EP1.信号と転換期の訪れ(真っ赤な幼馴染を添えて)
この度も本作にご興味をお寄せいただきありがとうございます。作者の平成ヨーグルトです。
今回は3月4日に投稿したEP0から続き、EP1を制作しました。
EP0をご覧になった方ならお分かり頂けたかと思いますが、本作はEP1までは主人公がナレーションを務めているため、主人公目線で物語が進んでいきます。
さて、前回は「EP1以前の」主人公を取り巻く環境についてのお話でしたが、今回ではとある出来事が起こり、前のエピソードで現れた、蓮也君のナレーションを遮った存在が姿を現します。
彼らの日常に大きすぎる変化が起きるEP1、是非お楽しみください。
太陽が東南から真南に上がっていった頃、4時間目の授業が終わり、昼食の時間になった。
俺はいつも通り姫華を誘って、校庭内の中庭でお昼を食べることにした。それを見ていたバカップル2人からは「やっぱりじゃん」と何かボソボソ言われていたが。
俺は地下一階にある学食で既に買っていた日替わり弁当、姫華は手作り弁当を手に携え、中庭のベンチに向かった。道中で相変わらず多数の視線を2人で浴びることになったのだが、姫華はそれに意を介すことなく、堂々と俺の横を歩いている。
その度胸、見習いたいっス。一年生の頃からずっとこんな感じだが、正直俺はまだこの状況に慣れてない。
人だかりを通り抜けた俺達は無事中庭に到着した。ここは日差しが差し込んでいて尚且つ木々が生い茂っている、非常に快適な空間だ。
俺達はベンチに座り各々の弁当を広げる。今日の日替わり弁当はハンバーグ弁当。デミグラスソースが香ばしい香りを漂わせ、食欲を掻き立てる。
隣の姫華の弁当を見ると、いかにも栄養バランスが良さそうな感じの鮮やかな色彩が表面を彩っていた。胡麻鮭ご飯に伊達巻、小松菜と海苔の和え物、そして可愛らしいウサギりんごと、こちらもまた食欲をそそられるメンバーであった。
俺が関心している一方、彼女は呆れたような視線を俺と膝上の日替わり弁当に向けていた。
「随分と栄養素の偏った一品ね。そろそろ自分でお弁当の一品二品、作れるようになったら?」
「悪いな。お前と違って手際が悪い人間なんでね、料理する度に家が大爆発しかねないのさ」
「あまりいないわよ、高校生になって未だに自炊が出来ない人間って」
「男子は皆こういうもんだよ」
「あっそ」
毎日のことではあるが、「いただきます」を言うまでに時間がかかる。
まあ俺からしたら決して嫌いな習慣ではないのだが。
ようやく小言の言い合いが終わり、「いただきます」を2人で言った直後に彼女の方からとある話題を投げかけられる。
「昨日やってたニュースのことで話したいことがあるんだけど」
「昨日の? ああ、昨日の朝に落ちてきた小石サイズの隕石の話?」
「そう、それでその隕石に、あのケミアルマムが付着してった話なんだけど」
「それがどうかしたのか?」
「その、それって偶然な事なのかなって……」
「ん? どういう事?」
いつもと違い、少し言い淀んでいる様子の姫華。
「その、昨日って4月の24日だったじゃない?」
「ああ」
「その日って、2年前に蓮也のお父さんの会社の無人探査機が帰還した日であって、蓮也のお母さんの誕生日でもあって、その…蓮也のご両親が1年前に行方不明になった日でもあるでしょ…… ? なんだか、偶然のようには思えなくて……」
申し訳なさそうに隣で話す彼女を見て、気を遣ってくれている事が窺えたと同時に、姫華の考えに頷く自分もいた。身内の話とはいえ、偶然にしては出来すぎている気がしなくもない。
実際、俺の父さんも姫華の親父さんと同じようにかつては無人探査機に付着していたあの特殊な金属の研究をしていたため、その疑念に拍車をかけている。とはいえ、偶然でないとすると一体何のかと説明する方が難しいため、今のところはなんとも言えない。
「ありがとな、気を遣ってくれて。ま、今んところは何も分からないけどな」
「そうね……」
6時間目の授業が終わり、帰りのホームルームが始まる直前に姫華は俺に声をかけてきた。
「この後、最近六本木に新しく出来たアパレルショップに行こうと思ってるんだけど、一緒にどう?」
「おー、いいぜ。今日俺暇だし」
「……基本暇でしょ。大体アンタ、帰宅b」
「おっと、皆まで言うんじゃないよ、そんな野暮な事」
全く、何を言い出すかと思えば。とりあえずホームルームが終わった後に2人で駅に向かう事になった。
そんな一部始終を見ていた秋秀は俺に対し、「お楽しみはこれからって訳か」とほざいていたので、チョップを一発浴びせた。
かなり痛がっていたが、それでも少しニヤけていたのでおまけのゲンコツも追加しといた。
ホームルームが終わり、自転車を転がしながら、最寄り駅に着いた俺達は大江戸線の電車に乗って六本木に向かった。午後の4時ということもあって、そんなに車両の中は混んでいなかった。座席に座って外を見ると雲一つない空が茜色の夕焼けで燃えていた。
しばらく電車に揺られていた俺達は30分ぐらいして六本木駅に着いた。地下から地上に続く階段を登った俺達はここから15分程度歩いた先にあるアパレルショップに向かう事にした。
それにしてもさすが六本木。練馬とは人口密度が違いすぎるぜ。
なんとか人混みの間を歩こうとしたが背が低い姫華は人々の間に埋まってしまいそうだったので、俺は彼女に手を伸ばし、こう言った。
「ん、俺の手に掴まっとけ」
「……」
黒い長髪を靡かせる彼女は一瞬迷うような素振りを見せたがすぐに俺に向けて腕を伸ばした。お互いの手が握られた事を確認した俺は彼女を引っ張るようにしながら歩みを進めた。
そして怪我がないかを確認するために姫華の方を見ると、夕陽で照らされてるかのように頬を赤く染めた彼女がいた。
「ッ ……!」
それを見た俺も自分の顔が赤くなっていくのを感じ、前に向き直るほかなく、気恥ずかしい雰囲気が2人に纏わりついていた。しばらく歩いて、赤信号で止まったタイミングで彼女がようやく口を開いた。
「その……ありがと……」
俺はそれに対し、「どう……いたしまして……」としか返せなかった。俺達は人混みの騒音と青信号のカッコーの音で気を紛らすしかなかった。
そして2人の間の気まずい空気が収まる頃に、ようやくアパレルショップが見えてきた。人混みが落ち着いてきたので、繋いでいた手を離し、目の前の信号を渡ろうとしたその次の瞬間、地面が大きく揺れた。
「うわっ!?」
「キャッ!」
あまりの揺れに俺達は体勢を崩した。俺はなんとか立ち上がり、姫華の方に駆け寄った。
次の瞬間、俺の耳に届いたのは、けたたましい地響きと人々の悲鳴だった。騒ぎが聞こえてきた方向を見ると同時に次に聞こえてきたものは、街中を轟く程の咆哮であった。
その咆哮と街に佇む一つの巨体を見た俺は自分の眼を疑いつつも、とある言葉を口から漏らしていた。
「怪……獣っ……!?」
あり得ない、そんな筈がない……だって怪獣は空想の産物だ。
こんな事、あり得ない……
そう頭で理解しようとする俺に怪物は現実を叩きつける。
眼前に広がるビル群に向かって腕を伸ばし、その怪力を高層ビルにぶつける。すると、そのパワーに負けたビルが砂のお城が崩れたかのように細かく崩壊していく。そして俺が否応無しにこれを現実だと理解した頃には、既に他のビルも同じ結末を辿っていた。
また、怪獣の身長とほぼ同じ長さであろう尻尾が電車の路線や商店街を叩き潰している。目の前の日常が崩れていく光景に圧倒されていた俺だったが、なんとか意識を自分達に向け、すぐに隣の姫華の手を取って体を起き上がらせ、彼女に声をかける。
「とりあえず逃げるぞ!」
声をかけられた彼女もハッとした顔でこちらを向き、頷いた。そこから俺達は怪獣がいる方向とは逆を向いて走り出した。
その時、1機のヘリコプターが俺達の頭上を飛び、怪獣のいる方に飛んで行った。恐らく、テレビ局の中継のヘリだろう。だが、ヘリが近づいてきている事に気づいた怪獣はそのヘリを睨みつけた。その瞬間、怪獣の喉元が光を帯び始めた。
この光景を見た瞬間、俺の脳裏に何度も特撮作品で観たシチュエーションが蘇り、慌てて声を上げようとした。
だが時既に遅し。俺の予見通り、怪獣の喉元の光の輝きが増した瞬間、怪獣はそのでっかい口を広げた。そして、その口から眩い光線が一直線に発射され、ヘリを貫いた。
光線が直撃したヘリは機体を燃やしながら、真下の俺達の方に落ちてくる。急いで走ったため、ヘリとの衝突は免れたが、ヘリが地面と激突した衝撃で俺達は吹き飛ばされた。
「くっ……!」
「うぐっ……!」
吹き飛ばされた俺達は派手に地面を転がった。一応2人とも意識はあったが地面に思いっきり体をぶつけた影響で中々立ち上がる事が出来ない。
そうこうしている内に俺達の元に地響きが近づいてきて、気づけば俺達には巨大な影が差し込んでいた。見上げればもう目の前に怪獣が俺達を見下ろしていた。
まるで見えるもの全てが敵であるかのような、他を圧倒する目がこちらを睨んでいる。それが分かった瞬間、背中が凍りつくのを感じた。なんとか這いつくばりながら姫華に近づいたが、もうどうする事もできない。
怪獣の喉元が再び輝き始めた。今俺達が着用しているのはなんでも防いでくれる防具でもない、ただの制服。
もう助かる余地はない……
絶望のあまり、俺達は声も出せずに最期を待つしかなかった。怪獣が巨大な口を開けた。
もう終わりだ。俺は最期にと、姫華に向かって腕を伸ばし、彼女の手を握った。彼女も弱々しく俺の手を握り返した。
俺達は瞑り、刻一刻と迫る怪獣からの一撃を待つしか出来なかった。
俺は心の中で、最後の希望に助けを求めた。
ーーー助けてくれ…アクアラピズ…!
だが、次に聞こえてきたのは怪獣の悲鳴と、後ろに倒れる音だった。
「なんだ......!?」
目を開けた俺達の前にいたのは、眩い大きな光だった。
混乱する俺達の前でその光は人の形に姿を変え、巨人としての姿を見せた。
「光の、巨人.....?」
俺はその姿に驚きを隠せなかった。
俺はその巨人の姿を見たことがある。いや、見たことがあるどころではない。俺はその巨人を知っている。
だってこれは.....
「アクアラピズ......」
巨人の姿は俺の憧れのヒーロー、アクアラピズに酷似していた。
海の青色のボディの上を走る上品な黒のライン、膝と肘などの体の節々に纏う情熱の赤、銀色の兜に背中と胸を覆う逆ピラミッド型のホワイトアーマー、所々形は違えど大きな差はないその姿はまさにヒーローらしさが満載だった。
ただ強いて違う所を挙げるならば、巨人のボディは原点よりもメタリックさが際立っており、背中ホワイトアーマーの背中側にはジェットパックのようなものが付随していて、何よりも等身大のアクアラピズよりも遥かに巨体であったりなど、よく見れば違う点が出てくる。巨大ロボットとでもいうべきか。
だが悠然とこの地に立つ巨人の姿はクールさに満ち溢れていた。やがて巨人がこちらに振り向いた。顔は仮面のようになっていて、いかにもヒーローものでありがちなキリッとした表情を浮かべている。巨人の第一声を期待していた俺は迷わず声をかけた。
「あの、助けていただきありがt」
「蓮也ぁぁぁぁぁぁ!!! ようやく会えたねぇぇぇぇぇ!!!!」
「え、なんで俺の名前を?」
とんでもない奴が来たかもしれない。俺の直感がそう叫んでいる。
色々と驚きがあるのだが、まずは声を聞いた感じ、女性である可能性が高い事。凛々しくてハスキーボイを轟かせているのは少し思った感じと違うなとギャップを感じた。
まあそこは大した問題ではないのだが次は俺の名前を知っている事。正直こんな知り合いは俺にはいない。
そして最後。とにかくうるさい。なんというか、ただただ本当にうるさい。
クール系統のヒーローかと思えば、俺の名前を一方的に知っている、声がデカめの不審者だったというギャップに俺が混乱している中、巨人は言葉を続けている。
「まさか本当に会えるとは! いや、住所は知っていたから会おうと思えば会えた訳だけど、こんなに早く会えるとは! お、そこにいる美少女は蓮也の彼女さんかな! 全く、蓮也も隅におけないね! ハーハッハッハッハッハッハー!」
こんなにペラペラ喋んの……?
てか所々で爆弾発言が聞こえたのだが。そしてふと、姫華の方を見てみると、普段は冷静沈着な彼女もポカンとして、混乱しているようだった。とりあえず聞きたい事をこちら側からもぶつけようとしたが、巨人に吹っ飛ばされた怪獣が起き上がった。
明らかに怪獣の眼には怒りが込められている。巨人もそれに気づいたようで遂に戦うと思いきや、俺をその輝く瞳で真っ直ぐ見つめ、こう言った。
「蓮也、君の力が私には必要だ」
「え、今俺の力が必要って……」
「今この状況で私達が力を合わせなければこの街、いや、この星を守る事は出来ない!」
「俺抜きじゃダメってことですk」
「その通りだぁぁぁぁ!!!」
「なんで俺じゃないと……」
困惑する俺に巨人は答える。
「そうだね、強いて言えば、君から何かを感じたからだ!」
「何かって……そんな曖昧なものを俺から……?」
「なんかこう、シンパシー的な何かだ!」
「そうなんすね……」
全く説明になってない巨人の言葉に呆れながらも、今俺に出来る事を訊く。
「えっと、それで俺は何をすr」
「君のやるべき事はひとぉぉぉつ!!」
巨人に会話の主導権を握られながらも必死に食らいつく俺の目の前に突然光の粒子が集まる。それはみるみる形を作っていき、やがて1本の、スマホと一体化した自撮り棒のようなものになった。
「それを手に取るんだ!」
「え、これって自撮り棒……ですy」
「まずはスマホ部分のボタンを押して、電源を起動させるんだ!」
「…はい」
話が通じないことを察した蓮也は、指示されたように渋々ボタンを押して、スマホを起動させる。画面には、内カメラ状態で蓮也の姿が映っている。黄色い四角のマークに内側に映る、ボヤけていた彼の姿が徐々にハッキリしていく。
「それを上に掲げ、『ブレイブ・チェンジ!』と叫んで私と融合するんだ!」
「え、今からですk」
「さあ早く!」
「いやいや、無理に決まってるでしょ! あんな化け物と戦えって言うんですか!」
つい先程まで死にかけたというのに、またその危険に飛び込めと言われて首を縦に振る方がおかしい。俺は思わず逃げ出しそうになった。しかし、そんな俺に巨人は声をかける。
「蓮也、確かに君は16歳の普通の男子高校生だ。いきなり怪獣と戦えと言われて困惑する気持ちや、死にたくない気持ちだって分かる」
そう頷きながら、俺に共感を示す素振りを見せる巨人。
しかし、ここから喝を入れるかのように熱くなり始めた。
「だが、君が勇気を出せば、かけがえのない日常を守る事が出来る! 君の日常は何物にも変えられない、どうしようもない程大切な君の一部だろ!」
「どうしようもない程大切なもの……」
俺は巨人に続くように、呟いていた。初対面ながら熱苦しい印象が強かった目の前の巨人はこの瞬間、まさに俺の憧れのヒーローそのものだった。
「それをたった一瞬の迷いのために二度と戻ってこないものにしていいのか! 君はまだ若い。だからこそ、いつもそばにあるものは絶対に守らなきゃいけないんじゃないのか!」
その言葉に揺さぶられる。
そして胸にあった筈の恐怖心が嘘のように消えていった。
それと同時に俺は、今自分が何をすべきかを考えた。
俺の守りたいもの……
いつもそばにある、絶対に守らなきゃいけないもの…
そしてこんな時、アクアラピズだったらどうするか……
そう、きっと彼なら……
俺は強く自撮り棒を握り締めると同時に、隣の姫華を見た。
彼女だけではない。秋秀や望美、そしていつか帰ってくるかもしれない父さんや母さん、皆俺にとってかけがえのないものだ。俺は覚悟を決め、巨人に向き合った。
「分かった。俺、やるよ」
「そうか! よく言った!」
「蓮也……」
姫華は心配そうな目で俺を見ている。
「絶対帰ってくる。それに俺の守りたいものの中に、お前も入ってる」
「ッ……! 蓮也……」
「かは分かんねぇけど」
「……あっそ。蓮也の意地悪」
悪いな。年頃の男子は正直になれないんでね。
「けど絶対に帰ってくる。」
「……約束よ。」
「ああ。」
口約束ではあるが、絶対に守らなきゃいけないものがまた一つ増えちまったな。
「準備はいいか? 蓮也!」
「ああ、もちろんだ!」
そして俺は自撮り棒もどきを掲げ、叫ぶ!
「ブレイブ・チェンジ!」
これで遂に巨人と融合……しないんだが。
「あ、ごめん。叫んだ後に手元のスイッチ押して」
「それは事前に言うべき事だろうがぁぁぁぁ!!!!!」
ヤケクソ気味にスイッチを押した瞬間に自撮り棒の先に付いてるスマホみたいなやつのランプ部分から眩い光が放たれ、俺はそれに包み込まれた。
目を開けると、視界の高さが明らかに高くなっていて、体は鋼鉄の身に変わっていた。
「これは……」
「君と私は融合を果たしたのだよ!」
頭に流れてくるこの声は……
「この声は、さっきの巨人?」
「そうだ、今私と君は一体化している。これでようやくあの怪獣を倒せるよ!」
なんかさっきより話し方が柔らかいような……もしかして日本語下手か?
そんな疑問を持ちつつも、俺も発破をかける。
「よし、それじゃ行くか!」
俺は、いや俺達は目の前の怪獣に向き合った。こうして落ち着いて怪獣を見ていると、特徴がだんだん捉えられる。
全体的にネズミが元になったようなような姿で、背中に4本の棘、角のように尖った耳、そしてこの巨人とは違い、まるで金属が生きているかのような質感が印象的だ。
怪獣は燃え盛るかのような怒りを込めた眼でこちらを睨みつけ、こちらに突進してきた。俺達は足元にいる姫華を守るため、突進してくる怪獣の両耳を掴んで押し返そうとする。
だが、怪獣のパワーも凄まじく、中々押し返せないので、怪獣の脇腹に膝蹴りを決め、怯んだ隙に両脚で蹴り飛ばした。
怪獣が倒れている間に俺は姫華を両手で包み込んで遠くにそっと下ろした。降りた直後の彼女の顔には心配そうでありつつも、信頼の念も含まれていた。
俺は振り返って怪獣の動きに備えた。怪獣は咆哮を上げた後に俺の後方にある、姫華を降ろした街を狙って光線の放射準備をしていた。俺はバリア技を使うため、怪獣の発射タイミングを窺っていた。
そして怪獣が光線をいざ発射するという瞬間に巨人側から、声をかけられた。
「蓮也、どうして動かないの?」
「あの怪獣の光線を避けたら、後ろの街に当たっちまうから、バリアで防ごうと思ってるんだ」
「バリア技なんて、私使えないよ?」
「え? 使えないの?」
「うん」
「え? そういうのはもっと早く言いやがれぇぇぇ!!!!!!」
そんなこちらの事情は知ったこっちゃないと言わんばかりに怪獣は光線を放射してきた。バリア技が使えないとなると体で受け止めるしかない!
俺達は胸の前で腕をクロスさせて光線を全力で受け止める。
「クッソ……! このまま粘り続けてアイツのエネルギー切れを狙うぞっ……!」
「グッ! 分かった!」
にしても凄まじい威力だ! 正直俺達の体力が持つかは分からない……!
だがそれでも俺達は守らなきゃいけないものがある! 守ると誓ったアイツとの約束がある!
なんとか気合いで踏ん張っている俺達だったがそろそろ体力切れが近い。だが、怪獣側もエネルギー切れが近付いてきたようで光線の出力が下がってきた。そして遂に光線の放射が止まった!
なんとか耐え切った俺達だが息絶え絶えで、残り体力も僅かである。しかし、この一瞬のチャンスを逃さないために重い身体を立ち上がらせ、俺は巨人に訊いた。
「おい……光線技ぐらいは流石に使えるよな……!」
「もちろん……使えるよ……!」
その瞬間、巨人は再び胸の前で両手をクロスさせ、エネルギーを溜め始めた。両腕に力が溜まっていくのが感じる。
「技名を一緒に叫ぶよ!」
「おお!」
怪獣側は光線技が使えなくなったからか、こちらに突進してきている。
俺達は交差させた両腕を思いっきり振りかぶった後、両腕を前に伸ばし、両手に拳作った。俺はこのタイミングで技名を訊くことにした。
「ところで技名はなんなんだ?」
「あ」
「?」
「考えてなかった」
「……さっきからなんなんだよそのノリはぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
結局俺は雄叫びをあげながら双方の握り拳から謎の真っ青名称不明光線を放射した。だが威力は絶大なようで、怪獣に光線が命中した瞬間、怪獣は後退しながら火花をあげ、あっという間に爆散した。
「勝った……のか……?」
「どうやらそのようみたい」
巨人と一言交わした直後に俺の意識はフッとログアウトした。
次に俺が目を覚ますと、心配そうに俺の顔を覗く姫華の顔が俺の目に映った。どうやら戦いのご褒美として、彼女に膝枕をしてもらっているようだ。
「何かやましい事を考えてる訳ではないでしょうね?」
「いや、別に。ただ、姫華の太ももは心地がいいなって思っただkいてててて! ちょ、耳引っ張んないで! イタイタイタイタイ!」
彼女は呆れ顔をしながらも、こう言った。
「はぁ、でも約束は守れるぐらいの男ではあったみたいね」
「まあな」
そんな感じでお互いの無事を確認した俺達の元に先程の巨人が近づいてきた。
「あ、さっきの巨人。あの……助かった。本当にありがとな」
「当然の事をしたまで。愛する蓮也のためならお安い御用だよ」
「なあ、なんで俺の事を知ってるんd」
「そうだった、まだ私の方から名乗っていなかったな! 私の名前はアクアブレイブゥゥゥゥ!!!!」
巨人に会話のペースを握られながらも、なんとか名前を知る事が出来た。
「アクア……ブレイブ? 名前までアクアラピズに似てるんだな……」
「恐らく君達も気になる事が多数あると思う」
「ああ、特になんで俺のことを知っているのk」
「私からも君達に伝えるべき事があるから、話をお互いにしようか!」
「ちょ、俺の話を聞けって!」
夕陽に照らされ、胸を張っている巨人-アクアブレイブは俺からのレスポンスに対し、オールスールをかましながら話を始めやがった…
そしてここまでが、「今」に至るまでの回想。
これからは読者の皆と歩みを合わせていくことになるが、引き続き『蒼炎戦士アクアブレイブ』への応援、よろしk
「蓮也ぁぁぁぁぁ!!!!さっきから誰と話してるのぉぉぉぉぉ!!!!!」
「うるせぇ!! 人が話してる間くらい、静かにしやがれぇぇぇ!!!!!」
本エピソードをご覧いただき頂きありがとうございます。前回のEP0から1エピソード辺りの文量が増えてしまい、大ボリュームになってしまいました。
まずは怪獣、そして本作のヒーロー、アクアブレイブの登場を描けた事に一安心しているところでございます。
実は2話の制作にあたって、これからはナレーションの視点を第三者目線にしていこうかなと考えております。
あくまでEP1までは蓮也君視点の回想でしたから。
次回も3月中には投稿しようと思っています。
また、これからの作品制作を円滑に行うためにも、皆さんからのご指摘、ご意見、ご感想をお待ちしております。
※私自身豆腐メンタルでありますので、可能な限りマイルドな言い方でお願いします。