第12話 嫌悪
あの夢を見てから1週間が経ったが、それ以来、「声」は聞こえず、目にも異変は起きなかった。アーシィムとやらから届いた手紙の内容もイマイチ信憑性がない。確かに俺宛てだったが、人違いなんじゃないかと日に日に思う様になった。
「ちょっと散策でもするか…」
俺はベッドから起き上がり、リビングに行った。
「あ!りっちゃん!」
「どうした、遥?」
遥は忙しない様子で俺に話しかけてきた。
「あ、あっのっねっ!」
「落ち着け…」
「無理ぃ!」
「何でだよ…」
俺はとにかく遥について行った。拠点からしばらく歩き、穏やかに滝が流れ下る、自然豊かな森の奥深くに着いた。
「で、何だよ?遥?」
「あのね…」
遥らしくない、真面目な顔だった。俺はつい、固唾をのんだ。
「あのね、実は…」
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「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「「!?」」
突然、遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。森の中で反響してよく聞こえない…っ
隣にいる遥を見たら、遥の雰囲気が変わった。急に、俺らは悲鳴の元に転移した。
「た、助けてっ!」
一人の人が怨に襲われていた。この前に見た、哀感のような怨。しかし、なかなか攻撃せず、ただ、人を追いかけていただけだった。
「理解不能ー汝、言ノ葉とせよ」
俺はヤツに向かって、手を翳した。
「嫌ダァァァァ゙ァ゙ア゙!」
ヤツが幼子のように叫んだと同時に、天邪鬼がかき消された。俺は舌打ちをし、再び攻撃をしようとした。
「クッソ…ッ 理解不能ー其の時を…」
「効かないよぉ。「嫌悪」だもん」
脳天気なトーンで遥が言った。
「…嫌悪?」
「うん。嫌悪が拒絶したものは無効化しちゃうのぉ」
ヤツのことを知っているかのような口調。
「戦ったことあんのかよ…」
「まあねぇ、ボロ負けだったケド」
「…マジか…」
「だけどね?」
遥が嫌悪の目の前に行き、俺を見つめ、小さく「見てて」と言った。
すると、一瞬で嫌悪が消えた。というより、解かれた。
「…」
俺は先ほど見た光景を信じられなかった。遥が何か違う、神々しい姿になり、一瞬で嫌悪を倒した。とても美しい所作で、残酷に。
襲われていた人は?と思い、俺は我に返った。
「大丈夫ですか?」
その人は木の一番上に登って、震えていた。
「どうやって登ったんだよ…?大丈夫ですか!」
俺らが怨を倒したのだと知ると、静かに降りてきた。
「…すみません…」
深々と頭を下げた。俺と遥はすっかり困り果ててしまった。
「どうする?りっちゃん?」
「どうすると言われてもな…」
俺と遥はすっかり困り果ててしまった。
「仲間と巡回中にはぐれてしまって…」
その人、(マイクと言った)が更に申し訳無さそうに項垂れた。
「本当にありがとうございます」
そんな様子を見た遥が笑顔になった。
「仲間がいるんだったら良かった!次は襲われないようにね!ほら、あっちから君の名前を呼んでいる人が来ているし!」
確かに、大声で「マイク!」と呼ぶ声がだんだん近づいて来た。
その人は安心し、仲間の元へ駆けていった。
「本当にありがとうございました!」
「じゃあねぇ!」
遥は大きく手を振った。
「さっきのって…?」
俺が聞こうとすると、途中で遮られた。
「近い内にプレギっちが来るから、そのときに。」
「…あぁ」
俺の見間違いかもしれないが、その時の遥の表情は、とても険しかった。