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世紀末反抗期  作者: syi
9/13

第8話 哀感

  「大変…「哀感」だわ…」


 そいつは虚な目をして、ヨレヨレのスーツの様なものを着ていた。しかし、中年男性の姿ではあるが、何かモヤが掛かっている様な、はっきりしない見た目をしていた。

「何デダヨォ… 哀シイヨォ… ナァ…何デダヨォォォォォォ!」

涙を流しながら呻くような声を出した。再び目を凝らして見ると突風が吹き、姿が消えた。

あれ…?姿が消え…


 バシィィン


 痛い…血が出ている…?俺は、殴られた…?ほんの一瞬でどうやって…?

俺は岩に身体を叩きつけられ、特に強打した頭からは血が流れていた。目の前が真っ暗になり、力を入れても、指一つ動かなかった。

全身が痺れているみたいだ…動かない…?意識が朦朧とする…あの時とは違う…


 また、あのときと同じの声が聞こえた。

ー望月龍成ノ身体ヲ強制的ニ使用シマス。ー

相変わらずの無機質な声。だが、朦朧とした意識の中、俺は必死に思った。

あぁ…そうか…勝手にしやがれ…


 俺は意識の中に深く深く落ちていき、夢を見ているような気分になった。

動かなかった筈の身体は立ち上がり、哀感にゆっくりと近付いていった。

宵は剣を使って哀感と戦っていたが、全く歯が立たず、劣勢の様子だった。しかし、俺に気付くとほんの少しだが、表情が柔らかくなったが、その隙を突かれ、殴り飛ばされてしまった。

「天邪鬼、理解不能ヲ使用シマス。」

視界が澄み、哀感と宵の動きがスローモーションに見えた。

アイツの顔が段々とはっきり見えてきた。男…?

男は涙を流しながら悲痛な叫びを上げた。

灯花とうか梨花りか…何で無視するんだよぉ… 俺は…お父さんは…こんなに仕事を頑張っているのに… 「おかえり」ぐらい言ってくれよぉ… 何でだよぉ…何デダヨォォォォォ!」

この世のものだとは思えない程に顔が歪み、黒い霧の様なものが噴き出した。周りが黒い霧で包まれ、啜り泣く音がそこら中から聞こえる。

「龍成くん!何処!?大丈夫!?注意して!」

飛ばされた宵の声が随分と反響して聞こえた。

居場所がよく分からない…

「理解不能ヨリ、「汝、名を示せ」ヲ使用シマス。」

支配された身体は宵を捜さず、俺がまだ使えなかった「理解不能」の持つ力を使った。

なぜ宵を捜さない?哀感を倒す方が優先的なのか?

考えを巡らしてどうにか身体を取り戻そうと思った時、とてつもない頭痛がした。

何かが流れ込んで来る…?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そこは、ごく一般的家庭だった。大して裕福と言うまででもなかったが、とても幸せだった。娘の梨花が生まれてからは、特に。俺は、写真を撮るのが趣味になった。少しでも幸せを保存できるように、いつでも懐かしむ事ができるように。そうだったのに…

「ただいま…」

梨花は16になり、高校生になった。反抗期が続いていたが、それに追い打ちをかけるように彼氏ができた。

俺も妻も接し方に困り、意見が食い違うようになってしまった。それから家族関係が悪化し、すっかり話さなくなってしまった。

今日も「おかえり」もないのか…

テーブルには既に冷めきった夕飯が置かれていた。


 ガチャ


 部屋から妻が出てきて言った。

「今日は早かったわね。ちゃんと働いたの?給料上げてよね?」

「わかってる…」

いつもこればかり…今日は大きな仕事を任されたというのに…

「あ、帰ってきてたんだ。」

「梨花…」

「昨日勝手に部屋に入ったでしょ。」

「あぁ…すまん…」

「やめてよね、ただでさえ加齢臭がすごいのに最近はハゲてきて、お腹も出ているんだから。キモい。」

「わかった…ごめんな…」

「じゃあ、とっとと失せて。」

二人のために仕事を頑張っているのに…ハゲてきたのも、仕事の疲れからだというのに…こんなに尽くしてやっているのに…なぜこうなってしまったのだろう…何でだよぉ…何デダヨォ…哀シイヨォ…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 この男の過去か…?哀感は、人の哀しみなのか…?

怨のときよりも鮮明な映像に戸惑ってしまった。

「天邪鬼、鼓舞」

宵の声が聞こえたと思った同時に黒い霧が晴れ、哀感の姿がはっきりと見えた。

宵が哀感に触れ、優しく囁いた。

「哀しかったんだね。もう、大丈夫よ。きっと」

哀感は涙をながし流し、その泣いた顔が幼子のようになった。そして、少しずつ形が崩れ、散っていった。

安心した顔をした宵が俺にも近づき、触れた。深い意識から光が差し、俺は上に引っ張り上げられるように身体の主導権を取り戻した。

「ありがとう。」

「お互い様よ。」

とっくに日は上り、俺らは大したケガもせず、拠点に生還した。

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