EP2.瓦礫の山と情報量(隙をつく幼馴染を添えて)
EP2をこれからご覧になる皆さん、作者の平成ヨーグルトです。今回も無事3月中に投稿する事が出来て、少し安心しています。前回は物語の最初の大きな転換点が描かれていましたが、今回は前回の戦いが終わった後の交流が描かれています。
彼らの本格的な交流が描かれるEP2、是非お楽しみください。
2人の青少年の前で毅然とした態度をとる巨人-アクアブレイブは、瓦礫の山を退け、胡座をかくように、地面に座った。
「えーと、何から話そうか?」
「いや、まずはなんで俺の事を知ってるのか説明してほs」
「そうだな、まずはお互いに自己紹介をしていこうか!」
「いや、もう自己紹介しなくてもいいんj」
「私の名は、アクアブレイブゥゥ!!!」
「聞いちゃいねぇ……」
相変わらず話を聞かない巨人に、蓮也はため息をついた。そんな彼とは逆に、姫華は巨人に続いて自己紹介を始めた。
「私は蓮也の幼馴染の雀川姫華です」
「そうか、君は蓮也の幼馴染なのか!」
「ちょっ、俺を置いて話し始めんな!」
先程の戦いに加え、自分だけ会話に追いつけないこの状況にとてつもない疲労を感じた蓮也にはもうツッコむ余力が残されていなかった。
「ハァ……ハァ……もうなんでもいいや……で、アンタからは何を話してくれるんだ?」
「あー、そうだったそうだった。まずはこの地球に危機が迫っている事を伝えよう」
「危機?」
「そうだ! この地球に危機が迫っている!!」
「なぜ2回同じ事を?」
ごもっともな疑問を口にする姫華。
「大切な事だからだ!」
こちらから質問しないと話が進まない事を察した蓮也は質問をした。
「で、その危機ってのはなんだ? さっきの怪物みたいなやつか?」
「そう、さっきのあの怪獣は恐らく、『ケミアルマム』とネズミを合成した事で生まれたものだろう」
「「ケミアルマム!?」
「ケミアルマム」という言葉に驚きを隠せない2人。
「どうした? そんなに驚いて」
「いや、そのケミアルマムってのは俺の親父が昔研究していた未知の金属なんだよ」
「今は私の父が研究をしているものでもあるんです」
昨日今日、世間や彼らの間で話題になっていた宇宙由来の金属、ケミアルマム。
2人の身近な話題のタネでもあるその名に衝撃を受けている彼らを見て、少し驚いた様子を見せるアクアブレイブ。
「そうか、なら細かい説明はいらなそうだね。実は宇宙から来た異星人軍団が地球に棲む生物をケミアルマムと合成させ、怪獣を生み出そうとしている。恐らく先程の怪獣はその第一号なのだろう」
「異星人軍団?」
特撮作品ではよく耳にする言葉。彼はその言葉にいち早く反応する。
「うん。実はこの地球に、1年以上に前から潜伏してる宇宙人達がいて、怪獣生成の実験とかを始めているらしいよ」
青はあるがちな展開に少し危機感を背中に走る悪寒と共に覚え、色奈はなんとなくだが、手に滲む汗の嫌な冷たさを感じた。
そしてかつてニュースで流れたケミアルマムとネズミの合成実験の映像が脳裏に浮かんだ2人。
言われてみれば、その時のケミアルマムに合成されたネズミは先程の怪獣にかなり似ていた。
少し不穏な予感がした2人は顔を見合わせた。そして姫華はアクアブレイブの方に向き、彼女に質問をした。
「あの、その異星人達に宮水家や雀川家の者は関わったりしていますか?」
それを聴いたアクアブレイブは少し申し訳なさそうに答えた。
「すまない、私もあまり詳しい実情を知らないんだ。」
「そうですか……」
「実は私自身、1年前辺りからの記憶しか残ってないんだ」
今度はその言葉に疑念を持った蓮也が質問をした。
「記憶が? なんか心当たりはないのか?」
「いやー、それが全く見当がつかないんだよね。ある程度の一般常識は残ってただけ良かったんだけど」
「そうか、出来れば人の話に割り込まないっていうマナーも覚えてて欲しかったな……」
もうほぼ太陽が沈みかけた頃、改めて彼らはアクアブレイブから聴いた話をまとめる事にした。
「えーと、今のところ分かっているのは地球に危機が迫っている事、私のパパや蓮也のお父さんが研究していたケミアルマムが怪獣の素材になっている事」
姫華がそう言った後、青も続ける。
「そしてアクアブレイブについて分かっている事は1年前からの記憶しかない、怪獣との戦闘は今日が初めて、人間に擬態可能、アルバイト経験はなし、今までアパートでお世話になっていた、好きな食べ物はカレーとプリン、趣味はお菓子作りと映画鑑賞、山も海も好き、最近は美肌作りに邁進、利き手は左手……」
今分かっている事を並べた後、蓮也はツッコんだ。
「後半の情報どうでも良すぎだろ!」
「いやー、私が持っている情報はちゃんと伝えた方がいいかなって」
「そうなんだけど、そうじゃねぇ……」
「てかアンタ、質問したい事があるんじゃないの?」
姫華にそう言われた蓮也は我に返り、アクアブレイブに向き直った。
「あー、そうだった。なぁ、なんで俺の事を知ってたんだ? 今日初めて顔を合わせたばっかなのに」
ずっと訊きたかった質問をアクアブレイブに訊く蓮也。すると、アクアブレイブは頭を掻くような仕草をしながら答えた。
「そのー、私もなんでこんなに蓮也への愛が強いのか、自分でも分からないんだ。なんというか、そういう感情が最初からあった気がするんだ」
「なんだよそれ……」
呆れたような様子を見せる蓮也に対し、アクアブレイブは強くこう言い放った。
「だけど、私は蓮也達の味方だ! これからもそれは変わらない! 愛するものを守りたい気持ちは私も同じだ!」
そう言い切るアクアブレイブに対し、安堵の表情を浮かべる姫華と少し不安そうな表情を浮かべる蓮也。それに気づいた姫華は蓮也に声をかける。
「蓮也、どうかしたの?」
「いや、これからあの怪獣みたいな奴らと戦っていくって事なんだよな……?」
「ああ、そうだ」
「そうか……」
そんな様子の蓮也を心配そうに見つめる姫華。
「ねぇ、やっぱり……怖い?」
「いや、別に!」
心配させまいとばかりに姫華に笑顔を見せる蓮也。
そんな彼を見て申し訳なさそうな様子のアクアブレイブ。
「申し訳ない、私1人ではあのような怪獣に対抗出来ないんだ」
「いや、大切なものを守れるなら、いくらでも力を貸すよ」
そう言い切った蓮也だったが、姫華とは反対側の左手は微かに震えていた。彼はそれを悟られないようにすぐさま別の質問をアクアブレイブに訊いた。
「ところで、なんで敵の情報を持ってるんだ?」
アクアブレイブは蓮也の質問に対し、こう答えた。
「実は私が意識を取り戻した時、目の前に現れた人物に教えてもらったんだ。君の住所もその時に知った。」
「俺の住所も? なんでそいつは俺の住所を知ってるんだ?」
「さあ? ただアパートに住む事になった際にもその人が政府への手続きを私の代わりにしてくれて、無事給付金を受け取れるようになったんだ」
「そうなのか。そいつの顔とかってどんな感じだったんだ?」
「それが…フードを被っていて、顔がよく見えなかったんだ」
蓮也の中ではその人物に対する疑念が新たに生まれた。ただ、今はどうしようも出来ないのでもう1つの質問を訊いた。
「あと、ずっと気になってたんだけど、口調が少し変じゃない? なんか屈強な戦士っぽい口調と女性っぽい口調が時々混じってる気がするんだけど」
その質問に対し、アクアブレイブは照れくさそうに答えた。
「それは……なんというか、どうせヒーローみたいな姿ならかっこいい口調の方がいいかなっと思って。たまに素の口調が出ちゃうんだけど」
「なにそのこだわり……」
そんな会話の中、今度は姫華が質問をした。
「あの、アクアブレイブさんの声ってかなり響いているんですけど、今まで教えてもらった情報って他の人に聞かれていたりしませんか?」
確かに、と頷く蓮也。それに対し、アクアブレイブはこう答える。
「大丈夫だ、この巨体で目立っているかもしれないけど私からはテレパシーを送っているから、テレパシーの対象外の人達には私の言葉は聞こえてないよ」
「なるほど、テレパシーでこの声量なのか。すげぇビッグボイスだよ」
「そんなに褒められても//」
「皮肉に決まってんだろうがぁ!」
「ところでそろそろ2人は帰った方がいいんじゃない?」
蓮也のツッコミを華麗にスルーしながら割と大切な事を伝えるアクアブレイブ。
「確かに。もう電車も一部復旧をしたみたいだから、帰りましょうか?」
姫華がそう答え、蓮也もそれに頷いた。
「そうだな。ならもう帰るとするか」
「ああ。それがいいと思うよ」
そう答えるアクアブレイブに対し、姫華は向き直り、頭を下げ、礼を言った。
「あの、本当に助けていただきありがとうございました」
「…俺からも礼を言わさせてもらうよ。本当に助かった。ありがとう」
「なに、私は自分の守りたいものを守ったまでだ。それに蓮也が共に戦ったおかげでもあるんだよ」
「そうか、俺はどっちかといえばツッコミに体力を使った気がすr」
「さあ、もう電車に乗って帰りな」
「あ、おい! また話を遮るn」
「じゃあ、私もそろそろ帰るから」
「あ、ちゃんと技名考えてこいy」
「それじゃ、また今度!」
背中のジェットパックが火を吹き、とんでもない速度で空に飛んだアクアブレイブを見送った蓮也と姫華は、怪獣の被害を無事に免れた六本木駅に向かって歩き出した。その道中、暗闇の中で積み上がっている瓦礫の山を見た蓮也は呟いた。
「これもさっきの怪獣が……」
「うん、数時間前まであった景色があっという間に……」
目の前の瓦礫の山を見た蓮也は拳を握り、震える声で言った。
「やっぱり、俺がやらないと……」
「蓮也……」
心配そうに蓮也の顔を覗く姫華に対して、話を切り替えるように声をかけた。
「よし、とっとと電車に乗って、座席に座りながら休もうか!」
「うん……」
そこから2人は一言も話す事なく、駅に着き、ホームで電車を待った。そして電車が到着し、無事に座席に座る事が出来た蓮也達は、今日の大事件による疲労で既にクタクタだった。もう、いつ意識を手放してもおかしくない中、姫華は蓮也に近寄り、口を開いた。
「あの、本当に今日はありがとう」
「別に。俺はただ今日はツッコミに徹してただけだよ」
「ううん、今日の蓮也……」
そこまで言った姫華は不意に蓮也の耳元で近づき、こう囁いた。
「すごい、カッコよかったよ……」
「ッ……!」
その囁きを聴いた蓮也は顔が熱くなっていく感覚と抱いたと同時に、眠気が一瞬で吹き飛んだ。蓮也が姫華の方に視線を向けると、彼女は蓮也とは逆向きの方向に顔を向けていた。
だが、彼女の耳が彼の顔と同じぐらい赤くなっているのを確認し、彼は胸の奥が暖かくなるのを感じた。
ただ、疲れているのに眠気が飛んでしまったこの状況に少し責任をとってほしいと思う蓮也でもあった。
一方、彼と同じく眠気が吹き飛んでしまった姫華もまた、胸の中で高鳴っている感情を誤魔化す眠気が無くなった事を後悔していた。結局、家に着くまで体温が上がり続ける2人であった。
本エピソードをご覧いただきありがとうございます。彼らの交流、いかがでしたか?謎が謎を呼ぶストーリーが展開されていきますが、蓮也君と姫華ちゃんの甘い交流も添えていきますので、これからもお楽しみください。
※私自身豆腐メンタルでありますので、可能な限りマイルドな言い方でお願いします。
次回も3月中に投稿していこうと思いますので、応援よろしくお願いします。また、皆さんからのご指摘、ご意見、ご感想もお待ちしております。