木枯らし持ってこい!
演出効果として”木枯らし”を使ったら、どんなだろうか…。そんな思いで創ったストーリーです。
「おい!木枯らし持ってこい!」
“え、これ以上寒くするのか!?”
というのが、出演者・スタッフ一同の思い。冬の夜ということが伝わればいい、という演出プランだったじゃないか!既に何度も撮り直して、現在夜中の一時。凍てつく街中で、更に寒さをプラスオンするのか?納得が行くまで撮るのが、妥協知らずの“芝組”。とは言え、皆、我慢の限界もある。
芝監督率いる“芝組”が撮っているのは、天才子役コンビ・綺羅と亮の10年ぶりのドラマ。低迷している月9で起死回生を狙う、局を挙げてのドラマである。年齢的に子役から“俳優”へ成長したコンビをウリにしたいのだが、優等生子役が抜けない綺羅と、女の味を覚えてしまった亮は、演技がかみ合わない。キスシーンや濡れ場なんて安っぽいものではなく、「初めて異性としてお互いを意識する」という心の機微を体現させたい芝は、絶対に妥協を許さない。
「綺羅、ちょっといいか。」
「はい…。」
「このシーンの意味は分かってるか?」
「同窓会で盛り上がっている中、喧嘩をして飛び出して…亮が追いかけてくる。それでもなお、喧嘩は続いて、私は亮の手を振り払って…。その瞬間、お互いを異性として初めて意識する…ですよね。」
「そこがよ、理屈っぽいんだよ。部屋の暖かさと外の寒さを極端にするためにも、木枯らしは持ってくるぞ!絵面は勿論だが、なんのためにそこまでお前たちを追い込むと思う?」
「そ、それは…。」
「体感温度の差がな、面白い化学反応を起こすんだよ。」
監督とのやり取りが終わり、撮影再開。
「よーい、アクション!」
同窓会会場から、綺羅が飛び出す。外は木枯らし。上着を着ずに出てしまった綺羅を追いかける亮。
「おい、待てよ!」
「何よ、私のことなんか…何も分かってないくせに!」
「いいから!」と言って、綺羅の手を掴む亮。
“こいつ…?”
お互い、見つめ合う。綺羅の潤んだ瞳。
「お前…こんなに冷たくなって…。温めてやれるのは、俺だけだろ!」
「はい、カット!!」
モニタ―チェック。
「見たかよ、綺羅。」
「はい。」
「あれ、亮のアドリブだぜ。」
「…。」
「ヤツをマジで振り向かせたな。」
綺羅は、監督の教えてくれたエピソードで“木枯らし持ってこい”の意味が分かった。
「ある女形が言ってたんだ。手を握られる場面の時は、必ず舞台袖で氷水に手を浸してから出るんだと。“女の冷たい手を握ると、男は守ってやりたくなる”んだってさ。」
了
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