【第三章】魔力
「——う、……あ……ぁあ……っ!」
衝撃が走った直後、俺は全身が痺れる感覚を味わう。
「あぁ~……」
「これ……。大丈夫、なんでしょうか?」
「さあ…………」
「大丈夫。…………だと思う」
「自信を失くさないで!?」
神様達が何やら会話をしているが、俺の耳には全く届かない。
「ふ。仕方ない、か。——『重癒』——」
そう、誰かが呟いた途端。俺の身体は、宙に舞うような感覚にみまわれた。
いつの間にか瞑っていた目を開く。
ふわふわと、身体が宙に浮いている……?
いや、別に何の比喩表現でなく。本当に、舞っていたのだ。
「——え?」
透明な球体に囲まれ、その中で俺は浮いていた。浮いているのに動ける。どういう原理? あ、いや……魔法に関してそんなこと言ってたらキリがなくなるか。
そんな中、何やら神様達の騒ぐ声が聞こえてくる。
「わー★ ふわふわ浮いてる!」
「……そうね」
ん……? 聞いたことのない声が聞こえるような……?
「ちょっと、早く下ろしてくださいよ——って、え?」
声のする方に視線を向けながら、話しかけようとしたら——人数が倍になっていた。
え? 何言ってんのか分かんないって? 俺の方が分かんないよ。
七人から、十四人。シチニンカラジュウヨニン?
「視えるようになったようよ」
ソフィア様のそばにいるのは……あれは、シロクマモチーフ、かな? 髪の毛が白いし。耳と尻尾丸いし。
「私達は魔力の塊のようなものですからね」
「あわわわ……っ。み、視えてるの……?」
リナ様の隣にいるのが……緑髪と、桃色の髪の…………ひつじ? 尻尾ってあんなに長いんだっけ、ひつじ?
フワリ様の長い髪の後ろに隠れているのが、青くて長い髪に、うさぎの耳だから、うさぎか。
「まずは、自己紹介。あと、今の現象について説明した方がいいんじゃない?」
端的にまとめ、促したのは、ヒラリ様のそばにいる……、これはなんだ? と、トラ、かな?
「そうだねっ★」
アミラ様の側におり、元気よく頷いたのは、猫耳の少女。
「そうね」
ユイハ様の側にいるのが……。これはなんだ? 尻尾が長くて、太くて……。そんな動物いるか? ……ん? いない動物? まさか……恐竜?
「それでは、貴方から見て、右側から紹介していきましょうか」
エミィ様の側に美しい姿勢で立っているのが、キツネ……かな。
「はーい★ わたしはホノア! アミラの妖魔だよ★」
猫耳の少女の名前はホノア。そしてアミラ様の妖魔。
「私はネフィ。ソフィアの妖魔よ」
シロクマの耳の少女はネフィ。ソフィア様の妖魔。
「私はツノダと申します。リナ御嬢様の妖魔でございます」
ひつじ(?)の子がツノダさん。リナ様の妖魔。え? なんで、さん、をつけたかって? なんとなくだよ。
「あたしはライカ。ヒラリの妖魔」
トラの耳の少女はライカ。ヒラリ様の妖魔、ね。
「わ、わわたしはフウ。ふ、フワリの、妖魔、だよ」
うさぎ耳の少女の名前はフウ。フワリ様の妖魔。全然性格違っ——はい、すみません。
「私はティラノ。ユイハの妖魔だよ」
恐竜(?)の少女の名はティラノ。ユイハ様の妖魔。ティラノって、もしかしなくても恐竜ってことだよね?
「私はメニアと言います。エミィの妖魔です」
キツネの少女の名はメニア。エミィ様の妖魔。エミィ様はシスター服なのに対して、メニアは巫女服を着ている。
「それで、今、篤人くんがふわふわ〜って浮いてたのはねっ★」
「ユイハの治癒魔法なんだけど」
「治癒魔法と言いましても重力系の魔法でございまして」
「貴方を囲った球体の中のみの重力をほぼ無にし」
「負った傷、とかを、ね……っ」
「治したり、ダメージを回復したりして」
「そうして今の状況がある——ということです。お分かりいただけたでしょうか」
「——はい、全然分かりません。まず、魔力の話から進めてほしいですね。何も分かりません。知識ゼロなので」
「それもそうだよねー」
「じゃあまず、今、ネフィ達妖魔が視えるようになったわよね」
「はい」
まあなんか、らしいですね。“みえる”とか“おこす”とかまじ意味わかんないっす。なんの話っすか?
「う〜ん……なぁんて説明すればいいかな?」
「そうですわねぇ……。貴方が住んでいたところで言う……“まんが”、とか、“あにめ”、とかの……“ふぁんたじー”? ですわ」
「あ、なるほどですね。全て理解できました」
「「「「「「「は?」」」」」」」
「嘘ですマジでわかんないですごめんなさい教えてください」
「はぁ……まずさ、人間っていうか、全ての生き物がみーんな、魔力を持ってるの」
「一人一人、一つ一つによってその量に差はあれど、確実に魔力はあるわ」
「ですが、魔力を持っていても、それを使ったこと、見たこと、感じたことが無ければ、魔力を持っていても自由に使うことはできませんのよ」
「だから、その場合は無理矢理魔力を起こすしかないの」
「さっきみたいに、他人から魔力をどん、って」
「魔法はとりあえずどんな魔法でも良いですが、まあできれば初級魔法が良いでしょう。上級魔法や極致魔法では刺激が強すぎますので」
「そうして魔力の小孔が開かれるのだ。今、ホノア、ネフィ、ツノダ、ライカ、フウ、ティラノ、メニアが視えるだろう?」
「それはぁ、ホノアたちが魔力の塊でできた妖魔だから★」
「瞳の、魔力の小孔も開かれたのよ」
「だから、今まで見えていなかった私達が見えていたのです」
「ずっと、隣にいたのにね」
「そ、それでっ。え、えぇっと……。フ、フワリが本条くんに『好風』——風魔法の初級魔法を打ち込んだでしょ……?」
「それが……まあ、初めてにしてはちょっと手加減しなさすぎたんだよね、フワリ」
「ですので、すかさずユイハさんが『重癒』で本条さんを救った、と、いうわけです。本日二度目の質問となりますが……おわかりいただけたでしょうか?」
神様たちとその妖魔による長い長い説明が終わった。
「えーっと……ギリッッギリ、理解できました。ありがとうございます」
「それで、貴方が人間世界に戻る方法についてよ。魔力を人と繋げるためには——」
「——すとぉおおぉっぷ!」
「な、何かしら?」
「や、ごめんなさい。……ちょっと、ちょぉっと、休憩させてください! 脳が、脳が……ついていきません…………!」
「そ、そう。分かったわ」
……と、いうことで、少し休憩したのちに説明してもらうことになった。脳処理作業、地獄。




