⑤ふたりとの出会い
山賊たちと少年による、戦闘と流血シーンがあります。(少年は鼻血以外は無傷です)
そういったシーンが苦手な方はこのお話の後書きに飛んでください。
3行あらすじを後書きに書いておきます。
山賊たちはニヤついた。
「あ? なんでこんなとこにガキが?」
「まあいい、こいつも攫っちまえ」
「女のガキは高く売れる! 今日はツイてるなァ!」
「ンメメーッ(逃げてーっ)!」
マミリアは少女へ逃げるよう叫んだが、猿轡のせいで言葉にならない。当然少女は逃げ出しもせず、立ち尽くしている。そこに山賊の一人が近づき、手を伸ばそうとした。
その瞬間。
「モファ、そこにいろ。俺が全部やる」
少女の声とは違う、やはり凛とした声が響いた。それと同時に彼女の横から、同じくらいの背丈の人影が飛び出す。その人物の手元がギラリと輝いたかと思うと、金色の閃光が山賊の伸ばした腕を撫でた。
男は一瞬、何が起きたのか理解できなかったようだが、腕に数本の赤い筋が現れ、すぐに血が吹き出す。ダミ声の叫びが山中にこだました。
「……あ? ぎゃあああ!」
「なっ、なんだこいつ!?」
「殺せ!」
他の山賊たちは腰に差していた剣を一斉に抜く。マミリアを担いでいた男も、彼女を脇に放り投げ剣を抜いた。
「んァッ(痛っ)!」
地面に投げ落とされたマミリアは、全身に響く鈍い痛みに目をギュッとつむる。その目を開いた時には、叫び声が聞こえてくるとともに様相は一変していた。
「ぎゃあああ!!」
「このクソガキ……うわあっ!」
「囲め!……アッ!?」
あの護衛ですら4対1では大怪我を負っていたのに、5人に囲まれた小さな影はとても素早く、そして踊るように山賊の攻撃を躱していく。ある時は木の陰に回り込み、ある時は敵の股下をくぐり抜け、また時には高く跳び上がる。そうして躱しざま、反撃の刃を相手に浴びせていくのだ。
刃の形も変わっている。少なくともマミリアは初めて見る武器だった。5本の尖った黄金の刃を、包帯でぐるぐる巻きにして右手の指にそれぞれ装着している。指にくっついているので攻撃できる範囲は狭いが、自在に動かせるようだ。
その刃で山賊たちは少しずつ斬り刻まれていった。
「くそ、退くぞ! 退けっ」
「女は!?」
「置いてけ!」
山賊のリーダーは、これ以上は致命的な傷を負いかねないと判断したらしい。仲間に声をかけ、逃げようとした。
「逃さない」
が、それまで静観していた少女が走り出すとふわりと跳んだ。逃げ遅れた一番後ろの山賊に、見事な跳び蹴りを食らわせる。それは背中にもろに入り、男は「グエッ」と声を上げて倒れた。他の仲間は、倒れたひとりを置き去りにして散り散りに逃げていく。
先程の小さな影が倒れた男に近寄り、男の首筋に5本の刃を添わせる。刃の持ち主は少女と同じ背丈、同じオレンジの髪の、ボロボロの簡素な衣服を身にまとった少年だった。
「今から質問する。本当のことを言わなければ首を切って殺す」
「や、やめろ。わかった。なんでも言う……」
「前に金髪の女を攫ったな? 美人の」
「い、いや……そんなのは」
少年の指先が……男の首に添えられた刃先が、かち合ってチャリ、と小さな音を立てる。
「ほっ、本当だ!! 本当だよ! 女なんて、そこのが久しぶりの獲物だよ! 金髪の女なんてずっと見てない!!」
山賊は恐怖に震える指で、縛られているマミリアを指差した。少年は琥珀色の目を彼女にチラと向けてから、その目をいっそう冷たくして男を見下ろす。
「では黄金の狐の行方について知っているか」
「は!? それはダンジョンに住む伝説の魔獣じゃ!? そんなのいるわけないし、いたとしても山で会うわけないだろ!!」
聞いていたマミリアにも、脅されている男の声色に嘘の臭いは感じられなかった……もっとも、彼女は狡猾な人間の嘘に気づけず騙された過去があるのだから、説得力が無いのだが。
少年も山賊が嘘をついていないと判断したらしい。だがその指先が、首ではなく口の横をかすめる。
「ヒィッ!」
2本の平行な筋が、男の口の横に小さく刻まれた。特徴的な目印を付けるために。
「お前の仲間に伝えろ。次に会った時には全員殺す。死にたくなければ山を下りて真面目に生きろ」
「わかった! ……わかった!!」
男は這々の体で逃げ出した。後に残されたのは、少年と少女と、縛られたまま地面に転がるマミリアだけ。
そのマミリアの横に少年が歩んできた。彼の指先が彼女の腕と足を縛っている縄にかかる。あっさりと縄は切れ、拘束が解けた。
「あ、ありが……っ!?」
マミリアのお礼の言葉は途中で途切れる。
突如、少年のツンと尖った鼻の先からボタボタと鼻血が流れ出したから。
「……あ、れ?」
少年は、ひと言発したのを最後に虚ろな目になり、力が抜けて膝をつく。そのまま後ろ向きに倒れかけたところを、マミリアは咄嗟にキャッチした。
「お兄ちゃん!?」
少女が駆け寄り、少年の顔を覗き込む。だが彼は声かけに反応せず、息も急に荒くなってきた。マミリアが抱いた身体も熱を発しているのか、熱く感じる。
少女の目が潤む。
「あれだけ限界まで力は使わないで、って言ったのに……!」
マミリアはポケットからハンカチを取り出した。両の鼻の穴に詰めるため、彼の武器を使ってハンカチを割こうと思ったが。
「?」
金色の刃は見当たらず、代わりに穴の開いた包帯がただ指に巻かれているだけだった。いつの間に武器を取り外したのかと疑問は浮かんだが、今はそれどころではない。
ハンカチの端と端を両方の鼻の穴に詰める。少し間抜けな姿だが、迅速生を優先したので仕方ないだろう。鼻血が逆流して喉を塞がないように、うつぶせ気味にして抱きかかえ直す。
(あれ?)
なんだか少年の背中からお尻のあたり、衣服の中がポッコリしている気がすると彼女は感じた。何か詰めているのだろうか。だとしたら動きにくいだろうが……まあ、今はそれよりも大事なことがある。
「どこか、休めそうなところはある?」
「……」
マミリアの質問に少女は少しの間ためらっていたが、今は兄の容態が優先されると思ったのか、口を開く。
「……こっち。着いてきて」
3行あらすじです。
少女を捕まえようとする山賊だが、その脇から同じ背丈の少年が現れる。その右手には包帯が巻かれ、指に金色の五本の刃がつけられていて、その武器で山賊たちを圧倒する。
山賊たちはマミリアを放り出し逃げる。少年は逃げ遅れた山賊の1人に「金髪の女」と「黄金の狐」について尋ねるが手掛かりなし。彼は「殺す」と脅していたが、結局山賊をわざと逃がす。
そのあと、少年は鼻血を出して倒れる。マミリアは彼を抱え、少女の先導で休める場所に向かう。




