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訪問!紫月家


この物語はフィクションです。

|

「実はね、

僕は人間じゃないんだよ」


久しぶりに顔を合わせた

冬馬の父親――冬獅郎(とうしろう)さんが、


とんでもない爆弾を落とした。


……さっきまでの心の誓い、

早くも脆く崩れそうです。



少し前。


冬馬の家に二人で帰りつくと、

透子さんが出迎えてくれた。


リビングは折り紙の輪っかや風船で飾りつけられ、

テーブルにはたくさんのご馳走が並んでいる。


……冬馬を祝う気、満々だな。


「美恵子ちゃんには話してあるから、いっぱい食べてねー」


透子さんが席についた。


美恵子とは、

アタシの母のことだ。


家は隣同士。


年も近くて、

気も合う。

趣味も合う。


ついでに、

同い年の子供までいる。


仲良くならない理由がない。


冬馬たち一家がこの家に引っ越してきて以来、

犬飼家と紫月家は

家族ぐるみの付き合いをしていた。


冬馬のお誕生日会――

という名の家族団らん。


そこに混じって、

アタシも一緒に食事をしていた。


「今日は久しぶりにパパが帰ってくるから、

お料理張り切っちゃった」


頬に両手を当てて、

透子さんがにこにこと笑う。


……本当に可愛いな、この人。


それを優しく見つめる冬獅郎さん。


……絵になる夫婦だよなー。


アタシはオレンジジュースに口をつけた。


ふと疑問に思って、

なんとなく聞いてみた。


「そういえば冬獅郎さん、

前は結構家にいたよね?


最近はどこ行ってたの?」


冬獅郎さんは、

透子さんから皿を受け取りながら答えた。


「ああ。

ちょっと、あっちの世界にね」


――ん?


あっちの世界?


「……そういう会社?」


ぶはっ!?


たまらず、

冬獅郎さんが吹き出した。


続けて、

くっくっと笑い出す。


「……父さん」


隣から、

冬馬の低い声が聞こえた。


それでもなお肩を震わせながら、

冬獅郎さんが言う。


「……相変わらずキミは可愛いなぁ」


「父さん」


今度は咎めるように、

冬馬が睨んだ。


「ごめんごめん。

からかうつもりはないんだ。

本当だよ」


そう言って、

冬獅郎さんは軽く噎せた。


「もう、パパったらぁ。

ちーちゃんが困っちゃうでしょ」


背中をさすりながら、

透子さんが言う。


そして――


透子さんは、

アタシの顔をじっと見つめた。


「あのね、ちーちゃん。


妖しって、

わかるかしら?」


冬獅郎さんの呼吸が、

ようやく整ってきた。


問われてアタシは、

とりあえず思いつくまま言ってみた。


「……おばけ?とか、

幽霊、とか……


あ、ねずみ男とか?」


「……大丈夫よ、ちーちゃん。

ありがとう」


完全に当たりだと思った答えだったのに、

なぜか透子さんは困ったように眉根を寄せた。


「……まず、

前提から話そうか」


ようやく呼吸が整った冬獅郎さんが、

静かに口を開いた。


「“妖し”というのはね。


君たちの世界で言うところの、

幽霊や妖怪、精霊――


そういった存在を、

ひとまとめにした呼び方だよ」


ふむ、と内心で頷く。


アタシの答え、

あながち間違ってなかったらしい。


「教科書的に言えば――


人の感情や自然現象と

深く結びついた存在でね。


古くから、

人間社会のそばに在り続けてきた」


お、おう……。


「そして、その中には

社会構造を持つ者たちもいる。


階級、役割――


簡単に言えば」


一度言葉を区切って、


「“国”だ」


……国?


その言葉が出た瞬間、

空気がほんの少しだけ

変わった気がした。


冬獅郎さんは、

言葉を選ぶように

少しだけ間を置く。


「……そして、

その“国”には王がいる」


「王って、

王様のこと?」


思わず聞き返すと、

冬獅郎さんは穏やかに頷いた。


「うん」


そして、続ける。


「その王様が――


僕の父親なんだよ」


……ん?


頭の中で、

今聞いた言葉をゆっくり並べてみる。


つまり――


冬獅郎さんは、

人間じゃなくて妖し。


その妖しの国には王がいる。


その王が、

冬獅郎さんの父親。


だから。


つまり――


「……冬獅郎さんって、

王子様ってこと?」


驚くアタシの言葉に、

冬獅郎さんは苦笑して頷いた。


アタシは軽く腕を組む。


「いや、まぁ言われてみれば……


うちの父ちゃんと違って、

落ち着いてて。


なんとなーく品があるっていうか。


それに割と美形……だし?」


「……話、

戻してもいいかな?」


「え? あ、はい。ドゾ」


照れを隠すように、

冬獅郎さんが小さく咳払いをした。


その様子を、

隣に座る透子さんが

にこやかに見つめていた。


……なぜか冬馬には睨まれている。


冬獅郎さんは、

もう一度咳払いをした。


今度は、

ほんの少しだけ表情を引き締める。


「――それでね。


僕はその立場を、

捨てたつもりだったんだよ」


「つもりだった?」


思わず聞き返す。


「透子と一緒に生きることを

選んだからね」


静かな声で続ける。


「人間の世界で暮らす。


王位継承権も放棄した――

そう思っていたんだ」


冬獅郎さんは、

少し困ったように笑った。


「父がね。

少し余計なことをしてしまったらしい」


「余計なこと?」


「僕には兄が二人いるんだけど」


そこで一度、

言葉を区切る。


「王が、

その二人を焚きつけてしまったんだ」


「……焚きつけた?」


「簡単に言えば――」


少しだけ間を置いて、


「王位争いを

起こさせてしまったんだ」


思わず、

言葉を失う。


「その影響が、

もしかしたら冬馬にも

及ぶかもしれない」


冬獅郎さんの視線が、

ゆっくりと冬馬へ向いた。


「冬馬はね、

ハーフなんだ。


妖しと人間――

両方の血を引いている」


「そして――」


今度は、

アタシを見る。

その視線は、

さっきまでとは違って

少しだけ真剣だった。


「君にも、

危険が及ぶ可能性があるかもしれない」


「……アタシ?」


「冬馬のそばに、

ずっといるからね。


兄たちに、

君の存在が

認知されているかもしれないんだよ」


一瞬、

また言葉を失う。


思わず、

隣を見る。


冬馬は黙ったまま、

ただ静かに視線を伏せていた。


膝の上で、

両手を強く握りしめていた。


★★★


夜。


冬馬の家を出る間際、

彼に「少し話がしたい」と言われた。


それなら、と。


アタシたちは

互いの家から歩いて五分ほどの場所にある

小さな公園へ向かった。


並んで歩いているのに、

言葉はない。


やがて、

公園に辿り着いた。


昼間は子どもたちの声で賑わうその場所も、

今は静まり返っている。


「懐かしいな」


冬馬が立ち止まったのは、

ジャングルジムの前だった。


街灯の明かりが、

ぼんやりと冬馬の姿を照らしている。


「ここでちーちゃんに、

はじめて会ったんだよね?」


「ああ……

そういえばそうだった」


確かあの時――


冬馬は、

いじめられて泣いていたっけ。


「……ごめんね」


ふいに、

冬馬が言った。


「変な話に、

付き合わせて……」


申し訳なさそうに、

冬馬が笑う。


「……まぁ正直」


アタシは肩をすくめた。


「王位継承争いなんて言葉、

ラノベでしか聞いたことなかったわ」


冬馬が苦笑した。


「うん。

それは俺も思った」


ふっと、

お互い小さく笑い合う。


「さっきの話、

俺も昨日、父さんたちから聞いたんだ」


夜の闇。


古くなった街灯の下。


静かにアタシを見つめる

冬馬の左目が――


一瞬だけ、


金色に煌めいた。


「……とう……ま?」


気になって、

アタシは手を伸ばしかけた。


その時だった。


「守るよ」


アタシの手が、止まった。


「……え?」


戸惑うアタシに、

冬馬は言う。


「今度は――


俺が、

ちーちゃんを守ってみせるよ」


まるで、


何かを覚悟したかのように。


力強く。


まっすぐに。


アタシの知らない


男の子が――


そこに、いた。


「妖し王子と怪力姫」を読んでくださりありがとうございます。


とんでもない話を聞かされた直後に、

冬馬の「今度は俺がちーちゃんを守るよ」宣言。


守られるなんてアタシの柄じゃない――

そう思いつつも、心は大きく揺れていて。


果たして、悩み抜いたアタシの出した答えとは。


次回『決意!表明』


3月14日 21時頃 予定です。

更新をお楽しみに!

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