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モフモフな子どもが二人もいるのに、結婚なんてできません!  作者: 黒星★チーコ(黑星ちい子)


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15/16

⑮居場所を見つけました

 ★


 その日の昼どき。

 酒場と言ってもランチタイムは酒を飲む者は少なく、手頃な価格の昼食を摂りにやって来る冒険者や旅人、街の住人などでテーブルはいっぱいだ。


 そんな中、朝にデーツが言っていたことが早速現実となった。


「おい、見ない顔だな。新入りか?」


 忙しく食事の皿を運ぶマミリアに、冒険者とおぼしき客の一人が声をかけたのだ。彼女は笑顔で元気よく応える。


「はい! 今日からここで働くことになりましたマミリアです!」

「ふ~ん、マミリアちゃんか」


 客の男はニヤニヤしながら皿を下げようとした彼女の手に触れた。

 彼の仲間であろう連れの男たちは「コイツの悪い癖がまた始まった」「おい、やめとけよ」と口では言うが、笑っていて真剣に止める気はない。仲間の言葉で更に男は調子に乗ったようだ。マミリアを見ながら手の甲をつう、と撫でてきた。

 その目つきと撫で方に、彼女の背中にゾワッと寒気が走る。


(ど、どうしようっ! ええと、こんな時どうしてたっけ……?)


 王都のカフェではもちろんこんな目には遭ったことがない。彼女は常に子供扱いかイジられ役だったのだから。だが、稀に下世話な男が美人店員に言い寄ることはあった。その際に口説かれた店員が上手く躱していた様子は何度か目にしている。マミリアはそれを必死に思い出して、同じように目の前の男を躱そうとしたのだ。


 しかし彼女が記憶の糸を手繰るよりも遥かに速く動く者がいる。ギルドのサブマスターはマミリアの横へ飛ぶようにやってきて、稲妻の如き速さで拳骨を不届者の頭へ落としたのだった。


「あ(いて)っ!!」

「何やってんだい! ここはそういう店じゃないよ!」

「ヒデえなデーツ。いきなり殴るこたぁねぇだろ」

「へぇ」


 デーツの目がすぅっと冷たくなる。彼女が右手の指をパチリとはじくと、まるでマッチでも手にしていたかのように指先から小さな炎が出現した。


「これでも優しく手加減してあげたんだけどねぇ。火ダルマになりたいかい?」

「お、おいおい、冗談だろ……」

「冗談はアンタの顔だけにしな。マミリアちゃんはアンタらみたいな男の悪ふざけを知らない子なんだよ! 怖がらせちまったじゃないか」

「えっ」


 不届者がマミリアの方を向く。確かに彼女の顔は恐怖で青ざめ、身体をカチコチにこわばらせていた。


「すまねえ。本気で怖がらせるつもりはなかったんだよ。ちょっと可愛いから、ワンチャンあるかなって反応を見たかっただけで。許してくれ、この通り!」

「えっ、あ、はい……」


 平謝りされてマミリアもやっと声が出る。男の態度に嫌悪感と困惑を抱いたのは本当だが、どちらかというと怖かったのは、デーツが凄味を利かせながら「火ダルマ」発言をした方だ……が、今それを言ったら話がややこしくなりそうなので、彼女は黙っておくことにした。


「次やったら出入り禁止だからね。あと詫びの気持ちがあるなら、お茶を注文してやりな」

「えっ、茶ぁ?」

「この子の淹れるお茶は、癒しの力がある特別製だよ!」


 デーツに勧められ、半信半疑で男はマミリアのお茶を注文する。


「……じゃあ一杯頼むわ」

「はいっ! かしこまりました!」


 有料での注文はこれが初めてだ。マミリアは張り切って厨房に飛び込み、いつも通りに心を込めてお茶を淹れる。


「お待たせしました。どうぞ!」

「お、ありがと」


 お茶を提供したあと、マミリアはお盆を胸に抱えドキドキしながら客の様子を見守る。男はひと口飲んだ途端、ギョッと目を剥いた。信じられないと言った様子でふた口、三口(みくち)と続いて飲む。飲み下したあと、呆然とマミリアの方を見た。


「……」

「?」


 首を軽く傾げる彼女の横で、デーツが得意気に言う。


「だから癒しのお茶だって言ったでしょ。もちろん変な混ぜ物はしてないよ。この子の魔法だけだ」

「……まさか、弱いとは言え治癒魔法の遣い手だったとは」

「可愛らしい女の子だからってナメちゃいけないよ。今後も酒場でこの子のお茶を出すつもりだからね」

「いや、これは失礼した。これからも世話になると思う。よろしく頼む」


 男は態度を改めた。着座のままではあるが、マミリアに深々と頭を下げたのだ。


「あっ、は、はい!」


 彼女は男の態度に戸惑いながらも謙遜せずに応えた。昨日デーツやザクスに言われた「治癒魔法は貴重」という言葉の実感がじわじわと湧いてくる。


(ここなら、私も役に立てるかも……!)


 あの衝撃的な朝、失恋したのはもちろんショックだったが、ユーステスにお茶を『要らない』と言われたこともマミリアの心に孔を空けた。

 それまで搾取されたり騙されたりばかりだった彼女に優しく手を差し伸べてくれたユーステス。彼のそばだけが安心できる彼女の居場所だったし、お茶を淹れるスキルだけが、彼のそばに居られる理由だったのに……それを要らないと言われたのだから。


 でも『虎の目』では皆がお茶を美味しいと喜んでくれるし、たとえ弱くても魔法の力があるならば認められ尊重して貰える。ここにはユーステスは居ないけれど、自分の居場所は見つけられる気が、する。

 その考えが彼女に自信と喜びとを与えてくれ、心の孔がじんわりと埋められていくような気がした。


 ★


 ランチタイムが終わると、酒場は一旦営業を休み、厨房は休憩のあと夕食の仕込みに入る。

 マミリアは3時間ほど休憩を取ってよいことになっているが、今日はまかないを食べてからデーツに誘われてモードレの街を歩いていた。


「あそこがこの街で一番大きい万屋(よろずや)だよ。必要なものは全部揃ってるけど、品質も値段も高いんだよね」

「へぇ~」

「品質はそこそこでいいなら、あそこの角を曲がった先にもっと小さい雑貨屋が幾つかあるから、店をハシゴして欲しい物を揃えた方が安く済むよ」

「あ、そうします! ありがとうございます」


 こんな感じで街を案内されながら二十分ほど歩き、中心地からはだいぶ離れてきた。周りの雰囲気も集合住宅ばかりではなく、一軒家が混在してきている。とはいえ、下町でもそれほど治安が悪い感じはしなかったが。


「着いたよ。ここが目的地」


 デーツはとある家の前で足を止めると言った。


「ここですか?」

「うん、実はうちのボスの家なんだけど」

「アダマンさんの?」

「そ。ギルドマスターになった報酬で家を買ったんだけどさ、一人暮らしには少し広いし、ギルドからもちょっと歩くでしょ? 結局宿屋の部屋に住んじゃって、ここは今は空き家なんだ」


 デーツはポケットから取り出した鍵束を使い、門扉の鍵を開ける。


「ボスが、もし良かったらマミリアちゃんにここに住んで貰ったらどうかって言ってくれてさ」


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