第一話 剣を研ぐ
世界には五本の剣から成る。その剣一つで…
「よう、兄ちゃんそれ見てやろうか?」
みすぼらしい老人がこちらに向かって言った。「それ」とはおそらく腰に下げた剣のこと。
「ここは鍛冶屋か何かか?」
「まぁそんなところだ。武器を売ってる。」
老人の誘う店はどうやら武器屋のようだ。 誘われるがまま店に入り、剣を預けた。
「少し時間がかかる。好きにしててくれ。」
「わかった。」
棚に並んだ武器を眺める。剣や刀、斧に銃など色々な物が置いてあった。
「気に入った物はあるか?」
「いや、俺はその剣だけで十分だ。」
「特別な剣なのかい。」
「まあな。」
店の中の物を一通り見終えた後に老人の手が止まった。
「終わったよ。」
「ありがとう。いくらだ?」
「いらないよ。」
「本当にいいのか?」
「十分に手入れされてる。俺は何もしてないよ。」
「そうか。またいつか来るとする。」
店の扉に向かい、把手に手を置いた途端、バタン、と大きな音がなり、振り返ると老人が倒れていた。
「どうした!」
近寄って反応を確認してみる。
「腹、減った…。」
持ち合わせの乾パンを食べさせた。老人が乾パンを飲み込むと、
「すまないな兄ちゃん。」
「気にするな。困った時はお互い様だ。」
「はは。面白いこと言うな。」
「父さんの口癖だ。」
「一つ聞いてもいいかい?」
「何だ?」
「兄ちゃんは何故剣を持つんだ?」
「剣を手に入れるためだ。」
「五宝剣か。」
五宝剣、世界が創られる元になったと言われる剣。
老人は少し微笑んで話す。
「噂でしか聞いたことがないが、知ってるか?」
「その剣一つで世界を滅ぼす力がある。」
「知ってて欲するのか。やっぱり兄ちゃんは面白いな。」
「いくらでも笑ってくれ。」
「はは。茶化したい訳ではない。夢を語る青年は初めてだ。期待していいのだろう?」
「当たり前だ。」
「これを持ってけ。」
老人は床の板を開け、球体のような物を渡した。
「煙玉だ。まぁ玩具だな。」
「どう使うんだ?」
「割れば、中から煙りが溢れる仕組みだ。上手く使ってくれ。」
「ありがとう。また来る。」
手持ちの乾パンを置き、店を出た。
この世界は壊れている。この世界を楽しむ方法はただ一つ、自分が壊れること。神に見放された者が蔓延る。まるで世界そのものが神に見放されたように。
さて店を出た青年は今大きな問題を抱えている。食糧難だ。店に入ろうにも、持ち合わせの紙幣は10エンが4枚程、これでは乾パンを4枚程度しか買うことが出来ない。青年はどうしたものか、と迷うことはなかった。購入する以外にも食糧を得る方法があるからだ。
青年は辺りを見回し、剣を腰に下げた人間を見つけるやいなや背後から後頭部に握りこぶしを打ち込んだ。
当然打ち込まれた人間はその場で倒れ込んだ。しかし周りの人間が歩みを止めることなく、ひそひそと話す。
「見て、また"無職"が争ってるわよ。」
「職があってよかったわ~。」
この世界は壊れている。人間は手を取り合えない。自分の保身が一番であり、他人はただの人形なのだ。
そして"無職"とはそのまま職のない人間。この国に生まれた瞬間、職が国より定められる。決められた職を生きている間ただ全うするだけ。ただし、それに選ばれなかった人間は無職となる。が、無職が職を得る方法はある。軍隊に入ること。この世には2つの国があり、対立している。それは水面下での戦いのようで終わりが見えない。そのため軍事力は常に必要になっている。
では、軍隊に入らなかった無職はどうなるか。それは無職のままでいること。しかし無職らは自らのことを剣士、侍、ガンマンなどと名乗る。彼らは何故そう名乗るのか理由は2つ、一つは意地、一つは目的の開示。意地をはる者の目的は同じなのである。
青年が倒れた人間の荷物を漁り終え、歩き出す。
「準備万端。剣士シーヴァード、宝剣を手にするために。」