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第3話「空が青いなんて、嘘だった【有栖川蒼視点】」

「熱の出る頻度、増えてるね」

「これから、もっと回数が増えるのかもなー」


 俺は、桝谷莉雨の友達になってみたかった。

 始めの頃に抱いた感情は、そんなものだったと思う。


「とりあえず、蒼。連絡先交換」

「いまさらって感じだな」

「生きてるなら、なんとか連絡してよ……手紙とか手紙とか手紙とか」


 死んでから、死んだ今になって、桝谷莉雨に近づきたいっていう感情が湧いてきた。

 死んだあとに、そんなことを思っても仕方がないことのはずなのに。


「莉雨が、俺との会話を望んでくれるんなら喜んで」


 そんな未練が渦巻いていたせいか、幽霊であろうとなんだろうと亡くなった俺には時間が与えられてしまった。


「今度は、ちゃんと連絡してね」

「悪かった、ちゃんとする」


 神様が与えてくれたものを、残酷と呼ぶべきなのか。


(莉雨は、俺といることを選んでくれた)


 神様が与えてくれたものを、幸福と呼ぶべきなのか。


(俺も、やっと誰かに必要としてもらえたのかな)


 変化があった方が楽しいとなんとなく頭では思っていたけれど、幽霊の自分が人生を変えようとしてはいけないと思った。


「ずっと、ここにいてもいいのかなって思ってた」


 自分から何かを起こすようなことはなくて、自分はずっと息を潜めて生きるつもりだったのに、他人の力で人生に変化が訪れた。


「誰かから必要とされたいのに」


 莉雨と出会ってから、日常が変わった。

 幽霊だった俺に、変化と言うものが訪れた。


「莉雨が傍にいてくれたから、やっと自分の居場所を見つけられた」


 自分は、普段あまり笑わないキャラだと思っていた。

 あまりどころか、ほとんど笑うと言う行為をしない人間だと思っていた。

 けれど、自分の人生に莉雨が加わるだけで、いとも簡単に笑ってしまう自分がいるところが不思議で仕方がない。


「もっと、蒼のいろんな表情を引き出したい」

「莉雨、変なこと仕掛けてきそうなんだよなぁ」

「蒼の表情が変わるんだったら、なんでもしちゃうかも」


 莉雨のために、ここにいたい。

 莉雨がいるから、自分は自分でいられる。

 幽霊になってからの自分の居場所を、やっと見つけられた気がする。


「莉雨、撮る側も向いてそうだな」

「そこも考えてるよ」


 ああ、戸惑う。

 そして、面白い。

 何がそんなに可笑しいんだって思うけれど、莉雨といると自分も笑ってしまう。


「大学で、製作側の勉強しようと思ってて」

「監督とか?」

「んー……ちょっと夢が壮大になってきたけど、うん、まあ、うん」


 自分にはなかったはずの笑顔が、莉雨といることで自然と笑えるようになってくる。

 人間そんな簡単に変わることはできないはずなのに、莉雨はいとも簡単に俺を変えてしまうから困ってしまう。


「応援する」


 本当は、もっと莉雨と話をしたい。

 でも、なるべく早いうちに彼女の元を去らないといけないのかなっていう良い子ちゃんの発想が生まれる。


「ありがとう」


 礼の言葉をくれたときの、彼女の笑顔。

 このまま会話を続けていたら、莉雨の笑顔を忘れられなくなる自信がある。


「これからいっぱい励ましてもらうと思うので、よろしくお願いします」


 莉雨のことを、もっと好きになる。

 もっともっと好きになって、莉雨が亡くなるその日まで消滅できなくなってしまいそうな未来が怖い。


「蒼も甘えてね? そうじゃないと、私が寂しくなっちゃうから」                               

「寂しい?」

「自分は頼りにされていないんだーって絶望に陥っちゃうの」


 幽霊の俺に言葉をくれる莉雨のことを、好きだと思う。

 有栖川蒼という存在を認めてくれる莉雨のことが好き。


「それはさすがに大袈裟……」

「これが大袈裟でもなんでもないんだよ?」


 莉雨への好意は、俺を強くしてくれる。

 自分には莉雨のことを幸せにできないっていう不安は、自分が消えてしまう最後の日まで莉雨を支えたいという前向きな気持ちに変わっていく。


「好きなものとか、好きな人とか、好きがある人生って、凄く充実するの」


 にっこりとした笑顔を俺に返すと同時に、俺の額を触れたか触れないか分からないくらいの力で軽くデコピンをしてくる莉雨。


「やっぱり透けちゃう」

「当然」


 叩かれた額に痛さなんてものは微塵も感じない。

 幽霊の俺にデコピンしたところで空振りになるのは分かっていたはずなのに、莉雨は満足げな笑みを浮かべていた。


「私の好きを守るために、甘えて。蒼」


 繰り返される莉雨の声。

 俺の名前を呼ぶ莉雨に、こっちの涙腺が揺さぶられ始める。

 涙が溢れそうになっているのは勘違いだって言い聞かせながら、俺の名前を呼んでくれる莉雨のことがやっぱり好きだと再認識する。


「って、元子役様は、涙腺揺さぶんの得意すぎ」

「やった、蒼に褒められた」


 桝谷莉雨の心に残りたいと願った。

 その時点で自分は駄目幽霊だって自覚はあったけど、俺は莉雨の心に残り続けたい。

 桝谷莉雨の記憶に有栖川蒼を残すという、身勝手な願い。

 桝谷莉雨と一緒に生きていきたいという、身勝手すぎる願い。


「蒼に甘えてもらえるように、私の甘えを蒼には理解してもらおうかな」


 俺たちには、時間がない。

 悔しいとか、苦しいとか、そんな気持ちに包まれることは何度も訪れると思う。

 何もできないまま終わるわけにはいかないと焦ることもあると思う。


「いい写真の撮り方、教えてください」

「そんなの、俺が知りたい」


 でも、桝谷莉雨に関わると決めた。


「じゃあ、一緒に探さないとだね」


 幽霊が、桝谷莉雨に関わるという身勝手を振る舞うと決めた。


「一緒に探そう、いい写真の撮り方」


 綺麗に笑った彼女と別れるとき、新しく人生を始める彼女に頑張れって言葉を送りたい。


(だから今日も、一言でも多くの言葉を莉雨と交わし合おう)


 最期の日が、莉雨の笑顔で終われるようにしたいから。

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