表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

はじまりの朝


この物語はフィクションです。

プロローグ


女の子だったら、一度くらいは憧れると思う。


真っ白なふわふわのドレス。

風に揺れる、繊細なレース。

パステルカラーのリボン。


童話の中で王子様に守られる、

可憐で可愛いお姫様。


――でも。


アタシは――。


朝。


鏡の前で、きゅっと髪を結ぶ。

動きやすさ重視の、高めで強気のポニーテール。


履き慣れたスニーカーに足を突っ込み、軽く踵を叩く。


「行ってくるねー」


母の返事を待って制服のスカートを翻し、

アタシ――犬飼 千聖(いぬかい ちひろ)はドアを開けた。


自宅を出て向かった先は、隣の家。


インターホンを押すこともなく、さっさとドアノブに手をかける。


ガチャリ。


ドアは簡単に開いた。


その様子にアタシは顔をしかめる。


不用心――。


……勝手に開けてるアタシが言えることじゃないんだけどさ。


勝手知ったるなんとやらで、玄関に踏み入る。


「おはよぉぉ、冬馬(とうま)ぁぁ。

起きてるぅぅぅ」


玄関から叫ぶと、エプロンで手を拭きながら

冬馬の母親――透子(とうこ)さんがやって来た。


「あらあら、おはよう、ちーちゃん」


おっとりという言葉は、多分この人のことを指すんだと思う。


……多分。


シンプルな淡色のワンピース。

白いレースと刺繍の入ったエプロン。


それがここまで似合う女性を、アタシは他に知らない。


すぐさまアタシは上がり込み、階段を登っていった。


「ちーちゃんは頼りになるわー」


透子さんの独り言が階下から追いかけてくる。


二階の突き当たり。

右の部屋。


迷うことはない。


ノックもせずに、アタシはドアを開け放った。


「起きて。朝よ」


アタシの声に、ベッドの山がモゾモゾと動きだす。


ゆっくりと手が伸びた。

手探りで眼鏡を探し、引っ込める。


しばらくして――ゾンビがむっくりと起き上がった。


「――おはよう、ちーちゃん。

いい朝だね」


ボサボサ頭に青い顔。


――どの口が言うか。


「はぁぁぁぁ」


毎度毎度のやりとりに、アタシは盛大にため息をついた。



「ごめんねぇ〜。

冬馬ちゃん、私が言っても全然起きてくれないのぉ」


……それは――そう、だよね。


正直、このヒトに

あのゾンビを起こせるとは思えない。


透子さんに淹れてもらった紅茶を飲んでいると、

寝癖をつけたゾンビこと冬馬がリビングにのっそりと現れた。


「支度おわった?」


「……うん」


「もう出られる?」


「……うん」


「よし」


ぐいっと紅茶を飲み干し、傍らに置いた鞄を掴む。


「ご馳走さまでした」


「はーい」


透子さんがにこやかに返事をする。


「じゃ、行くよ」


返事も待たずに玄関へ向かうと、

冬馬がゆっくりとついて来た。


「行ってらっしゃ〜い」


見送る透子さんに軽く手を振り、

アタシたちは学校へ向かって歩き出した。


しばらくして。


数歩後ろを歩いていた冬馬が、ぽつりと問いかけてくる。


「……今日は、いつもより早いんだね?」


「え?だってアンタ、日直でしょ?」


「……あ、そう……だった」


ふいに、冬馬の足が止まった。


リュックのショルダーベルトをぎゅっと握り、

冬馬は縮こまる。


「……ほんとうに、ちーちゃんは頼りになるなぁ」


「え!?ちょっと」


ぐらり、と冬馬の身体が傾いた。


慌てて駆け寄り、正面から受け止める。


「ちょっと冬馬?」


「……ごめん、ちーちゃん……」


それだけ言うと、青い顔をした冬馬は――

そのまま気絶した。


――は?


しばし、沈黙。


そして。


ああああまたかーー。


紫月(しづき)冬馬は、めちゃくちゃ身体が弱い。


どれくらい弱いかというと――

自宅からわずか十五分の距離を歩いただけで、疲れて気絶してしまうほどだ。


おそらく今、アタシたちがいるのは

家と学校のちょうど中間地点くらい。


――どうするべきか。


冬馬を家に置いてダッシュで登校するか。


このまま担いで登校するか。


――二択。


考えに考えた末、アタシは泣く泣く後者を選んだ。


★★★


「おっはよー。今日も旦那の介護、ごくろーさん」


「……旦那じゃない」


小学校からの馴染みである鈴原 海咲(すずはら みさき)が、

さっそくちゃかしてきた。


「アンタらの登校風景、もはやうちの学校の名物になってるよー」


「でしょうね!?」


か弱い女子中学生が、

同学年の男子を背負って。


さらに二人分の荷物まで持って、

ほぼ毎日登校していたら。


そりゃあ注目の的にもなるってーの。


「同じ小学校だった組はもう見慣れてるけどさー、

やっぱ違う学校から来た組にとっては異様な光景だよね」


教科書をしまいながら、

なんでもないことのように言ってくる。


ふと。


その手が止まった。


「そういや、陰でアンタらなんて呼ばれてるか知ってる?」


「え? なに急に」


口元に手をあてて、海咲はにんまり笑ってみせた。


「虚弱の森の王子とゴリラ姫、だってさ」


言い切った瞬間、


ひゃひゃひゃと盛大に笑い出す。


――――


はぁ―――?


「ちょっと、誰よ!?

そんなこと言った奴!?

見つけてシメる!?」


怒りに任せて立ち上がった――その時だった。


ガラリ。


担任が教室に入ってきた。


教室の空気が、一瞬で引き締まる。


その手には、ノートや課題が山のように積み上がっていた。


そして。


その後ろを、申し訳なさそうについて来たのは冬馬だ。


一応ファイルは持っているが、

担任の持つ量の半分にも満たない。


日直だったから、

課題は職員室の前まで運んできたんだっけ?


冬馬は教卓に荷物を置くと、

先生にペコペコと頭を下げてから

自分の席へと戻っていった。


間もなく予鈴が鳴り、

いつもと変わらないホームルームが始まった。


そして――


放課後。


いつもの道を。

いつもの通り歩いて、アタシたちは帰路に着く。


家まであと少し――

というところで冬馬が力尽きるのは、いつものことだ。


「ちょっと、歩ける?」


そう声をかけると、冬馬は小さく笑った。


「……いつもごめんね」


青ざめた顔の冬馬が、ぽつりと言う。


「は?」


「ありがとう」


「ちょ、今それ言う?」


アタシの言葉に、

冬馬は一瞬だけ目を細めた。


そして――


「もうすぐ……だから」


――もうすぐって。


「なにが……」


意味がわからなくて聞き返そうとした、その瞬間。


冬馬の身体が、ぐらりと傾いた。


「……冬馬?」


支えるより先に、

その体重がアタシに重くのしかかる。


やけに赤い夕焼けの中で。


アタシは、動けなくなった。





「妖し王子と怪力姫」を読んでくださりありがとうございます。


怪力少女と妖しの王子の、

ちょっと不思議で騒がしい物語です。


第一章は全9話予定で、1日1話更新予定です。

よろしくおねがいします。


※「トワイライト・ベアラー」も予定通り更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ