初陣
邦彦自身も参加主体者としての部屋に入るのは初めてであった。これまでは『次の』参加主体者として言わば観戦者であった。
部屋も椅子も全てがほぼ同じである。
だがあの時爆発することがなかった爆弾が今回は本当に爆発する。
バロック様式を思わせる豪華な様相に後ろについて入ってきた広昭は「すっげ、まじか」と呟いた。
邦彦は笑むと
「まあ、椅子に座るともう目に入らないけどな」
とハハハと乾いた笑い声を零した。
爆弾が仕掛けられた椅子に縛り付けられて壁の絵画や柱の彫り、置かれている様々な調度品を楽しむことができる訳がなかった。
広昭は邦彦のすぐ横に特別に設置された椅子に座りながら
「確かにな」
と告げた。
邦彦は椅子に座り両手と両足に枷が掛かると息を吸い込み
「開戦準備に入る。日本自衛隊戦力を確認する」
と告げた。
瞬間に正面の壁一面を使った画面に現れた戦力に目を見開き静かに笑みを浮かべた。
「教授……サンキュ」
広昭は顔を邦彦に向けた。
「結構数が多いな。一人で指示出すのか?」
邦彦は広昭を見ると
「これが、この前教授に頼んだチートの答えだ」
と告げた。
「本来どの国も60小隊と決まっているんだ。だから60小隊ごとに軍分けされているだろ? 教授はかなり気を聞かせてくれた」
画面には60小隊の4軍の画面が現れたのだ。
これによって宣戦布告をしてきた国がどれだけの味方をつけているかもわかる上に軍分けされているのでこちらのチートが向こう側に分かりにくいのだ。
向こうから見れば4か国が追加参戦してきたと見えるからだ。
邦彦は笑みを浮かべ
「向こうは3か国を味方にしたんだ。あそこと日本は敵対指定参加国だ。だとすれば二か国は北側から駆け付けてくる可能性の国で残り一か国が……北か、それとも南か。両方が横手になるか」
と呟いた。
参加国数を知らなかったら目の前のその国と交戦している間に背後に回られて、もしくは横手から強襲されて敗退する可能性があった。
「敵国と同じにしてほしい」という本当の意味をちゃんと森野貞芽は理解していたのだ。
広昭は邦彦を見た。
「それでどうするんだ? まさかそれぞれに向かう訳じゃないよな?」
邦彦は頷いた。
「もちろんだ。序盤はこちらの方が圧倒的に兵力が多いのに態々分散するつもりはない。先ず主体国と向き合うのがこのゲームの『決まり』だから圧倒的数量で一気に各個撃破する」
広昭は少し考えて
「確かにそうだな。けど」
と呟いた。
相手を押し切る前に近場から駆け付けて来たらと言いかけた。
邦彦はそれを読み込むと
「ああ、それに関してはこちらの協力国と打ち合わせをしている。地形的に敵は横手からの援軍が最初到着する可能性が高いからそれを抑えてもらうように言っておいた」
と告げた。
「序盤兵力は1対4だから一軍だけ北からの援軍の足止めに置いておいて1対3の兵力で主体国を叩きのめす。火力と防御力は同じでこちらは向こうが参加依頼した国の数だけ一気に攻め込めるからな」
そう、三倍の戦力を増強しているのだ。数で押せるということだ。
「一気に畳みかけて援軍に来た国も時間差を利用してそれぞれ各個撃破していく」
地図を広げて援軍があった場合の航路も計算した。
「まさか三か国とは思わなかったけど……まあ問題ない」
広昭は笑むと
「じゃあ、北側の配備につく一軍は俺が指揮するよ」
と告げた。
邦彦は頷くと
「任せた」
と返した。
時計の針はコクコクと進み9時半になると自軍初期配備位置にそれぞれの小隊の配備を始めた。
この『戦争』のタクティクスゲームもある程度現実に沿っており急に遠い場所に配備は出来ないのだ。
なので、今回の作戦は序盤の圧倒的戦力差を利用した各個撃破をしようと決めたのである。
邦彦は敵は時間稼ぎをするために防御型をしてくるだろうと考え一気に破壊するための魚鱗で突っ込む事にしたのである。
圧倒的多数で行う場合は鶴翼で包み込むことも考えられるが誘いに乗ってこないことが分かっているからである。
三か国の援軍があるのだから通常は待つだろう。
つまり防御陣形で時間稼ぎである。
邦彦は配置を終わらせると固唾を飲み込んだ。
北側の足止め軍を任された広昭も息を吸い込み10時を示す時計を見つめた。
邦彦と広昭の初陣であった。




