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世紀末反抗期  作者: syi
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第1話 反抗期

 この世界は理不尽だ。とにかく生きづらい…思い通りになる事なんてまず無いだろう。他人との人間関係は勿論、自分の感情、身体でさえも。笑顔でいれば好かれ、少しでも不満を表すと敬遠される。ずっとそうだ。仮面を作れば作る程、「自分」が分からなくなる…俺は、どうしたいのだろう…家族を、仲間を傷つけたい訳では無いだろうに…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「うるせぇ!!」

 

 ガッシャン


 そこには一般的な家庭の夕食の光景が広がっていた。

テーブルから落ちたハンバーグ、怒りで椅子から立ち上がる母親、スマホを見て澄ました顔をする息子…

「なんでこんなことをするのよ!」

と、母親が怒りを露わにした。こんなことは、何度目だろうか。また、こうなってしまったと、悲しみが込み上げてきていた。

「いや…なんでって言われてもさ…おばさんの手垢付きの肉団子なんて食べられる訳無いだろ…」

露骨に嫌そうな顔をして、怒りで形相の歪んだ母親をで睨んだ。

何度目だ…?何故、こうなる…?

母親の怒りを他所に、彼は立ち上がり、冷蔵庫や棚からスナック菓子やウインナーなど、すぐに食べれそうな食品を取り出した。夕食を食べることは拒否したが、何か食べ物を食べなければ部活帰りの身体は空腹で堪らなかった。

「龍成!」

母親の甲高い怒声が背後から聞こえた。

彼がリビングから出ていこうとするのを見て、妹が悲しそうな目で見つめた。

「お兄ちゃん…このハンバーグおいしいよ…一緒に食べようよ…?」

それを見た父親が先ほどまで中立だった態度を一変させ、息子に対して冷静に言葉を発した。

「そうだ龍成、いのりもそう言っているんだ。お母さんに謝って食卓につきなさい。」

父さんもそうなんだな…どうせ俺のことなんてわかってくれる訳ないな…

母さんの味方なんだな…いのりも…話なんて通じる訳がない…

「待ちなさい!人の話を…」

「うざい。」

母親が自分の腕を強く爪を立てる様に掴んだ手を払い除け、リビングから出ていった。


 自分の部屋に入り、パソコンが起動した。

ゲームの画面が表示され、

「@B:Dragon!明日、新しいイベントが開催されるらしい!一緒にやろう!」

「今日は冒険できるか?」

というゲーム仲間からの通知がたくさん来ていた。

今度はスマホから通知音が聞こえ、画面を開くとクラスメイトからのメールが来ていた。

「宿題教えて!良ければ見して!頼むよぉ(笑)」

「今日の佐藤先生(サトセン)(58歳)やばかったな!いつも以上に認知症がwww」

大切な友だちからのメールを読むと、面白さよりも黒い気持ちが込み上げてきた。

なんて友だちと一緒にいるとこんなに楽しいんだろう…それなのに俺の家族は…

…何で…何で、俺は…素直にならないんだろう…?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 コンコンコンッ

 

 「…お兄ちゃん…入っていい…?」

「…あぁ。」

ドアを静かに開けて部屋に妹が入ってきた。

「…どうした?いのり。」

「…クッキー、食べる?」

そういえば、今日、母さんとお菓子作りするって言っていたな。

妹が恐る恐る差し出した袋詰めのクッキーを受け取った。

「ありがとう。」

俺が いのり の作ったクッキーを食べ始めると嬉しそうにしていた。

「食べたいのか?」

「んん。お兄ちゃんの分。」

試しにクッキーを差し出して見ると、案の定、食べたかったのを必死に我慢していたのだろう、美味しそうに食べた。

9歳も離れていると、嫌でも可愛く見えるもんだな…

そして、何かを思い出したかの様に頭をフルフルと振り、言った。

「お、お兄ちゃん…お母さんと、仲直りして…?」

今にも泣きそうな、一生懸命に絞り出した声だった。

こいつに何が分カル?俺ノ何ガ…?無知ナ奴ガ何ヲ言ウ…?

「黙れ!お前に何が分かるんだ!いのり に…」

今まで妹に対して持ったことの無い感情が込み上げた。ゲーミングチェアから勢い良く立ち上がり、拳に力を入れた。

「きゃぁッ!」

急に我に返った。いのり は泣きそうになっていて、手で頭を守っていた。

「…ごめんなさい…ごめんなさい…」

泣くな…俺が悪いのに…

「…すまない…ゲームやらせてやるから…」

優しく頭を撫でてやると、本当!?と言って、いのり はすぐに笑顔になった。

 扱イ易イ奴ダ…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 小1時間ほどゲームをしていたとき、突然、魔が差した。

剣道部部活動ジャージからデニムパンツと黒いパーカーに着替え、スマホとパソコン、モバイルバッテリー、ヘッドフォン、財布、鍵をショルダーバックに入れ、竹刀を持って1階へ降りた。

リビングからは母親と父親、いのりの話し声が聞こえた。

「なんでこんな風になってしまったの…?」

「仕方が無いよ。龍成だってそういう年頃なんだ。」

「でも…」

「お父さん…お兄ちゃんは「お年頃」なの?」

「そうだよ。いのりもお兄ちゃんぐらいになればわかるよ。それより、お風呂に入ろうか。」

「うん…」

そんな会話を聞きながらばれないよう、そっと静かに玄関を出た。


 自転車に乗って20分ほどが経ったときのことだった。距離的には軽く5kmを越え、市立の図書館の近くへと来ていた。

「あっれぇ?なんでこんなところにチビで泣き虫でお馬鹿なりっくんがいるのかなぁ?おっかしいなぁ?」

聞き覚えのある…いや、嫌なほど聞いた声が聞こえた。オレンジがかった茶色の髪のポニーテール、焦げ茶の瞳…

「なんだよ遥、お前こそ今何時だと思ってる?」

「20時くらい?」

完全にとぼけられた。それよりも、新しく買ったこの白のロンTとブラウンのミニスカどう?と、俺にとって、どうでもいい事を聞いてきた。

「23時だ。」

「時間が分かっているのにぃ、なんでこんなところにいるのかなぁ?もしかして家出!?」

絶対に分かっているだろうというのに遠回しに聞いてくるところが憎たらしかったが、返す言葉もなかった。

「家出かぁ。そっか!チビで泣き虫でお馬鹿なりっくんも反抗期かぁ(染み染み)」

「昔のことだろ。今はお前よりも背は15センチ高いし、学力も上だ。」

そうかそうかぁと言わんばかりに遥は俺の周りをウロチョロした。

「そういえば、お前はなぜ外に?」

彼女の口角がグンッと上がり、満面の笑みを浮かべた。

「うちもね、今思春期なんだ。だから、世界を救っているの。」

ついにこいつ、頭がおかしくなったと思ったが、とてもワクワクした。


 「ねぇ、一緒に世界を救ってみない?」

街灯の明るさで普段は見えない星が眩しいほどに(またた)いていた。

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