第4話 異色パーティの結成
三人パーティが正式に結成されてから一週間が経った。
その間、ガルスは二人の女性の面倒を見ることの大変さを身をもって体験していた。
「ガルス様、おはようございます」
朝のギルドで、セレーネが丁寧にお辞儀をしながら挨拶してくる。その手には例の鉄棒が握られていた——彼女はこの一週間、片時も手放していない。
「おはようございます、ガルス様」
リリアも続いて挨拶するが、その表情は疲労困憊だった。
「どうした?眠れなかったのか?」
「セレーネさんと同じ宿に泊まってるんですが…夜中に『悪人退治の夢』を見て寝言で『良い声で鳴いてくださいね』って言うんです」
「それは災難だったな」
ガルスが苦笑していると、ギルドの扉が勢いよく開いた。血相を変えた男性が駆け込んでくる。
「たたた、大変です!助けてください!」
男性は三十代前半で、商人風の身なりをしていた。だが、その服装は泥と血で汚れ、顔には恐怖の色が浮かんでいる。
受付嬢のマリアが慌てて駆け寄った。
「落ち着いてください。何があったのですか?」
「山賊です!山賊団が村を襲撃して…!」
ギルドマスター室で、男性——商人のヤコブから詳しい話を聞いた。
「私の故郷のミルフォード村が、『鉄狼団』という山賊団に襲われました」バルドが地図を広げながら、ヤコブが指差した場所を確認する。「王都から馬で丸一日の距離か」
「鉄狼団?」ガルスが眉をひそめる。「聞いたことのない名前だ」
「最近現れた新しい山賊団らしいです」ヤコブが震え声で答える。「リーダーは元騎士だという噂で、部下も二十人以上いると…」
「二十人以上!?」リリアが驚いた。「それは大規模ですね」
「ええ。村の男たちは皆捕らえられ、女子供は隠れているようですが…このままでは全員殺されてしまいます」
バルドが腕を組んだ。
「本来なら上級冒険者数十人での討伐が必要な規模だが…」
「他の冒険者たちは?」
「大型の魔物討伐に出払っている。戻ってくるまで一週間はかかる」
つまり、間に合わない。ヤコブの表情が絶望に染まった。
その時、セレーネが口を開いた。
「お任せください」
全員が彼女を見る。
「申し訳ございませんが、山賊如きでしたら私どもだけで十分対処できます」
「二十人以上ですよ?」リリアが青ざめる。「いくらなんでも無謀すぎます!」
「そうですね」セレーネが頷く。「確かに一人では大変かもしれません。でも、三人いれば問題ございません」
「どうしてそんなに自信があるんですか!?」
「単純な計算でございます」セレーネが指を立てる。「ガルス様が十人、私が十人、リリア様が後方支援。これで完璧です」
「私は戦闘要員にカウントされてないんですか!?」
ガルスはセレーネとリリアのやり取りを聞きながら考えていた。確かに危険な任務だ。だが——
「やろう」
二人が彼を見る。
「ただし、作戦を立ててからだ。正面から突っ込むだけでは勝てる相手じゃない」
午後、三人は王都を出発した。馬を三頭借り、急ぎミルフォード村に向かう。
「作戦を確認する」騎乗しながらガルスが言った。「まず村の偵察を行い、山賊の配置と人数を正確に把握する」
「はい」リリアが頷く。
「その後、リリアが魔法で陽動を行い、敵の注意を引く。その隙に俺とセレーネが別方向から突入し、敵を分散させて各個撃破する」
「了解しました」セレーネが微笑む。「久しぶりに鉄棒が血に飢えております」
「それ怖い表現ですから!」
「申し訳ございません。鉄棒が悪人退治を楽しみにしている、と申し上げるべきでした」
「余計怖いです!」
道中、三人の連携について話し合った。リリアの魔法は確実に上達しており、短縮詠唱も安定している。セレーネの戦闘能力も申し分ない。問題は——
「セレーネ、一つ約束してくれ」
「何でしょうか?」
「降参した相手は殺すな」
セレーネの表情がわずかに曇る。
「でも、悪人は適切に制裁を——」
「制裁は法が行う。俺たちの仕事は村人を救うことだ」
「…承知いたしました」
リリアがほっと息をついた。ガルスがいなければ、セレーネは本当に山賊を皆殺しにしていたかもしれない。
夕暮れ時、一行はミルフォード村の手前の森に到着した。村は小高い丘の上にあり、周囲は開けている。隠れて近づくのは困難だ。
「まずは偵察だ。リリア、透明化の魔法は使えるか?」
「はい。ただし、十分程度が限界です」
「十分あれば充分だ。村の様子を探ってきてくれ」
リリアが透明化魔法をかけて村に向かった。その間、ガルスとセレーネは作戦の詳細を詰める。
三十分後、リリアが戻ってきた。その表情は暗い。
「山賊は全部で二十三人確認しました。村の中央広場に男性村人が十二人縛られています」
「女子供は?」
「家の中に隠れているようです。山賊たちは酒を飲んで騒いでいますが、見張りが四人立っています」
ガルスが頷いた。
「予想通りだ。では、作戦開始する」
夜が更け、山賊たちの宴会が盛り上がっている頃、作戦が開始された。
リリアが村の外れから火魔法を打ち上げる。空中で爆発した火球が、まるで花火のように夜空を照らした。
「何だ、あれは!?」
山賊たちが騒然となる。リーダー格の男——元騎士らしい堂々とした体格の男が部下に指示を出した。
「お前たち、調べに行け!十人で行動しろ!」
「了解です、ボス!」
山賊の半数がリリアの方向に向かった。これで敵は半分に減る。
だが、ガルスとセレーネは動かなかった。もう少し待つ。
リリアが森の中を移動しながら、別の場所から再び火魔法を発射する。山賊たちは混乱し、さらに数人が加勢に向かった。
「今だ」
ガルスとセレーネが村に突入した。
最初に気づいたのは見張りの一人だった。
「敵襲だ!」
だが、彼の叫び声は途中で途切れた。セレーネの鉄棒が彼の頭を直撃したからだ。
「申し訳ございません。少し痛かったでしょうね」
セレーネが倒れた山賊に丁寧に謝る。山賊は気絶している。
ガルスは別の見張りに飛びかかった。相手が剣を抜く前に拳を叩き込み、一撃で沈める。
「何者だ!」
残りの山賊たちがようやく事態を把握し、武器を構える。リーダーの男が大剣を抜いた。
「俺はガルス・レイドマン。冒険者だ」
「ほう、冒険者が来たか」リーダーが不敵に笑う。「だが、たったの二人でここまで来るとは無謀だな」
「二人?」
その時、森の方から巨大な火球が飛んできた。山賊の一人に直撃し、男は燃え上がりながら転げ回る。
「三人でございます」
セレーネが訂正した。
戦闘は激しいものになった。山賊たちも元は兵士や傭兵だった者が多く、決して弱くはない。
リーダーの男——ドワード・ダーネスは確かに元騎士らしく、大剣の技術は一流だった。ガルスとの一騎打ちは互角の勢いで進行している。
「なるほど、お前が噂の『鉄拳聖職者』か!」
ドワードの大剣がガルスの頬を掠める。だが、ガルスも負けていない。聖なる力を込めた拳が相手の鎧を凹ませた。
「だが、所詮は素手。武器には勝てん!」
ドワードが必殺の一撃を放つ——が、それは空を切った。ガルスが地面を転がって回避し、足払いをかけたのだ。
バランスを崩したドワードに、ガルスの右アッパーが炸裂する。
「ぐはっ!」
ドワードが吹き飛び、地面に叩きつけられた。
一方、セレーネも複数の山賊を相手に奮闘していた。
「皆様、申し訳ございませんが、ここで退場していただきます」
鉄棒が唸りを上げて振り回される。山賊たちの剣や斧は、硬化魔法をかけた鉄棒の前では紙切れ同然だった。
「化け物め!」
「そんな酷いことを仰らないでください」セレーネが微笑む。「私はただの聖職者でございます」
鉄棒が山賊の腹部を打った。男は苦悶の表情を浮かべて倒れる。
「良い声で鳴いてくださいね」
リリアは森から魔法支援を続けていた。敵の動きを風魔法で封じ、仲間が危険な時は氷魔法で援護する。三人の連携は思っていた以上にスムーズだった。
戦闘開始から三十分。ついに最後の山賊が倒れた。
「終わったな」
ガルスが汗を拭いながら呟く。村人たちが恐る恐る隠れ場所から出てきた。
「助かったぞ!」
「ありがとうございます!」
村人たちの感謝の声が響く中、リリアが駆け寄ってきた。
「お疲れ様でした!二人とも無事で良かった」
「当然でございます」セレーネが鉄棒の血を拭いながら微笑む。「これしきの相手で傷つくほど、私たちは軟弱ではございません」
「でも、思ったより連携が取れていましたね」リリアが安堵の表情を浮かべる。
ガルスは二人を見回した。確かに今日の戦闘で、三人のチームとしての可能性を感じた。リリアの成長、セレーネの実力、そして——
「お前たち、なかなかやるじゃないか」
「えへへ」リリアが照れ笑いを浮かべる。
「ありがとうございます」セレーネが頭を下げる。「今後ともよろしくお願いいたします」
こうして、三人の異色パーティは初の本格的な依頼を成功させた。拳で語る聖職者、真面目な新人魔法使い、そして丁寧語で話す脳筋聖職者——奇妙な組み合わせだが、確実に絆は深まっている。
だが、この成功が王都の教会上層部に知られることになり、やがて新たな問題を引き起こすことになる。それはまた、別の話だ。
翌朝、三人は村人たちに見送られながらミルフォード村を後にした。村長から感謝の品として上質な魔石を贈られ、ヤコブからは約束の報酬に加えて追加報酬まで支払われた。
「いい仕事だった」
馬上でガルスが二人に声をかける。
「ありがとうございます」リリアが嬉しそうに笑う。「初めて本格的なパーティ戦闘を経験しましたが、とても勉強になりました」
「私も楽しゅうございました」セレーネが微笑む。「久しぶりに鉄棒が満足しております」
「だから、その表現怖いんです」リリアが苦笑いを浮かべる。「でも、確かに連携は上手くいきましたね」
ガルスは頷いた。三人の戦闘スタイルが噛み合い始めている。リリアの魔法支援、セレーネの前衛戦闘、そして自分の指揮と突破力。
「これからが本当のスタートだな」
「はい!」
「承知いたしました!」
三人の声が青空に響いた。
王都への帰路、彼らはまだ知らなかった。この山賊団討伐の成功が、やがて『拳聖騎士団』という伝説の始まりとなることを。
そして、教会という巨大な組織との対立が、すぐそこまで迫っていることを。




