第5話 世紀末
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
俺は今、とてつもない速度で落ちている。どこまで落ちるんだよぉっっ!?
なぜこうなったかと言うと…
遥が世紀末に行こうと言った途端、足元が青色に光り、魔法陣の様なものができた。
「これは?」
「世紀末への入り口ぃ」
「…マジか…!」
そのまま転移魔法的なやつで…と思って胸が高まったが、案の定、大きな穴がパカッっと開き、身体が一瞬浮いた。
「…だよな…」
「ん?何がぁ?( ^ω^ )」
遥の笑顔と今の状況の矛盾に絶望した。予想通り、そのまま真っ逆さまに…という感じだ。
ずっと落ちていていつ着くかが分からないし、周りは一筋の光すら差し込まず、真っ暗だ…
肝心の遥は俺の少し先を落ちていて、楽しそうにして笑っているし、慣れてんのか
「腹立つなぁ!おいっ!」
「キャハハァッ(*≧∀≦*)」
しばらく落ちていたとき、急に光が見え、景色が変わった。厚い雲がかかり、異様な雰囲気が漂っている。植物も枯れ、黒ずんでいた。
ドンッ
俺は空から落ちていたのだった。
顔面から着地したせいか、身体全体がすごく痛い。岩の上にでも着陸したのだろうか?
「痛っ…っ」
起き上がり、立ち上がろうとして手をついた。下を見たら黒い岩の様にゴツゴツしていた。
やはり岩か… ん?脈のようなものがある…?なんか…温かい… 生き物…?そんな訳無いよ、な…?
グオォォォォ!
やっぱり…
「生き物じゃねぇかあ!?」
そいつはお構い無しに立ち上がり、走り出した。俺は背中から振り落とされ無いよう、必死で背中の突起を掴んでいた。
何が悪かったのだろうか…?そいつは俺が乗っている背中を思いっきり崖に打ちつけながら走り続けた。
頭上から落ちてくる岩を避けるのが精一杯になり、俺は手を背中から離してしまった。
「こういう時に遥は何処にいるんだ!?」
あいつ、マジで役に立たねぇなぁ!?
落ちながらも姿勢を直し、受け身を取って今度は無事に着地した。受け身を無事に取れた事を安心していたら、黒い、ティラノサウルスの様な見た目をしたそいつは、立ち上がり切れずに逃げる俺を追いかけてきた。体制を立て直しつつも、岩場を必死で駆けた。途中には骸骨の様なものや血溜まりなど、皆が考える地獄の様な景色だった。だが、少しでも目を逸らしたりする事が出来ないほどの足場の悪いところを何度も転びそうになりながらも逃げ続けた。小川を越えたり、巨大な倒木をよじ登ったり…
派手に岩を飛び越えたとき、すぐ目の前が崖になっていることに気が付いた。
「…ヤベ…っ」
受け身を取り、崖から落ちる寸前の所で止まった。
後ろを振り返ると、あいつは既に真後ろにいた。
遂に追い詰められてしまった…後ろは崖、横は…どちらも断崖絶壁。
…しまった…終わった…
目の前が真っ暗になり、踏み潰されそうになった瞬間、風が強く吹いた。
「ギリギリセーフ!」
ビュォォゥゥッ
…俺は…空中にいた。
「セーフじゃねぇ!アウトだ!」
遥がやったらしい。風が気持ちよかった。足下には巨木の森があり、斜め下には俺が先程いた崖と思わしき場所があった。
にしてもコイツ…何処行ってたんだ?
「ごめんねぇ、まさか落ちる場所違うとはぁ」
のほほんとしすぎだろ。
遥は手を合わせ、ごめんと、復唱した。
「あいつは?」
「あいつ?下だよぉ」
下を見ると、俺を追っていたあいつが小さく見えた。
「放置していて大丈夫なのか?」
「流石にここまでは届かないしょぉ!」
「…そ、そうなのか…」
「で、りっちゃんの天邪鬼目覚めた?」
「な訳ないだろ!」
天邪鬼は、この世界に来てすぐに目覚める人が多いらしい。
「俺に聞くくらいなら、遥、お前の天邪鬼は?」
「えっーとぉ、「不動」だよぉ」
それって動かないヤツじゃねぇかと言ったら、「天邪鬼」は能力名と実際の能力が逆になると教えてくれた。
つまり、遥は、「何処にでも移動できる」ということか…だから今、空中にいるのか。
ズウゥゥゥゥン
地面が揺れ、土煙が起きているのがわかった。
少し下を見ると、さっきのヤツがずっと大きく、人型に姿を変えていた。なんとも言えない、禍々しい姿だった。
そして、こちらに勢いよく、手を伸ばしてきた。
「…おい…大丈夫だって言ったよな…?」
「メンゴo(^-^)o」
「おい!」
「やっばぁ!間に合わん(*゜▽゜*)」
目の前にまで手が伸ばされたとき、そいつの動きがスローモーションになった。
…ユルサナイ…死ネェ…
頭の中に、無数の人に対する怨み声や憎悪が流れ込んできた。
…何だ…これ…?頭が、割れそうだ…
かろうじて頭を上げると、そいつは突如、動きが止まった。そしてモヤが晴れ、ばらけるように小さくやっていって小動物の様な姿になった。
…頭の痛みが…無くなった…?
ー貴方ノ天邪鬼ハ、「理解不能」デス。ー
関係無しに頭に直接響く無機質な声。
「理解不能」?俺の天邪鬼か? 不能… なんでも理解出来る、分かるという事か…?
「…りっちゃんがやったの?」
「そういう事…らしいな」
遥は唖然としていたが、すぐに「すごいよぉ!すごい!」と喜んだ。
ドゥゥゥゥン
地鳴りと共に森の方から木々を薙ぎ倒してこちらへ歩いてくる巨体が見えた。またあいつの仲間か?今度は牛の様な姿をしていた。
さっきと同じように…俺の天邪鬼で…
「りっちゃん、血っ!」
…血…?
足場に鼻から血が垂れているのが分かった。
焦点が合わない…意識も何故か朦朧とする…
俺はそのまま後ろへと落ちていった。