④一石三鳥?
商隊の護衛と山賊による、ごく軽い戦闘及び流血シーンがあります。
そう言ったシーンが苦手な方は文中に2回現れる
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の間を読まないように飛ばしていただくと回避できます。(読まなくてもだいたい話は分かると思います)
◇◆◇
出発前まで、時間を巻き戻そう。
商会長には「馬車が狭くても構いません!」と啖呵を切ってみせたマミリアだったが、いざ荷馬車の現物を見て言葉を失った。荷台は想像以上にギュウギュウで、彼女の入り込む隙間など、一切無かったのだ。
馬車の御者が同情し、自分の席を詰めて横に座らせてくれた。問題は、マミリアのトランクを置く場所が御者台にはないことだ。荷台と違って御者台はベンチタイプで囲いがないため、両手でトランクを抱えて揺られながら乗るのでは危険すぎる。下手をしたら馬車から落ちかねない。
やむなくマミリアはトランクを荷台の隙間にギュウギュウと押し込むことにした。しかし一旦押し込むと簡単に取り出せそうにもない。
馬車の運賃はミセスピラーの口利きのおかげでタダだったが、この先どこかの町で宿泊や飲食をする際には路銀が必要だ。その度にトランクを出し入れするのは大変だし、商隊にも迷惑がかかる。
「そうだわ!」
マミリアはトランクからお金の入った革袋を取り出すと、紐をつけて首から下げた。これなら両手が空くし、トランクは目的地まで荷台に入れっぱなしでいい。
「おいおい、マジかよ」
「子どものお使いじゃないんだから」
「故郷の息子を思い出すなあ。小遣いを大事にそうやって抱えてたっけ」
護衛や御者、商人たちは大笑いし、朗らかな時間が流れる。マミリアはかつてのカフェでも、お客たちにこうやってイジられるポジションだったのを思い出した。
下働きはともかく、接客をする給仕の店員はみな都会的な美人ばかりで、自分ひとりが田舎者丸出しの芋娘だったのだ。それでもカフェで働く内に、少しは芋臭さが抜けて洗練されたとは思うのだが……。
「君はそのままで充分魅力的だと思うよ。少なくとも俺は、君のお茶と笑顔に癒されてる」
ふと、ユーステスの言葉が頭をよぎる。自分が周りと比べて垢抜けないことを悩んでいた時に、彼がサラッと言ってくれたのだ。きっとユーステスは何気なく言ったのだろうが、マミリアにとっては大切な想い出のひとつだった。
「……」
彼女は頭をフルフルと小さく左右に振る。想い出を断ち切るように。
(まあとにかく! 両手が空いてお金も自由に取り出せる上に、皆にもウケたんだから一石三鳥だわ!)
マミリアは能天気に思い、馬車に乗り込む。無理やりに能天気になったのだった。
……だが、能天気過ぎた。壁で囲まれ門番が関所を固め、なおかつ壁の内側には衛兵が巡回している王都の街と、その外では危険が段違いなのに。
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そして王都を出発した翌日の昼頃、街道でもひとけのない山際で、商隊は山賊の襲撃を受けたのだった。
「馬と荷物、全て置いて行け! そうすりゃ命は助けてやるぞ!」
そう宣言した山賊は全員で5人、対して商隊の護衛は2人だった。ところが平時こそのほほんとマミリアに接していた2人の護衛は意外と手練れだったようで、商隊を巡る攻防は拮抗した。
拮抗したということは、決定的ではないものの、双方に怪我人が出るレベルの戦いだったということだ。
山賊の一人が肩口を斬られたのをきっかけに、奴らは護衛を一人ずつ潰すことに作戦を変更したらしい。片方の護衛が四人に囲まれた。そのうちの一人が手負いと言えど、流石に多勢に無勢だ。
遂に護衛が抵抗しきれず脚を大きく斬られてしまう……マミリアの目の前で。
「きゃあっ!」
おびただしい鮮血が飛び散る様子に、彼女は思わず大声をあげてしまう。次の瞬間、山賊が一斉にマミリアを見る。
「女だ!」
今まではマントのフードを被っていたので気づかれていなかったが、女だと知ると複数人がマミリアに近寄る。思わず後ずさりをした彼女の胸元からじゃらりと貨幣の音がした。
その音に、山賊たちの目が更にギラリと光る。
「金だ!!」
もちろん、護衛は「待て」と止めようとしたが、脚を斬られて思うように動けなかった。
……そんなわけで、マミリアは山賊たちに連れ去られてしまったのである。
◆
「ムムーっ! ふぅッ!」
マミリアは精一杯叫び、暴れて抵抗しようとした。だが無駄だった。今は猿轡を噛まされ、手足を縛られて山賊に担がれているのだ。
「ハハハ! 随分と活きがいいなァ!」
マミリアを連れ、更には怪我人もいるにも関わらず、山賊どもは山中の道なき道をずんずんと進んでいく。おそらくこの山を拠点にして商隊や旅人を襲い、勝手を知っているのだろう。
馬車からはすでに遠く離れ、山の中腹まで来てしまった。あの商隊が近隣に助けを求めてくれたとしても、山賊たちの逃げ足を考えればとっくに手遅れだ。
(私って、なんて馬鹿なの!!)
この山賊どもも相当ムカつくが、マミリアは自分の馬鹿さ加減にも腹が立っていた。
首からお金の詰まった袋を下げるなんて、なんて愚かだったのだろう。
どこが一石三鳥なものか。山賊からすれば鴨がポロ葱を背負ってる状態だ。商隊の荷物は奪えても重くてかさばり、売り捌く時も足がつく恐れがある。だが女と金は価値があるうえ、利用するのもお手軽ではないか!
きっとアイビー伯爵家で安全に暮らす内に、危機意識が甘くなっていたのだ。一度は王都内ですら、そうとも知らず危険な崖っぷちに立たされていた経験もあったのに。
マミリアは自分の浅はかさを後悔し、そしてせめてもの抵抗でまた身をよじり、精一杯暴れる。
「ンムーっ!」
だがその抵抗は、山賊たちの下卑た笑いを誘うだけだった。
「姉ちゃん元気だなぁ!!」
「ギャハハ! こりゃ楽しみがいがありそうだぜ」
男たちから臭い息を吹きかけられ、湿った目で身体をじろじろと見られてマミリアの肌が恐怖で粟立った。
このあと山賊の拠点に到着したなら、どんな目に遭わされるかは明白だ。
彼女が口を閉ざすと、山賊たちは最初は面白そうに笑っていたが、やがて彼らも口をつぐみ足を早めた。夕暮れ前に拠点へ到着したいのだろう。
しばらく一行が進んだのち。
「……見つけた。お兄ちゃん」
太陽が傾き、その光が木々の隙間から斜めに差し込む山中に、幼いながらも凛とした声が響く。
山賊たちは足を止めた。と、木の陰から6歳くらいの幼子が現れる。橙色の髪も、身に着けた衣服も汚れてボロボロの少女だった。




