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理想世界を目指して  作者: ハレバレ
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世界の始まり

よろしければご覧ください。


 いつからだろうか。夜に電気が点かなくなったのは。


 いつからだろうか。水が透明ではなく泥色に変化したのは。


 いつからだろうか。共に笑いあっていた友人が姿を消したのは。


 いつからだろうか。親や兄弟、親戚全ての関係が絶たれたのは。


 あの日戦争が勃発した。初めそのことを聞いたのは無関心に見ていたテレビの中からだった気がする。だが、この国に住む全ての者がどこか遠い世界で起こった悲劇ぐらいにしかその時は感じていなかった。


 それでも時間が経つにつれてネットでは「戦争」という言葉が飛び交い目につくようになっていた。それに伴い自分たちも安全圏にいるとはいえないのではないかと数人の者が声を上げ始めるようになった。だがそれもしばらくすると陰謀論と言われ、街の中でそんなことを騒いでいれば頭のおかしなやつと思われるだけだった。


 いつの時代も少数の意見というのは例えそれが正しくても、多数の声にかき消されてしまうのが常である。


 その「頭のおかしな奴」が現れ始めてから二年が経過したころだったろうか。次第に目にするものの多くに戦争に関しての文言が現れ始めた。そのあたりぐらいだろうか国が徴兵制度をとりだしたのは。

これまでは志願という形で存在していたものが強制に移り変わっていた。その速さと言えば国民が声を上げる暇もなくトントン拍子で決まっていった。


 そして、気が付けば戦場に立っていた。それまで画像や映像でしか見たことが無かったような人を殺すためだけに作られたものが手の中にはあった。


 初めて人を撃ち殺したときの感覚は今でも焼き付いている。引き金を引くのは一瞬だった。その刹那一人の人生が幕を閉じたのを確かに感じ取った。その時は自分が死ななかったという安堵の気持ちと同時に後悔の念が胸を満たした。


 だが、今にして思えば撃ち殺されたあの兵士は幸せだったのかもしれない。なぜなら戦争が長引くにつれて、倫理観というものが無くなっていき、神経をむき出しにされ針で刺されるような痛みを数年に渡って感じさせたのちに死に追いやる兵器や皮膚が蜂蜜のように溶けていき、その爛れた皮膚が腐ることによって感染症を生む兵器。こうしたどれだけ人を苦しませて殺すかを極めたような兵器が次々に製造されていった。


 まだ他にもあるがそれらを全て列挙していてはいくら時間があっても足りない。それほどまでに夥しい数の兵器が作られた時代だった。だがそうした非道な兵器作りが活発化していったのはある一つの兵器が登場したことが原因であった。


 そして今現在どのような状況なのかを説明すると簡単な話である。世界は完全に荒廃した。記憶は定かではないが確かどこかの国が核兵器を使用したことによって報復としてまた別の国がそれを使う。そうして世界中の大地は割け、植物は枯れ果て動物が消え去りそれに影響を受け食べ物が無くなり人類の大半は死滅した。

 

 これは、僕が幼いときに生きるために仕方なく共に生活していた老人連中から聞かされ続けた話の一つである。ほとんど毎日聞かされていたから今でも暗唱できる。

 

 何度聞いてもふざけた話だと感じた。兵器を作っていた奴も、それを使うように指示していた奴も、指示どおりに使っていた奴も、まさか兵器に殺されるのでなく食糧不足で死ぬことになるとは思ってもいなかっただろう。どれだけ金を生み出してもその金を使う対象が無いのならば金は価値を生み出さない。そのことには気が付けなかったようだ。


 だが、ほとんどがそんなくだらない内容だったが一つだけ気になる話があった。


 それはこの世界のどこかには争いもなく、おいしい食べ物がたくさんあり、常に清潔な場所で寝ることができ死に怯える必要のない夢みたいな場所があるって話だ。 


 幼いながらにその話が本当だったらどれだけ良いかと何回も考えた。だがそんな場所はこの腐りきった世界を見ていれば自然と理解できる。作り話だと。


 だがある日、それは途端に現実味を帯びていった。


 「あるよ、その夢みたいな世界は」


 それが少女との初めての出会いだった。

読んでいただきありがとうございます。

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