AI訴訟関係でTLに流れてきた絵師のやすゆき氏という方のガイドラインを見て、「ガイドラインに書く内容」について色々考えてしまったことをつらつらと。
最近、Twitterで何度か、絵師のやすゆきという方のAI訴訟クラウドファンディングに関するツイートがTLに流れてきました。何やら潤羽るしあというvTuberのデザインを担当した人で、その潤羽るしあのAIを作った人がいて、その訴訟資金をクラウドファンディングで募集しているらしいのですが。
まあ、全体的に情報が分散されている上に不明瞭で、実は違うのかもしれません。何せクラウドファンディングのページですら『私がXにて被害を告発した「AI○○○○○」(※私の著作物のキャラクター名)と名乗るアカウントによる生成AIへのイラスト無断利用の件』と、なぜか相手をぼかした記載になってまして。どういう訴訟をしようとしているのか、いまいちわからないのです。……というか、潤羽るしあというキャラクターの著作権が「今」どこにあるのかも、実は私にはよくわかっていないのですが。
まあ、私は潤羽るしあというvTuberもやすゆきという絵師も知りませんでしたし、この裁判で特に期待するところはなかったりします。
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とまあ、裁判そのものはどうでもいいのですが。色々と見ている内に、この絵師のやすゆき氏という方のガイドラインを見てしまいまして。で、それを見て「依頼を受けて創作物を書くこと」について色々と考えてしまったというか、もやっとしてしまいまして。で、それを少し吐き出しておこうかと思い、こんな文章を書き始めてしまいました。
そのガイドラインについて、ざっくり言うと……
著作権の有無に関わらず、制作した『全て』のイラストにおいて、AIの素材にすることや、そのAIで作成したイラストをアップロードすることを禁ずる。
また、自分が描いたイラストで学習したAIでイラストを生成、アップロードした場合は、枚数×日数×1000円分の使用料を、イラストを追加学習させ、よく似た絵柄のAIモデルを作成した場合は1億円の支払いに同意したものとみなし、そのAIモデルを公開した場合はそのダウンロード数×100万円の支払いを加算して支払うものとする。
……と、そんな感じのことが書かれていたのですよ。
で、「何百万だの億だのの料金を規定し、条件によっては、著作権の有無に関わらずそれを要求する」という内容の規約を自身のHPに掲載する、それも他者の依頼でイラストを描いてお金をもらっている立場の人がそれをするのはちょっとすごいなと、そう思ったわけです。
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「二次的著作物」という言葉があります。ある創作物を元にして何か創作した場合を指して言う言葉で、俗に言う二次創作よりもさらに範囲が広い言葉です。ざっくり言うと、「一つの創作物を複数人で作成する場合、その創作物は各人の創作を組み合わせた二次的著作物となり、全員に権利が発生する」という感じでしょうか。
他にも、小説と挿絵を元とした書籍、文章作品を元にしたコミックや映像作品、ある作品を元にしたグッズと、これらは全て二次的著作物にあたり、「何もしなければ」元の作品の権利者にも権利が発生します。メディアミックスを進めるごとに、権利者がどこまでも増えていくことになりますね。
……ただ、権利を持った利害関係者が際限なく増えていくのは、商売上、あまりよろしくない。なので、関係者が増えすぎないよう、契約時にこの権利のつながりを消すようにするはずです。基本的には、
・金銭的な権利(著作権)については、必要な権利を譲渡するなり利用条件を決めておくなりする。
・名誉的な権利(著作人格権)については、その権利を行使しないと取り決めておく。
と、そんな取り決めを交わしておく。まあ、私は専門家でもコンテンツビジネスの当事者でも無いのでネット頼りの付け焼き刃な知識なのですが、そんな感じだと思います。
……本当のところはどうなんでしょうね。そうしない企業も多いのかも知れないし、逆によほど隙のある企業でない限りはそうするものなのかもしれない。私には正直、どこまで事実なのかは判断できません。
ただ、ガイドラインに「著作権の有無に関わらず」なんて書く位ですからね、そういう取り決めを意識しての記載だと考えるのが自然に思えます。
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創作物でお金を取る。これは基本的には、お金を払う側とお金を受け取る側で同意が取れてなくてはいけないはずです。ガイドラインに何を書いても、相手が読んでいなければそのガイドラインを元にお金を請求することは基本的にはできないはずだと思います。
というかまあ、お金じゃなくても、相手が文章を読んでなくてはガイドラインは発効しないと思います。特に、権利や金銭について問題が発生するようなガイドラインは、相手が確実に読むように対処する必要があると思います。相手が確実に読むであろう場所に記載して、さらに同意をとっておく必要があるのかなと。
もし、自分が好きなvTuberやゲームがあったとして。そのファンアートを描こうとした時、規約は大丈夫かなと疑問に思った時、何を調べますか? 慎重な人なら、その対象となるvTuberやゲームの規約を調べることはあるかと思います。
……でも、その原作者たち、vTuberやゲームの構成要素を創った一人ひとりのクリエイターの規約を調べますか? それを調べないことを非難することはできますか? 私は、調べないことは自然で、非難されることでもないと思います。
もしガイドラインで言及されている「著作権の無い作品」というのが企業と契約して創られたvTuberやゲームのことなら、まず、記載する場所を間違っているのではないかと思います。それは、自身のガイドラインではなく、創られたvTuberやゲームの利用規約に書くべき内容だと思います。
自身のガイドラインに「著作権の有無に関わらず、1億円の支払いに同意したものとみなし」みたいなことを書いたところで、その相手は、そもそもそのガイドラインを見る義務も道理もない。そうではなく、著作権を譲り渡した相手を説得して、vTuberやゲームの利用規約の中に「このキャラクタの二次創作物を作成するAIを作成した場合、1億円をやすゆき氏に支払うこと」という一文を入れなくてはいけなかったと、そういう話だと思います。
……まあ、それは無茶かなとも思いますが。ならせめて、相手がAIを作成、利用していると発覚した時点で自身のガイドラインを相手に伝える。それで相手が一億円の支払いに同意したのならそれでよし、そうでなくてもまあ、公開停止を求めるくらいはできると思います。
まあ、それも正直、企業にとっては迷惑な話ではあるだろうし、信義的にもどうかとは思うのですが。ただ、問答無用で一億円の支払いに「同意したものとみなす」よりははるかに要求も軽く、理解できうるものだと思います。
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結局のところ、このガイドラインは、「著作権の有無に関わらず」と書いて、さらに法外と言ってもいい金額を請求している。そこに私は「もやって」いるのだと思います。
あのガイドラインは、色々と危ないと思います。うっかり見逃すだけで一億だのと請求され、日ごとにその金額が積み上がっていくようなガイドラインは、正直物騒にすぎる。本当に実行されればその人の人生を破滅させるようなことが書かれているガイドライン、私は初めて見ました。
まあ、日本は法治国家ですし、あの「相手の人生を破滅しかねない」ガイドラインが、そのままの形で発効することはまず無いと思いますが。
人間、何かのきっかけであんな強烈なガイドラインを書くようにもなってしまうのでしょうね。正直、そんなことは無いと思いたいのですが、私自身、あんな強烈なガイドラインを書くようなことが無いよう、注意したいと思いました、まる。