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木枯らし持ってこい!

作者: 御稜 東
掲載日:2025/12/18

演出効果として”木枯らし”を使ったら、どんなだろうか…。そんな思いで創ったストーリーです。

「おい!木枯らし持ってこい!」


 “え、これ以上寒くするのか!?”

というのが、出演者・スタッフ一同の思い。冬の夜ということが伝わればいい、という演出プランだったじゃないか!既に何度も撮り直して、現在夜中の一時。凍てつく街中で、更に寒さをプラスオンするのか?納得が行くまで撮るのが、妥協知らずの“芝組”。とは言え、皆、我慢の限界もある。


 芝監督率いる“芝組”が撮っているのは、天才子役コンビ・綺羅(きら)と亮の10年ぶりのドラマ。低迷している月9で起死回生を狙う、局を挙げてのドラマである。年齢的に子役から“俳優”へ成長したコンビをウリにしたいのだが、優等生子役が抜けない綺羅と、女の味を覚えてしまった亮は、演技がかみ合わない。キスシーンや濡れ場なんて安っぽいものではなく、「初めて異性としてお互いを意識する」という心の機微を体現させたい芝は、絶対に妥協を許さない。


 「綺羅、ちょっといいか。」

「はい…。」

「このシーンの意味は分かってるか?」

「同窓会で盛り上がっている中、喧嘩をして飛び出して…亮が追いかけてくる。それでもなお、喧嘩は続いて、私は亮の手を振り払って…。その瞬間、お互いを異性として初めて意識する…ですよね。」

「そこがよ、理屈っぽいんだよ。部屋の暖かさと外の寒さを極端にするためにも、木枯らしは持ってくるぞ!絵面は勿論だが、なんのためにそこまでお前たちを追い込むと思う?」

「そ、それは…。」

「体感温度の差がな、面白い化学反応を起こすんだよ。」


 監督とのやり取りが終わり、撮影再開。

「よーい、アクション!」

同窓会会場から、綺羅が飛び出す。外は木枯らし。上着を着ずに出てしまった綺羅を追いかける亮。

「おい、待てよ!」

「何よ、私のことなんか…何も分かってないくせに!」

「いいから!」と言って、綺羅の手を掴む亮。

“こいつ…?”

お互い、見つめ合う。綺羅の潤んだ瞳。

「お前…こんなに冷たくなって…。温めてやれるのは、俺だけだろ!」


「はい、カット!!」

 モニタ―チェック。

「見たかよ、綺羅。」

「はい。」

「あれ、亮のアドリブだぜ。」

「…。」

「ヤツをマジで振り向かせたな。」

綺羅は、監督の教えてくれたエピソードで“木枯らし持ってこい”の意味が分かった。

「ある女形が言ってたんだ。手を握られる場面の時は、必ず舞台袖で氷水に手を浸してから出るんだと。“女の冷たい手を握ると、男は守ってやりたくなる”んだってさ。」


お読みいただき、ありがとうございます!

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