チート条件
森野貞芽は静かに笑みを浮かべると
「人類に平等をもたらした欲のないAI政治システム。アースマザーシステムはそうだと思われているけどそんなわけないのよね」
とさっぱりと告げた。
「アースマザーシステムを作ったのは人間なんだからちゃんと『カースト制度』になっているの。下層は藤原邦彦くん、君が所属する『かつての権力者階級』そして中層は『一般市民いわゆる首相クラス以外の人々』そして頂上は『アースマザーシステムを作ったエンジニアの子孫』よ」
彼女はそう言うと
「確かにAIシステム自体には欲はないわ。けれどそれを作った人間には余りある欲があった。君が私に目をつけたのはどのゲームでも私がチートをすることが出来たところでしょ? いま何も知らずに人々が遊びに使っているゲームも映画や動画も全てアースマザーシステムが管理をしている。そのゲームで不正を仕掛けることができることが貴方の目を引いた。違う?」
と指をさした。
正にその通りであった。
邦彦は自分が逃げ出しても防犯カメラの映像を把握してアースマザーシステムが自分を追いかけてくるという事実に着目したのだ。
人々は気にしてない配信ゲームも何もかもがアースマザーシステムの検閲を知らぬ間に受けていたとして、それに不正を仕掛けることができ、且つ放置されていることが気になったのだ。
もしかして。
それが出来る人間なら重要度は違っても『アースマザーシステムが不正をお目こぼしするのではないか』と思ったのだ。
広昭は一瞬広がった沈黙の中で
「あ、あの。俺は? 中層?」
と聞いた。
……。
……。
邦彦と森野貞芽は同時に彼に目を向けた。
この緊迫した状態でその質問? と同時に心で突っ込んだ。
邦彦は冷静に
「そう思うけど、俺は分からない」
と答えてチラリと森野貞芽を見た。
森野貞芽はにっこり笑うと
「期待を裏切って悪いけど、私も知らないわ」
とさっぱり答えた。
広昭は複雑な表情を浮かべて
「あー、まあ、やっぱり中層かぁ。特別スキルが手に入るかと思って期待したけどざんねーん」
特別を感じたことがないしな、と呟いた。
邦彦は苦笑を零して
「なんか、浅生がいると安心するな」
と告げた。
「それで貴方は上層なんですね? システムにも詳しいとなるとアースマザーシステムの作成者の子孫」
森野貞芽は少し考えて
「半分は当たりで半分は外れね」
というと
「私はアースマザーシステムから除外された監視者。森野貞芽自身は死んでいるわ」
と告げた。
「今は何故私が存在したかを語ることは出来ない。アースマザーシステムの根幹に関わることだから」
だけど
「確かに日本では藤原家の置かれている状況は過酷だわ。それに他の地域のかつての権力者たちの子孫もね。反対に上層階級の人間もいる。以前の貴方がたの先祖と同じ、それ以上の力を持つね。それを悪用している人間もいる。AI政治システムの根本から言えばそのどちらも存在してはならない存在ね」
と告げた。
「貴方がその彼らと対峙するつもりがあるなら私は力を貸すわ。世界征服が本当に行われた時に彼らは姿を見せるから」
邦彦は森野貞芽を見て
「貴方はどちらかというと上層階級寄りの存在のような気がするけど何故?」
と聞いた。
彼女は静かに笑むと
「私を監視者として作った本来なら上層階級の人が欲のない優しい人だったからかしら……」
と言い
「それで火力を青天井にした方が良いの? それとも防御をMaxにしたいの?」
と聞いた。
邦彦は笑むと
「どちらも魅力的だけど結局はシーソーゲームだから俺がしてほしいのは対戦相手と常に同じにしてくれればいい。火力、防御、戦力を」
と告げた。
「戦術だけで勝負できる土台をくれたらいい」
広昭は慌てて
「えー!? おいおい、火力青天井、防御Maxなら無敵だろ? その方が楽勝じゃないか!」
と告げた。
「藤原、ここで遠慮したらダメだって!」
邦彦は笑むと
「遠慮してないって、俺の不正方法の方が断然贅沢だから」
と告げた。
森野貞芽は少し考えて
「わかったわ」
と答えた。
邦彦は頷いて
「後できれば」
と告げた。
森野貞芽は笑むと
「わかったわ」
と承諾した。
邦彦は森野貞芽に礼を言うと『アースカルマ』を広昭と共に立ち去った。
地下の仄暗い階段を上るとその先には眩い陽光が降る何時もの繁華街の街並みが広がっている。
どこか緊張していたのか邦彦は道路に出るとふぅと息を吐き出した。広昭も同じように軽く肩をほぐした。
そして邦彦を見ると
「俺もそれに参加できないか? あ、えーっと、隣に座るだけだけどな」
と告げた。
邦彦は驚いてみた。
「え? 俺がしくったら爆発に巻き込まれるぞ?」
広昭は笑みを浮かべると
「怖いな。でもお前の無事を毎回知りたいんだ。少しでも力になりたいんだ。俺もタクティクスゲーム得意だしな。力になれる」
と告げた。
力になりたい。
命の遣り取りがされる場所へ共に行ってくれると言っているのだ。
邦彦は笑顔で
「ありがとう、浅生」
と答え
「けど」
と言いかけた。
が、広昭は手を前に出して笑むと
「藤原のしようとしていることは歴史を変えることだと思う。俺にも参加させてくれ。したいし、しなきゃって思うんだ」
と告げた。
大切な親友である。理不尽な状況で死なせたくはなかった。
だけど。
邦彦は広昭を見つめ
「死ぬかもしれないぞ」
と告げた。
広昭は笑むと
「お前を見捨てて生きるよりはいいさ」
と答えた。
「それに世界征服を目論んでいるのなら絶対死なせねぇくらい言えよ」
邦彦は笑うと
「確かに」
と告げた。
「じゃあ、世界征服をする。片棒担げよ」
「もちろん!」
邦彦も広昭も人々が行き交う繁華街の道路を抜けて何時もの光景を目にした。
そして、分かれ道で邦彦は手を振ると
「じゃあ、また明日な」
と駆け出した。
広昭はそれに答え
「対戦のときは絶対に連絡入れろ」
と手を振り返した。
邦彦は屋敷に戻ると待っていたグリムリーパーを見て
「対戦の部屋に参加者を一人入れる。浅生広昭、俺の同級生だ」
システムで調べられるだろ? と告げた。
グリムリーパーは暫く立ち尽くし
「……確認取れました。アースマザーの許可が下りました」
と答えた。
そして。
「第二次東シナ海防衛戦の宣戦布告が届きました。参加指定国に入っております。明朝10時に開戦いたします」
……参加国の代表者よりご連絡が入っております……




