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モフモフな子どもが二人もいるのに、結婚なんてできません!  作者: 黒星★チーコ


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3/6

③トラブル発生


「この手紙はイエローシープ商会宛よ。街で私の親戚が営んでるの。田舎に帰るなら馬車が必要でしょう。商隊の馬車に乗せてもらえるようにお願いをしてあるから、商会長に渡してね」

「ピラーさん、ありがとうございます……」


 お金だけではなく心の籠った餞別を貰い、マミリアは涙ぐんだ。上司と別れのハグをして、そっと伯爵邸の裏口から出る。


 振り返るとアイビー伯爵邸の立派な建物が視界を埋める。たったの二ヶ月足らずの奉公でも、いろんな思い出が詰まる場所だった。

 つらいこともあったが、カフェにいた頃より少しは読み書き計算も上達しているし、ハウスメイドとして様々な経験も身についた。ここでの仕事のおかげで、紹介状が無くてもどこかで働けるだろう。


 誰が見ているわけでもないのに、マミリアはぺこりと屋敷に向かってお辞儀をする。

 そして彼女はそのまま城下街の商会が立ち並ぶ通りへ向かい、紹介してもらったイエローシープ商会の扉をくぐった。


「ああ、あの村出身なのかい? ずいぶんと遠いところから来たんだねぇ」


 イエローシープ商会の商会長はミセスピラーに少し顔立ちが似ていたが、仕事柄なのかとても表情が豊かだった。

 彼は手元の帳面をぱらぱらとめくっていたが、目当てのところを見つけると「ん!?」と見直し、そしてあからさまに困った顔をした。


「他でもない大従姉(おおねえ)さんの頼みだから聞いてやりたいんだが……まいったな、どうしようか」

「あの、駄目ですか?」


 シュンとしたマミリアを見た商会長は、慌てて手を横に振る。


「いやいや、駄目ではないがタイミングがね。君の村を通って、そのまた先の街に行く商隊があるにはあるんだが……今日、もうすぐ出発してしまうんだよ。その次は一ヶ月後の予定なんだ」

「え!?」

「もう既に馬車に荷を積んでしまっているから、君の座る場所なんて殆ど無いと思う。かなり窮屈な思いをすると思うんだが……荷を下ろす訳にもいかないし」

「いいです! 荷物でギュウギュウでも構いません!」


 マミリアは前のめりで商会長にかけあった。元々「田舎に帰る」なんてあの場で咄嗟に出た思いつきだったのだ。両親を流行病(はやりやまい)で亡くした彼女は村に居づらくなって王都に出てきている。だから、帰る家などない。

 それでも他に行くところの当てもないし、一旦は出身地の村を目指そうと考えていた。


 王都に来るまでの旅の間、立ち寄った幾つかの町では、居心地が良さそうなところもあったはずだと記憶している。だから旅を途中でやめて、どこかの町で新生活を始めてもいい。ミセスピラーから貰った纏まったお金があれば、当面は何とかなりそうな気がしていた。


 とにかくマミリアは一刻も早く王都を離れたかったのだ。王都にいれば嫌でもユーステスの事を思い出してしまう。そして今朝の寝室の光景や、彼がマミリアのお茶に対して『そんなもの、要らない』と言ったことも。


(渡りに船とはこのことよね! 今日出発だなんて、なんてタイミングがいいのかしら!)


 もう一日、日付がズレていたら一ヶ月も王都に滞在しなければならないところだった。

 彼女は、自分はやはり運が良いと思っていた。


 ……実際には最悪だったのだが。


 マミリアを乗せた商隊の馬車が王都を出発した直後、ミセスピラーからの遣いの男が商会にやって来た。

 この男はアイビー伯爵家の使用人の中でも末端の、あまり勤勉ではない下男(げなん)だった。彼は既にマミリアが居ないと聞くと、一瞬口をへの字にする。しかし。


「まあ、いいか。メイドの一人くらい、もう居なくても」


 ……と勝手に判断し、せっかく街に来たのだから、ついでに楽しもうとブラブラして帰って行ったのだ。


 まあミセスピラーもこの時点では、マミリアがそんなにすぐに出立するとは予想もできまい。特に急がなくても彼女を連れ戻せると考えていた。


 何より他の件(・・・)で伯爵邸は大騒ぎの渦中であったのだ。

 その件はスキャンダラスで、様々な事情から決して外に漏らせない話でもある。

 真面目な使用人はそちらの対処に充て、彼のようないいかげんな男は屋敷からは遠ざけておかないと、後々噂話の種にもなるというもの。

 不真面目な下男でも「商会に行って一旦マミリアさんを止めて」というくらいの遣いなら、きちんと果たせるだろうと、ミセスピラーは判断した。


 しかし後に、ミセスピラーはこの判断を激しく後悔し泣き崩れる。また、商会に裏を取られて遊んでいたことがバレた下男は、ユーステスにひどく叱責されることになるのだ。


 夕方になって、下男は帰ってきた。マミリアが既に出立済みという報告を聞いたユーステスは自分が動けないため、代わりの早馬に乗る追手の者を仕立て、商隊を追いかけさせた。だがもう既にかなり時間が経ってしまっている。早馬とはいえ夜道は危険だから余り進めない。商隊に追いつけるのは早くても翌日だろう。


 そして翌々日、追手は憔悴して帰ってきた。片手にマミリアのトランクを持って。


「商隊は道中で山賊に襲われたそうです。護衛も応戦したそうなんですが、マミリア嬢はそいつらに攫われた……と」

「なんだと!」


 顔を蒼白とさせたユーステスに、追手は悔しさを滲ませて報告する。


「無念です。私が商隊に追いついた時、マミリア嬢が攫われてから一時間ほどしか経っていませんでした。もう少し早く追いかけることができたなら、間に合ったでしょうに……」


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