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星の子

作者: aonigiri
掲載日:2026/01/12


 夜空を見上げると、無数の星がきらめいていた。まるで、遥か遠い世界から地上を見守る瞳のように。

 この世界には、「星の子」と呼ばれる存在がいた。彼らは星から地上に降り立ち、人や動物として七年を過ごし、それぞれの「使命」を果たすという。


 ある者は誰かに笑顔をもたらすために。ある者は失われた希望を灯すために。

 そして、中学二年生の姿になった僕は、ある使命を帯びてこの町にやってきた。


僕の使命は、「ある大切なものを探し出だし、その大切なものの死を肩代わりする使命」

しかし、その大切なものが何なのか、僕自身にもわからなかった。



 隣のクラスに、いつも窓際の席で本を読んでいる女の子がいた。冬の柔らかい日差しが彼女の横顔を照らし、その髪がきらきらと輝いていた。彼女を見ていると、僕の胸の奥が温かくなるのを感じた。


「ねえ、今日の星、すごくきれいだよ」

 帰り道、彼女が空を見上げてそう言った。


彼女の瞳には、夜空の星が映り込んで、さらにきらきらと輝いていた。

その輝きを見ていると、僕の探している「大切なもの」が、このきらめきの中に隠されているような気がした。


 星の子には掟があった。「地上のものに心を奪われてはならない」。なぜなら、心は定められた使命を揺るがせてしまうから。


 彼女と過ごす時間が増えるにつれて、僕の心は今まで感じたことのない温かさで満たされていった。「大切なもの」を探す使命よりも、この温かい時間がずっと大切だと、そう思うようになった。


 だが、星の掟を司る「星主様(せいしゅさま)」は、僕の心の変化を許さなかった。


 雪が舞い始めたある日の夕暮れ。彼女と一緒にいつもの公園で星を見上げていた時、突然、全身に凍てつくような痛みが走った。それは、星主が僕に与えた罰だった。使命を忘れかけ、地球にいられる残り時間が少ない僕に無理やり使命を果たさせた。


「うっ……」

 膝をついた僕に、彼女が慌てて駆け寄る。僕の体から、微かな光の粒がこぼれ落ちた。それは、この世界で僕が集めた、きらきらとした思い出のかけら。彼女と一緒に過ごした、大切な時間の証。


「大丈夫!?どうしたの?」

 心配そうに僕を見つめる彼女の目から、一粒の涙がこぼれ落ちて、僕の手の甲で光った。


その涙を見た瞬間、僕の中で何かが弾けた。


僕の探し求めていた「大切なもの」は、この輝きだったんだ。誰かを大切に思う心。誰かのために輝きたいと願う気持ち。


 星の子としての七年は、今、終わる。僕は星へ帰らなければならない。彼女が受けるはずだったこの痛みとともに、彼女とのきらきらした時間も、終わりを迎える。


「君が、僕の宝物だよ」

 消えゆく光の中で、僕はかすれた声でそう呟いた。彼女の驚いた顔が、僕の最後に見た「きらきら」だった。


 次に目を覚ました時、僕はもう少年ではなかった。小さな光の粒になって、風に吹かれて空を舞っていた。僕は星へ帰る途中なのだろうか。


 ふと、下を見ると、あの公園が見えた。そして、そこに一人佇む彼女の姿があった。彼女は、僕が消えた場所をじっと見つめていた。その瞳には、まだ涙がきらめいている。


 僕は、彼女の涙に吸い寄せられるように、ゆっくりと地上へと舞い降りた。そして、彼女の肩にそっと降り立った。

「…あ…」

 彼女が小さく声を漏らし、肩に止まった僕を見た。僕はただの光の粒だ。言葉をかけることも、触れることもできない。


 それでも、彼女の肩にいると、心が温かくなるのを感じた。僕の「大切なもの」は、まだここにあった。彼女の心の中に、そして僕の心の中に。


 空から降る雪が、彼女の肩に止まった僕の光をきらきらと反射させる。

 星の子は、形を変えて、愛する人の傍らで、そっと光を灯し続ける。たとえそれが、小さな光の粒であっても。



少年としての生を終え、次に意識を取り戻したとき、視界は地面に近かった。冬の匂いが鼻をくすぐり、短い毛に覆われた前足が見える。僕は一匹の子犬、ゴールデンレトリバーの姿で再び地上に降り立っていた。

 前の人生の記憶はなかった。自分がかつて少年だったことも、誰かを深く愛していたことも、すべては星の海に溶けて消えてしまったかのようだ。

今の僕にあるのは、新しい使命だけ。


「一人の人間を幸せにしてから死ぬこと」


 訓練を受け、僕は「精神的支援犬(ESD)」として、ある施設から一軒の家へと送られた。そこにいたのは、深い悲しみの中に閉じこもったような、一人の少女だった。


 彼女は、大切な人を目の前で失ったショックで、心を閉ざしてしまったのだという。

彼女の部屋に入った瞬間、僕の胸の奥が、ちりりと熱くなった。

理由なんて分からない。ただ、この人を放っておけない。この人の瞳に、もう一度だけ光を取り戻してあげたい。


 僕は彼女の足元に歩み寄り、冷たくなった彼女の手に、温かい鼻先をそっと押し当てた。


「……わんっ!」


 彼女がゆっくりと顔を上げる。その瞳に映る僕は、ただの犬だ。彼女を守って死んだあの少年の面影なんて、どこにもない。それでも、彼女は震える手で、僕の頭を優しく撫でた。


「……あなたも、いつか、いなくなっちゃうの?」


 その声を聞いたとき、僕の尻尾はちぎれんばかりに振られた。記憶はなくても、魂が覚えている。僕は、この人のために、またここにいるのだ。


 窓の外では、あの時と同じように雪が街を飾り付けている。僕は彼女の膝に顎を乗せ、心の中で誓った。

今度の生は、すべて君の笑顔のために捧げよう。


 それが、僕という「星の子」に与えられた、最後で最高の時間なのだから。


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