓。


正しきものは強くあれ!


掲げた瞬間、

アタシの中で正義の心が燃え上がった。


「こらぁぁ!

弱いものいじめするなぁぁ!!」


次の瞬間。


アタシの飛び蹴りが、

弟組のボス格男子に直撃した。


「覚えてろよーミニゴリラー!」

「兄ちゃんに言いつけてやるーミニゴリラー!」

「うわーん、待ってよぉー!」


半べそをかきながら、

三人組は逃げていった。


「今度また誰かいじめてたら

許さないからねぇぇぇ!」


ふんす、と

アタシは大きく一息つく。


そして振り返り、

未だ地面にしゃがみ込んでいる男の子に声をかけた。


「だいじょうぶ?」


一瞬ビクッとして、

その子はゆっくり立ち上がった。


顔は涙でぐしゃぐしゃだ。


アタシは彼の服の汚れを軽くはたいてやる。


「……あ、ありがとう。

えっと……」


「知ってる。冬馬でしょ?」


さらりと言うと、

冬馬は目を見開いた。


「なんで、僕の名前――」


少し考えて、アタシは答える。


「おかーさんが言ってた。

隣に引っ越してきた子が、

アタシと同じ年の子だよーって。

お友達になれるねーって」


すると冬馬は、

両手で服の裾をぎゅっと掴んだ。


「おともだち……?

僕たち、おともだち?」


「え? あ、うん?」


冬馬の顔がぱあっと明るくなる。


「おともだち、えへへ」


一方で、

アタシは少し不安になった。


なんか、弱そう。

だいじょうぶかな、この子。


また放っておいたら、

アイツらにいじめられそうだ。


腕を組んで考える。


……よし。


だったら――。


「じゃあ冬馬。今度何かあったらすぐに言って。

アタシがぜーんぶやっつけてあげる」


冬馬は一瞬きょとんとしたあと、

目を大きく見開いた。


「うん」


再び笑顔になった冬馬は、

アタシが差し出した手をぎゅっと掴んだ。


その手は、

少しだけ震えていた。



朝。


鳥の声で目を覚ました。


むくりと起き上がり、

スマホで時間を見る。


アラームが鳴る、

三十分前。


はぁぁぁぁ。


両手で顔を覆い、

大きなため息を一つ。


「……アタシ、小さいときから

ゴリラ言われてんじゃん」


夢で明かされた、

衝撃の事実。


……じゃなくて。


そういえば――。


確か冬馬に出会う、少し前。

内容もタイトルも思い出せない絵本の中のお姫様に、

アタシは確かに憧れたことがあった。


アタシには兄が三人いる。


「アタシ、お姫様になりたい!」


そう宣言したアタシを、

三人の兄たちは否定するどころか、ちゃんと尊重してくれた。


でも――。


「兄ちゃんたちと遊べないって、すぐに撤回したんだよねー」


膝に頬杖をついて、ぼんやりと考える。


お姫様には憧れる。

でも、兄ちゃんたちと遊べないのはイヤ。


どうしたらいいんだろう――。


ぐるぐると考えていた時に、

アタシは出会った。


テレビの中の、

戦うピンク色に。


「こういうお姫様もいるんだね」


隣から、小さな呟きが聞こえた。


……あれって、誰だったっけ?


あの時、隣にいたのは――。


腕を組んで考えているうちに、

なんとなく気がついてしまった。


ああ。


そうか。


答えはとっても簡単で、

最初からアタシの中にあったんだ。


大切なのは――

アタシがどうしたいかってこと。


「よし」


パァン。


気合い一発。


アタシは両手で頬を叩くと、

ベッドから勢いよく飛び降りた。



冬馬の家の前。


門の前で腕を組み、

仁王立ちでアタシは待ち構えていた。


その間、

何人かの通行人に

異様な目を向けられたが――


構うものか。


だってこれは、

アタシの決意表明なんだから。


――でも。


やっぱりちょっと恥ずかしいから、

早く出てきてほしいかも。


なんて思っていると。


ガチャリ、と

鍵の開く音がした。


ドアを開けた冬馬が、

アタシを見つけてぎょっとする。


「ど、どうしたの?」


動揺を隠せないまま、

小走りで近づいてきた。


門を挟んで、

アタシたちは向かい合う。


「……冬馬、アタシやっぱり無理」


「……え?」


「ただ守られるだけの

オヒメサマにはなれないし、

なりたくない!?」


冬馬が息をのむ。


「……だから、

アンタと肩を並べられる

オヒメサマならなってあげる」


これが、

アタシの出した答えだった。


冬馬は、一瞬言葉に詰まったようだった。

何か言いかけるように口を開きかけて――

でも、ふっと口元が緩んだ。


「ちーちゃんらしいや」


冬馬が、静かに笑う。


つられて、

アタシも笑った。


それからアタシたちは、

いつものように並んで

学校へ向かった。


しばらく歩いてから、

冬馬がぽつりと呟いた。


「でもさ」


「ん?」


「オヒメサマにはなりたいんだね」


「……それは、まぁ。

一応、女子ですし」


ポリポリと頬を掻くアタシに、

冬馬がくすっと笑った。


柄じゃない。


そんなこと、

アタシが一番わかってる。


――でも。


「アタシらしいでしょ?」


にぃっと笑ってみせると、

冬馬は静かに頷いた。


その時。


「ちーちゃーん」


後ろから透子さんの声が飛んできた。


振り返ると、

玄関先に透子さんと冬獅郎さんが立っている。


「ちーちゃんは、頼りになるわー」


いつもの調子でそう言う透子さんに、

アタシは片手をひらっと上げて応えた。



「妖し王子と怪力姫」を読んでくださりありがとうございます。


守られるだけのオヒメサマなんて、アタシの柄じゃない!?

冬馬と一緒なら、怖いものなんて何もない――


……そう思っていた矢先。


アイツらが現れた。


しかも冬馬とはぐれるなんて――!?


次回『来訪!介入者』


3月15日 21時頃更新予定です。

更新をお楽しみに!

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