第4話 実夢
俺が家出をしてから3日が経った。
そろそろ、遥の言っていた「世紀末」に行きたいと思って眠りについた翌日の朝の、少し不思議な出来事だ。
朝…?もう、家出から3日目か…にしても眩しい…
「…おい…遥…眩しいな…カーテン、開けんなよ…」必死に眠気を覚ましながらそう言って目を開けると、眼前にあったのはアホな遥の顔では無く、中等部からのクラスメイトであり、親友の竣の顔があった。
何故だ…?
「お前の幼馴染の名前かぁ?」
俺の前の席に後ろ向きに座り、ニヤニヤしながら聞いてきた。
こいつは本当にこういう話が好きなんだよな…めんどくせぇ…
「そうだが、なん…だ?」
「久しぶりに学校に来た途端に寝たと思ったら、第一声はそれなかぁ?もっと無いのかよぉ?「竣様、本日も誠にイケメンで御座いますね」とかぁ!」
「学校に来た」?竣の言葉が何を指しているのかがよく分からなかった。と、言うよりも現状が全くもって理解出来ていなかった。
俺はいつ、どうやって学校に来たんだ…?ちゃんと制服も着ている…何時着替えたんだ…?
「さっき言ってた「はる」って子、龍成の幼馴染なんだっけ?可愛いのか?可愛いんだな?可愛いんだろぉ?」
なんだその「そうなのか、そうなんだな、そうなんだろ」みたいなヤツは。
俺の脳内に遥の顔と声が浮んできた。
あいつが可愛い?んな訳ないだろ。あんなヤツが、そんな訳…
「お前言っていたよな?好きなヤツいるって、可愛いってさぁ!」
「違う、別のヤツだ…遥じゃねぇ」
即答した。結論、あいつは、遥は可愛くない。
竣…さらにニヤニヤするな。なんでこいつにとっての「NO」って「YES」になるんだよ?何の変換法だよ?めんどくさ…
「龍成ちゃぁん〜アンタは本当に羨ましい限りよぉ。授業中の寝ていてもこの前の期末テストは上位だし、呼吸しているだけでイケメンだし、モテるし…」
竣は俺の席に頬杖をしてオカマの真似事をやってのけた。
「うわっ、急に変な声出すな…つうか、何言っているんだ?お前も俺よりずっとイケメンだろ。この前、2組の女子らが言っていたぞ…」
俺の「お前イケメン発言」に竣は目を丸くした後、すぐさまに笑顔になった。
顔面から光のオーラが溢れ出ていやがる…眩しい…
というか、竣に犬の耳と尻尾が見える様な…
「マジ!?誰!?」
「雛田…だったか」
「マジ!?よっしゃぁ!」
竣が全力でガッツポーズを作った。全身から喜びが溢れ、犬感が更に増していた。
…なんで俺、学校にいるんだ?
ついさっきまで、拠点?で寝てたって言うのに…?
ずっと考えていたが、答えの出なさそうな事だからと考えるのを諦めて、再び寝ようとしたとき、
「なぁ、話変わるけどよぉ、お前家出したってマジ?」
周りに聞こえないように小声で竣が言った。
「この前、お前の母さんが学校に来て、先生と話しているとこを聞いちゃったんだけど…」
母さんが…本当に迷惑だな…そんぐらいほっといて欲しいもんだ。
「…本当だが?」
興味本位で聞いたことが事実だったからか、竣は信じられない顔をしていた。それから、どうすればいいものなのかと考えていた様だった。
「じゃあさ、お前、どこで寝泊まりしてんだ?っていうか、学校に来ていいのか?」
更に声を潜めて言った。
遥と一緒に拠点のビルで…なんて言ったら、こいつはすぐ、変に解釈するんだろうな。適当に親戚の家だとでも…
「…近くの、親戚の家だ」
「…そうなの、か?だったら安心するよ。廃屋にでも入り浸っているかと思った」
竣は不安で仕方がない様子だった。
俺に対してどういうイメージ持っているんだよ。とにかく、信じてくれたようで助かった。
にしても、俺はどうやって学校に来たんだ…?
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クラスメイトの木田が竣に話しかけてきた。
「竣くん、誰と話しているの?龍成くんの机に話しかけてさ?」
木田にとっては純粋な疑問だったのだろう。だが、俺はひどく困惑した。
木田は何を言っているんだ?俺は今、竣以外のヤツには見えていないのか…?
竣も困惑していた。今さっき、俺と話していたのに竣以外のヤツには見えていない… 竣が困惑した様子を見て、木田も軽くパニックになっていた。
「え、だって、龍成…」
「え?龍成くんはいないと思うけど…」
この言葉を境に、フィルターが掛かった様に少しずつ2人の声が遠くなっていく…姿も、何もかも…クラスの皆も…
とても眠い…とても…
「おっはよぉう!」
遥の声が聞こえる… これは、はっきりと。
「もう10時だよぉ!何時まで寝ているのさぁ!」
重たいまぶたをこすって、聞いてみようと思った。
「…あぁ、おはよう… なぁ、さっきまで…」
「?」
いや、このことは言っていいのか…?学校に行って竣と話したなんて… きっと夢だろうけど…
「さっきまで、何?」
よし!めんどくさくなる予感しかしないから言うのやめよう。
「…何でもない。」
少し疑問が残ったような顔としていたけれど、そのほうがよっぽど楽だ。
突然、遥は何かをひらめいたのか、
「これから異世界に行こう!」
といつも通りの満面の笑みで言った。
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突然、龍成が消えた。ついさっきまでずっと目の前にいて、話していた筈なのに。
眠かったから、幻覚でも見たんじゃない?ってみんなは言ったけれど、少しどころか、大分、信じられない。
だけど、まさか本当に家出をしていたとは。
ー…近くの、親戚の家だー
龍成の眠そうな声が甦った。
ん…?少し返事に間があった様な…
いつも、話す言葉に間があるとアイツ、嘘ついているんだよな…
って事は… いや待て?本当にそうなのか?もし、何かあったら?
龍成には申し訳ないけど、少し探ってみようか…